11話
ワイバーンの事故があってから数ヶ月。ルークはその一件から1週間ほどで非常に惜しみ、渋りながら学園に帰っていたが、あの日から街中では彼女を憐れむような声は急速に減っていた。それと同時に、彼女が優れた魔術師………【星】の魔術師としての才能を持つ事を知ったアルク達は独学で魔術を学ぶ彼女に、多くの本を買い与えていた。
ゆっくりと。それでも着実にアウラは魔術師として力を付け、最近では自ら研究記録を書くようにすらなっていた。元の境遇が特殊とは言え、彼女には元より才能があったと言うことだろう。
「奇跡を自らの力で起こせるのなら、ボクにも………」
虚弱体質なのは変わらず、時に何の前触れもなく体調を崩すこともあるとは言え、少しずつ体力も付いて一人で出来る事も増えていた。本の虫であるからか、運動能力はさほど変わっていないようにも思えるが。
(必要なものは準備できた。あとは………)
アウラは開いた窓から夜空を見上げ、ゆっくりと右手を伸ばす。すると、煌めく星々に呼応するようにアウラの胸に宿る光が輝き始めた。そのまま数十秒ほどが経った時、アウラは小さく笑みを浮かべる。
「………うん」
胸から放たれる光が消えても、アウラは暫くそのまま星を眺めていたが、不意に扉がノックされたことでゆっくりと振り返る。
返事をすると、戸を開いたのは一人のメイドだった。
「失礼します。夕食のお時間になりましたので、お伝えに」
「分かった、すぐに行くね」
アウラは窓を閉めて部屋を出る。既に見慣れたダイニングには、既にアルクとリリアが待っていた。アウラも席に座って、いつも通り用意されていた食事を食べていると不意にアルクが話し出す。
「アウラ」
「ん、どうしたの?」
首を傾げるアウラ。そんな単純な動作にすら愛らしいと感じてしまうのは間違いなく親バカなのだろうが、彼はそれを表に出さないように努めながら続きを話す。
「実はな。一週間後に王都でパーティーが開かれるんだ」
「ん、そうなんだ………?あ、もしかしてボクを残しちゃうのが心配なの?大丈夫だよ、ティアネ達もいるし、もう一人で……」
「そうじゃなくてだな。お前も、参加してみないか?」
「………えっ?」
アウラの手が止まる。アルクの言葉を頭の中で処理することに数秒。そして、慌てたように口を開いた。
「えっ………えっ………!?そ、そんなの駄目だよ………!ボクが出席したら、みんな嫌がっちゃう………!」
「いや、驚く者もおるとは思うが………」
「そ、それにボクはまだ礼儀作法とか何も学んでないし………」
「お前ほど幼い子供にそれを求める者はおらん。まぁ、仕込まれているものは仕込まれているのだろうが………少なくとも、そこまで大した問題ではない」
「で、でも………」
自分は貴族社会に表立ってはいけない。それが両親とアウラの間にある暗黙の了解だと思っていた。【呪い】に侵された娘など、それだけで貴族社会では汚点になるのだから。アルファーネ家は彼女の存在を無かったことにはしなかったが、それでも権威を保ててるのは彼女の姿が公にならず、大きな権力があったからである。
人との関わりが出来ないのは寂しさもあるが、自分のせいで家族に迷惑が掛かるのは彼女の望むところではない。
「二人がボクの事も大事に思ってくれてるのは分かってるし、感謝もしてる。でも、ボクは………駄目、だと思う」
「アウラ…………」
「………お前の気持ちも分かる。だが、この提案をしたのには理由があるんだ」
「理由………?」
未だ世間的には汚点である自分をパーティーに出席させるほどの理由が思い当たらず、真剣な表情で問い返す。
「あぁ。私の旧友、レイ・エーボルト公爵がお前の顔を見たいらしい。彼は強力な聖魔法の使い手で、生まれた直後から危篤状態にあったお前が一命を取り留めたのは彼のおかげなんだ」
「そう、なんだ………ボクの、命の恩人………」
今のアウラがあるのはその人物のおかげだと聞けば、その願いを無碍にするとは言いづらい。そして、見たければ自分から見に来いなどと言えるような立場でもないのは当然であった。寧ろ、本来ならパーティーなどという席ではなく、自ら向こうの領地に趣くべきだったのだろう。
「こちらから顔を出すとも返事をしたのだが、まだ体の弱いお前に無理を掛けるわけにはいかないとな。代わりに、次のパーティーでの出席を提案されたんだ」
エーボルト公爵が治めるレジエルは地理的にはニルヴァーナの間反対にあり、移動だけでもそれなりの労力と時間を要する。だが、王都であればどちらからもそう変わらないため、そういった話になったのだろう。
受け継いだ記憶にもないほど幼い頃の恩人。彼女に救われた記憶がないとしても………いや、だからこそせめて感謝の言葉くらいは自分から述べに行くのが筋だというものだ。
「………一週間後」
「そうだが………何かあるのか?」
「その、ボク………どうしてもやらなくちゃいけないことがあるんだ。一週間後の、その日に。もし逃したら、次のチャンスはいつになるか分からないから。だから――――」




