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18話

 会場で行われる催しは様々で先程の劇団から楽団などだけでなく、出席している貴族の部下や、珍しいところでは貴族自ら何らかの出し物をしていた。

 アウラ自身は特に芸術や芸能にあまり詳しくはないのだが、友人と何かを鑑賞すると言うのはそれだけでとても楽しく、そんな時間はいつの間にか経っているものだ。


「アウラ、そろそろ時間だ」

「………うん」


 とある有名な楽団の演奏中、アルクに声を掛けられてアウラは頷く。すると、その様子を見ていたセリアが、少し緊た様子の彼女に声を掛ける。


「ついに出番ですのね。何をするかは知りませんけど………私は応援していますわ」

「セリア………うん、ありがとう。行ってくるね」


 セリアに背中を押され、アウラは列から外れる。そんな後ろ姿を見送ったセリアとヘレンだったが、愉快そうにヘレンがセリアに声を掛ける。


「あの子、何を見せると思う?」

「まったく見当もつきませんわ………でも、きっと私たちの想像を超えるものを見せてくれると思うんですの」

「へぇ………」

「何か引っかかることでもありまして?」

「いや、そうじゃないさ。ただ………いや、やっぱりやめておこうか」

「はぁ?一体何なんですの………?」


 セリアはヘレンの態度に文句を言いつつ、二人はクライマックスに入った演奏に耳を傾ける。もう間もなく、この演奏は終わるだろう。そうすれば、彼女の出番だ。セリアは期待しつつその時を待つ。

 そして両親、そして友人の期待に背中を押されながらアウラが向かった先は、会場にある広いテラスであった。太陽は完全に沈み、雲のない夜空が彼女を迎える。それを見て、アウラはぎゅっと胸に手を当てて拳を握る。


「もし、ボクの声が届くなら………」


 彼女が起こした奇跡。自らを代価にしたそれで、自分の今があって、彼女は彼女自身を託し、繋いだのだ。

 一度奇跡を起こせたのなら、今の彼女にも出来るはずである。けれど、受け継いだ夢を終わらせることなど出来ようか。


(………もう一度奇跡を求めるのなら。今、この時しかない)


 会場内から聞こえていた演奏が終わる。そうして幕は上がるのだ。少しの静寂の後、会場にアルクが立つ。その姿をテラスから見ていると、不意に彼と目が合って………互いに無言で頷く。そして、彼は注目の中で話し始めた。


「お集まりの皆様!次の演目は我が娘、アウラ・アルファーネが披露する舞台となります!」


 その言葉に、会場内にざわめきが起こる。「あんな娘に何が出来る」「呪いを振りまく儀式ではないだろうな」「ろくでもないものに決まっている」などという心無い言葉も聞こえ、その喧騒の中にいたセリアは周囲に飛び掛かりそうな所を必死にヘレンが宥めていたが、アウラ達は既に周囲のそんな反応は予想していた。胸が痛まないわけではないが、それでもやると決めたのだ。アルクは周囲の言葉を制するように声高に続ける。


「受け入れられぬ者もいるだろう!【呪い子】、【呪われた娘】と蔑むものもいるだろう!あの子は祝福されぬものだと!!………しかし、私はそうは思わない!!」


 そういったアルクはテラスの方角を仰ぎ、皆の視線を誘導する。テラスでは胸に手を当てて目を閉じて、まるで夜空に祈るかのような星の光に照らされるアウラの後ろ姿があった。皆の視線がそちらに集まったのを見て、アルクは続ける。


「あの子は!これまで多くの奇跡を起こして私を驚かせてきた!余命は残されていない、一生喋ることはない、自ら歩くことすら難しい………生まれながらにそう言われた子が、こうして今ここに立っている!そして、彼女はこれから新たな奇跡を見せるだろう!!その瞬間を、どうか見届けてほしい!!」


 アルクがそう締めくくると、アウラは深呼吸をして………胸から放たれる微かな光の欠片を掴んで夜空に掲げ、言葉を紡ぐ。


「流れゆくもの。輝くものに我は告げる。この声、この意志が届くのなら応えて」


 その言葉と共に、アウラの手から光の欠片が空に放たれる。その光は儚くも確かなもので、美しさと力強さを同時に感じる。その光景に誰もが口を閉じ、何が起こるのかを見守る中で十数秒。

 その瞬間であった。夜空に輝いていた星々とは別の、一筋の光が瞬く。その一つが、奇跡の始まりであった。


「あれは………」


 皆が空を見上げる中で、夜空を無数の光が渡り始める。まるで、アウラの言葉に応えたかのように、夜空は流れゆく星々に包まれていく。その光景に目を奪われ、皆が少しずつテラスに移動していく中でアウラはその流星達に手を伸ばす。そして、確かに聞こえたのだ。彼女の言葉に対する、星々の答えが。


『流れゆくもの。消えゆくものがあなたに応える。星の光を宿す子よ。消えゆく我らに永久を与えるならば、我らの輝きはあなたに光を与えるだろう』


 アウラに聞こえたその声は、我らというように無数の声が重なっていた。その言葉を聞いたアウラは、星々の声に合わせるようにともに言葉を繋いだ。


「『星々の意志は一つ。闇を払い、道を照らすために、最期の輝きを捧げよう』」


 その言葉の後に、流星の群れは少しずつ光を失っていく。長いようで、短いような。ただひたすらに美しかった光景の余韻に浸ろうとしたその時だった。




 消えかけていた流星たちが弾け、無数の光を空に散りばめる。夜闇の中で星々と流星の欠片が輝き、正しく満天の星空と言うべきそのコントラストが人々の言葉を奪った。このパーティーに参加していたものだけではない。遠くのどこか、夜空を見上げていた誰もがそれを見て目を奪われただろう。


 そして、その光は少女に奇跡を与えるのだ。突如として夜空の輝きの破片が少女へと降り注ぎ、その小さな体を包み込む。けれど、それを危険なものだと思わなかったのは、その光に宿る星々の意志を感じたからだろうか。


「ボクは誓うよ。与えられたこの光で、あなた達を見届ける――――」


 光の中でアウラの右目を覆っていた包帯が解けて風に攫われた。彼女は光に輝く一筋の涙を流し………ゆっくりと、振り返った。


「みんなにも、見えたかな?星々の奇跡………ボクが成し得た、この夜を」


 そう問いかける彼女の右目には――――星を宿す、黄金の瞳が輝いていた。




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