12話
「アウラ、もうすぐ王都に着くが大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「あなたにとっては初めての王都よね。気になるものは多いでしょうけど、迷子になったら大変だから絶対に一人で街を歩いたりしたら駄目よ?」
「分かってるよ」
(そもそも、ボクみたいな如何にも弱そうな貴族の子供が一人で出歩いてたら、トラブルに巻き込まれちゃうよ)
アウラは苦笑する。アルファーネ家はアウラを連れてパーティーの出席を決め、馬車による5日の旅はもう数時間ほどで王都へと到着するところであった。馬車となれば当然屋敷ほど快適な生活ではなく、アウラの体ではやや厳しさを感じることもある。
レジエルまでお礼に向かうことにならなくて助かった、とここでアウラは初めて実感したのだった。
「兄さんが通う学園も王都にあるんだったよね」
「えぇ。見学してみる?」
「んーん。今はいいかな」
アウラはそう言いながら馬車の窓を開けて外の景色を眺める。周囲には三十人以上の騎士が隊列を組んで馬車を守っており、アウラ達が乗るこの馬車と、旅の間の食料などを積んだ荷馬車。このたった2つの馬車を守るための人数としてはやや過剰である。
(パーティーでボクのために暴走したりしなければいいけど………今回は色々噂になりそうな人まで連れてきてるし)
アウラが呆れたように視線を向けた隊の先頭を率いるのは、ニルヴァーナ騎士団長、ガイア・ユニベルであった。フルアーマーに身を包み、兜の奥に見える眼光は鋭く周囲を警戒している。その実力は周辺諸国を含めて知らぬ者はおらず、過去にラーグリア王国を恐怖に陥れた悪竜をたった一人で打倒したという伝説が残る、アルファーネ家が誇る最終兵器だ。
数ヵ月前の件では流石に街中の警備に騎士団長を派遣させるのは踏み留まっていたのだが、今回は街の外ということで徴集していたのである。
(これじゃあ、のんびり景色を見るって気分になれないや)
折角の旅景色がそんな物々しい景色であることに微妙な表情を浮かべつつ、アウラは見えてきた巨大な城壁に視線を向ける。恐らくワイバーンのブレス程度ではびくともしないであろう巨大かつ分厚い城壁は、まだ遠目に見えるだけだというのに威圧感を感じるほどだ。
「すごいなぁ………」
「ん?あぁ、あの城壁か。そうだな。あれはただ硬いだけではなく、魔術師たちの叡智も結集したものなのだ。他国から攻め入られたとしても、あの城壁の攻略だけで数ヵ月は掛かるだろうな」
「へぇ~………」
魔術が施されているのなら気になる………と、もう一度城壁に視線を向ける。とはいえ、彼女はまだ自らが得意とする星の魔術以外はからっきしなのだが。
(やっぱり、学園に通ったほうがいいのかなぁ………家庭教師でも頼めないかな?)
などと考えているうちに、アウラ達は王都へと到着する。本来は長い手続きと順番待ちがあるのだが、そこはこのラーグリア王国でも特に大きな力を持つアルファーネ家である。
優先的に王都へと案内され、待ち時間というものは殆どなかったのだった。そうして王都に着いたアウラ達は宿を取り、旅の疲れを癒す。たった5日であれば普通の貴族は多少疲れるくらいなのだが、アウラは体質のこともあってアルクとリリアが見に来た頃には既に安らかな寝息を立てているところだった。
「ねぇ、あなた。本当に大丈夫かしら」
「アウラのことだ。きっと大丈夫さ。この子は【呪い】すら乗り越えた強い子なのだから」
「………そうね」
リリアは眠るアウラをそっと撫でる。それから二人は自分たちの部屋に戻っていく際、付き添いのガイアに声を掛けられた。
「領主様。明日はどうされますか?」
「私達は少々やらねばならない事があるから、お前にはアウラの護衛を頼む」
「はっ。心得ました」
二人はそういって部屋に戻り、ガイアはアウラの部屋の前に立つ。貴族が寝泊まりする宿で、警備も相応にあるとはいえやはり最も信用できるのは自らの騎士であり、特にアウラの安全は何よりも優先される。
騎士団長が直々に娘のお守りと聞けば笑うものはいるだろうが、ガイア自身も含め彼女を守る責務を軽いものだとは考えていない。彼女が5年の苦痛の末にようやく歩みだした幸せまでの道のりを守ることは、なんら疑問視されることはないだろう。
(アウラ様が王都へ来たという話を聞いて、物珍しさで寄ってくる不届き者も多いはずだ。私が必ずお守りせねば)
そうして、王都へと到着した1日目は過ぎていく。本来ならば他の騎士と交代で部屋を守るはずなのだが、三日三晩の死闘の末に悪竜を打倒した伝説を持つガイアにとっては、眠らぬまま彼女の護衛をするなど容易い事であった。




