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10話

 騒動の後、ワイバーンはアウラの要望通り元の生息地に返された。アウラの一撃が余程堪えたのか、逃がす瞬間も大人しく、担当の者たちを襲うようなこともなく去っていったという。

 そして、初めて魔術を本格的に行使したアウラはその後体調を崩し数日ほど療養していたが、その容態も安定したと言うことで、ルークはとある晩にアウラの部屋を訪ねていた。


「アウラ、大丈夫か?」

「うん、もう平気。まだ念のためにベッドからは動かないように言われてるけど」

「………すまない。俺が不甲斐ないばかりに」

「い、いやいや!謝らないでよ!ボクたちじゃあれは防ぎようがなかったって、お父さん達も言ってたでしょ?」

「それはそうだが………いや、そうだな」


 兄として妹を守るつもりが、逆に妹に守られてしまった。今回の件でアウラはまた暫く外出を止められるだろうことを考えると、申し訳なさで潰されそうだった。


(………いっそのことアウラが俺のことを責めてくれればなんてのは、俺が楽になるための逃げだよな)


 ならば、今度こそ何かあったときは自分が妹を守れるように強くなるしかない。そんな思いを胸に秘めつつ、ルークは話題を切り替えた。


「話は変わるんだが………あの時の、【星の魔術】………だよな?」

「えっ?………そう、だけど?」

「そうだけどって………それが魔術師にとってどんな意味を持つか知ってるのか?」

「意味………?」


 アウラは首を傾げる。独学で魔術を学んでいたアウラだが、その知識には当然偏りがある。具体的に言えば、魔術理論などの実践的な分野ばかり選んでいたせいで、魔術の歴史などの教養的な分野については一切手を付けていなかったのだ。


「………星、というのはな」


 ルークは自らが学園で学んだそれを話し始める。

 元来、【星】は魔術において特別な意味を持つと。それは、星詠みや星占いといった原始的な儀式こそが魔術の原点であるとされるからだ。そして人が住まうこの地もまた星であり、故に万象は星の理のもとにある。

 云うなれば、【魔術の源流】。元々限られた者達のみが扱えた魔術だが、とうの昔にその源流は殆どが絶えてしまったのだと。


「お前は数百年も停滞していた魔術に、新たな可能性を作れるかもしれない。そう学園の授業では習ったんだ」

「…………そう、なんだ」


(そんなこと、彼女は知らなかった。ただ、夢を叶えるための力としか………でも、このことを知ったあの子なら、どうしたんだろう)


 アウラは静かに答え、不意に窓の外へ視線を向ける。その瞳は遥か遠くの夜空を映していて、まるで彼女がこのままどこかへ消えてしまうような雰囲気を纏う。それを見て言いようの無い不安を抱いた彼は、無意識にアウラの手を掴んでいたのだった。


「………どうしたの?」

「え?あっ、いや、悪い………その、今のお前を見てたら、どこか遠くに行ってしまうような気がして………」

「ボクが?………ううん。大丈夫。ボクはどこにも行かないよ」


 アウラは静かに笑みを浮かべる。先ほど感じたそれは彼女のこれまでの境遇からか、それともどこか浮世離れした雰囲気からか。

 それでもはっきりと言葉にされたことで少しは安心したのか、そっとその手を離す。


「………ボクには、そう言われてもあまり分からないかな」

「まぁ、そうだよな。俺もこんなことを言ったが、お前には自由に―――」

「でも」

「…………でも?」

「ボクの力で、沢山の人たちに希望を与えられたなら…………って、思う」


 知らない誰かに希望を託し、その幸せを願った少女ならきっと喜ぶだろう。そんな願いは口にしなかったが、ルークには何か伝わったのだろう。何を言わず、ただゆっくりと頷いた。


「そうか………なぁ、アウラは学園に通ってみたいんだったよな?」

「うん。でも、まだ悩みたいかな………」


 あの日聞こえた彼女を忌むような声。表面上は平気なフリをしていても、やはり心には残ってしまう。


「あぁ、沢山考えてほしい。俺もまだ未熟だけど、お前のためにしてやれること、考えてみるから」

「うん………ありがとう、兄さん」


 二人は互いに笑みを浮かべた。しかし二人が知る由もないが、既にアウラと言う少女の認識は街のなかで変わりつつあった。

 あの日の輝かしい光は、か弱く可哀想な娘だと思われていた彼女は、自らの力で困難を打ち破り、希望を見出だす光を秘めた娘なのだと皆に思わせたのだ。

 その変化は少しずつ、アウラの道を拓くだろう。あの光は、闇を切り裂く星の光であったのだから。






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