13話
翌日の日中、アウラの姿は王都の貴族街の一角にあった。その傍らには、仕事で付き添うことが出来ないアルク達に代わってガイアが同伴している。
やはりフルアーマーで身を包んだその姿は言伝で広く知られているのか、そんな人物が一人の少女の護衛をしていることに様々な噂や憶測が広がっていた。
(………ボクの年齢的に一人で出歩かせられないって言うのは分かるんだけど………これは流石にやりすぎなんじゃないかなぁ)
街を歩きながらガイアを見上げると、やはり一切の隙など存在しないかのような視線と雰囲気。その威圧感のせいで、二人の周囲だけ明らかに人が少なかった。
気まずさを感じつつも、ある意味では護衛の仕事は十分以上にこなしているのだろうかとも考えるが………いや、やはりこれはやりすぎである。
「アウラ様。何か必要なものでも?」
「ん?………ん~、特には………うちにはない魔術教本でもあったら嬉しいかなってくらいかな?」
「そうでしたか。まだ幼いというのに、アウラ様はとても勉強熱心ですね。気が早いかもしれませんが、私はアウラ様の将来が楽しみです」
「ほ、本当に気が早い話だ………」
「すみません。しかしアウラ様は目覚めてまだ間もないというのに、ワイバーンを無力化しているのです。期待するな、という方が難しいと思いませんか?」
そう言われたアウラは困ったように笑みを返す。5歳の子供がワイバーンを倒したなど武勇伝もいいところだ。ガイアを含め、世に名を轟かせる万夫不当の強者達にはそう言った逸話が語られることもあるが、しかしアウラはそういった強者たちと肩を並べたいかと言われれば微妙なところであった。
「将来は………何をしてるんだろうなぁ」
夢を追い続け、その果てに自らが何になっているのかは全く考えていなかった。少なくとも、『彼女』の分まで自分はアウラとして幸せになると誓ったのだから、夢を叶えて満足した。その先は知りません。では通らないのが筋だと言える。
「ははは。アウラ様は本当に子供っぽくないですね」
「えっ、そう………かな」
「えぇ。感情の複雑さが特に」
(なるべく子供っぽくしてたつもりだったんだけど………)
微妙な表情を浮かべるが、恐らくそれがまた子供らしくないことに気付いていないのだろう。
ガイア自身もアウラの事は稀代の天才児だと聞いていて、彼女の兄であるルークもまた幼い頃からそのように呼ばれていたことは記憶に新しい。
(しかし、アウラ様はルーク様以上に理性的なように見える。まるで幼子を相手にしているとは思えないな。将来の心配は必要ないだろう)
アルファーネ家の家督はルークが継ぐことが決まっているため、彼女は成人後は何かしらの仕事に就くか、どこかの家に嫁ぐのが一般的な将来となる。
アウラの場合、後者の択に関してははほぼ存在しないと言っても過言ではないのだが。
「あ、あれ書店かな。ちょっと寄ってもいい?」
「えぇ、勿論です」
アウラが見つけたのは、貴族向けに高価な本を多く取り扱っている書店であった。珍しい本も多く取り扱っており、故にアウラは少し楽しみにしながら書店の戸を開いたのだが………
「げっ、【呪い子】………」
「…………」
店主の呟きに、アウラの足が止まる。あのアルファーネ家に生まれてしまった【呪い子】であれば王都の人間が知っているのは当然なのだが、書店の外にいたガイアはその小さな呟きを聞き逃すほど甘くはない。
無言で書店に近付き、アウラに心無い言葉を投げ掛けた無礼者に声を張り上げようとしたその時だった。
「客に対する一言目がそんな言葉だなんて、あなたはどういう商売していますの?」
「はい?あ、いえ………申し訳ありません」
「まったく………王都でも指折りの名店だと聞いて来たというのに、こうも気分の悪いものを見せられては堪ったものではありませんわ」
そう大きく溜め息を付いたのは、アウラよりは少し歳上のように見える金髪の少女だった。少女の傍には執事らしき初老の男性が立ち、冷ややかな視線で店主を横目で見ている。ガイアもこの空気をどうするべきか分からず、アウラと共に立ち尽くすしかなかった。
「あなたも本をお求めなのでしょう?そんなところで立っていても、本は飛んできませんわ」
「えっ?あ、うん………あれ?」
アウラはこのまま何も買わずに宿に戻ろうかと考えていたのだが、思わぬ展開に遅れて疑問が浮かぶ。
しかし、こうなった手前やっぱり帰りますと言うのも気まずく、なんとも言えない空気のなかでアウラとガイアは改めて入店する。
「えっと…………ありがとう」
「礼は必要ありませんわ。あの店主の態度が気に入らなかったというだけですもの。でも、その気持ちは受け取っておきますわ」
「…………うん」
アウラが小さく笑みを浮かべると、少女も穏やかに笑みを浮かべて、美しい所作でお辞儀をする。
「セリア・ロザリーですわ。以後お見知りおきを。貴女のお名前もお聞かせ願えるかしら、お嬢さん」




