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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

顔を捨てる場所

作者: Tom Eny

顔を捨てる場所


第一章 奇妙な共同生活の始まり


大阪・西成の路地裏に、ひっそりと佇む古びた長屋がある。その一角にあるシェアハウスは、どこか薄暗くも、不思議な温かさを秘めていた。ここに集う住人たちは、それぞれが「整形」という秘密と、その奥に潜む深い目的を抱えている。


朝が訪れると、言葉少なく、あるいは無言で、彼らの日常が始まる。40代半ばの辰巳は、広げた新聞の奥で、テレビのニュースや芸能情報に視線を走らせる。彼の顔は、過去の裏切りへの復讐のために全くの別人に変えられたものだ。クールで寡黙な辰巳は、常に周囲の情報を探り、復讐の機会を伺っている。カメラを向けられることを極端に嫌うのも、そのためだった。


20代後半の美緒は、西成の立ち飲み屋へと仕込みに向かう。かつては誰もが振り返るほどの美貌を持っていたが、ある詐欺事件に関わり、逃亡のためにあえて「不細工」な顔に整形した。今は地味な身なりで、この街に溶け込んでいる。彼女は写真に写ることに抵抗はない。


10代後半のアキラは、早朝からリモートでのダンスレッスンに励む。彼は国民的アイドルグループのセンターになるために整形を繰り返した。類稀なる歌とダンスの才能を持つが、外見への自信のなさから過剰な整形に走った「イケメンアイドル」だ。西成の生活にはまだ疎い。


30代前半のレイは、鏡の前で奇妙なメイクを施している。彼女は過去の復讐のため、あえて顔に傷跡を残したり、異様なメイクを施したりして「不細工」にした。福田和子のように、あえて外見を醜くすることで身を隠し、目的を遂げようとしているのだ。口数は少ないが、放つ言葉は常に核心を突く。辰巳と同様に、写真に写ることを嫌がる。


彼らは互いの素性には深く触れず、表面的な交流に終始している。


美緒が働く立ち飲み屋「だるま」には、日雇い労働者や高齢者、そして時折、場違いなスーツ姿の男も現れる。美緒は、逃亡生活で培った鋭い観察眼で、客たちの会話や雰囲気を探っていた。


アキラは、アイドルとしてテレビ収録や撮影に追われる日々を送る。しかし、西成のシェアハウスに戻ると、彼は「作られた顔」を脱ぎ捨て、本来の少年の表情に戻る。疲労と、「本当の自分」を隠し続けるストレスが、彼を蝕んでいた。


辰巳とレイは、シェアハウス内でも特に他者との距離を取る。辰巳は外出も少なく、常に何かの情報を収集している。レイは、その異様な外見と無口さで、他の住人からも一目置かれていた。


ある日、長屋の住人たちが集まってささやかな誕生会が開かれ、記念写真を撮ることになった。アキラは反射的にアイドルスマイルをカメラに向けるが、辰巳は「こういうのは苦手で」と軽くかわし、フレームの外へ。レイも無言で体をそむけ、顔を隠すようにする。しかし、美緒は、その「不細工」な顔を隠すことなく、むしろ楽しそうにカメラに向かって微笑んだ。その対比が、彼らの抱える「訳あり」感を強く示唆する。アキラは、美緒の堂々とした姿に、なぜか不思議な魅力を感じていた。


第二章 秘密の影と交錯する目的


美緒は、「だるま」の客の会話から、かつて自身が関わった詐欺グループの残党が、最近西成で頻繁に目撃されていることを知る。同時に、そのグループが、某芸能事務所の有力者と繋がりがあるらしいという噂を耳にした。


辰巳は、アキラが持ち帰った芸能雑誌やテレビのニュースから、自身の復讐のターゲットである裏社会の人間が、その芸能事務所の有力者と深く関係していることを確信する。辰巳は、アキラをターゲットへの重要な駒として意識し始める。


レイは、辰巳が壁に貼っていたターゲットの相関図を盗み見る。その中に、自身の復讐のターゲットと繋がりがある人物を見つけた。彼女の目つきが鋭くなる。


ある夜、辰巳はレイに声をかけた。「あんたも、俺と同じ匂いがするな」。レイは無言で辰巳を見返す。辰巳は、自身の復讐のターゲットが、レイが追う人物とも関わっていることを示唆し、暗黙の共闘を持ちかけた。レイは、口を開かずともその提案を受け入れるように、静かに頷く。互いの復讐計画が、少しずつ、しかし確実に連携し始めた。


アキラは、仕事で疲れてシェアハウスに戻った際、偶然、自分の「アイドルとしての顔」の裏にある苦悩を美緒に打ち明けてしまう。美緒は、アキラの完璧な外見の裏にある孤独や葛藤に共感し、彼を慰めた。美緒は、自分の「不細工」な外見が、かえってアキラに心の壁を作らせないことに気づく。アキラは、美緒の飾らない言葉と、外見にとらわれない強さに惹かれ、彼女にだけ「本当の自分」を見せるようになった。


第三章 「美」の問い直しと迫りくる危機


アキラは、美緒や西成の人々との交流を通して、「美しさ」とは何かを深く考え始める。美緒が「不細工」になったことで、かえって人間性で惹かれる人々と出会えていることを知り、自身のアイドルとしての「美」が本当の幸せにつながるのか疑問を抱く。彼は、テレビに映る「作られた自分」と、西成で過ごす「素の自分」との間で激しく葛藤した。


美緒を追う過去の詐欺グループの残党が、西成の「だるま」周辺に現れるようになる。彼らは美緒の過去の情報を掴んでおり、彼女の存在が辰巳とレイの復讐計画にも影響を与え始めた。美緒は再び逃亡を余儀なくされるが、このシェアハウスの仲間たちとの絆が、彼女を一人で逃げ出すことを躊躇させた。


レイは、辰巳の復讐計画に具体的な助言を与え、その実行を促す。彼女の「不細工」な外見は、潜入や情報収集において有効な武器となる。しかし、その根底には、自身もまた深い悲しみと復讐心を抱えていることが、少しずつ辰巳に伝わった。辰巳は、復讐のために全てを捨てた自分自身の孤独と、レイの揺るぎない意志に触れ、復讐以外の「生きる意味」を模索し始める。


第四章 絡み合う運命、それぞれの選択


美緒を追う残党と、辰巳・レイが復讐を遂行しようとするターゲットが、西成で同時期に動き出す。シェアハウスは、期せずしてすべての運命が交錯する場となった。


追い詰められた美緒は、ついに自身の「不細工」に整形した理由と、過去の詐欺事件の詳細をアキラたちに告白する。 辰巳とレイもまた、互いの復讐計画の全貌を明かし、協力体制を強める。彼らの秘密がすべて露呈する中、アキラはアイドルとしてのキャリア、美緒との関係、そして彼らとの共闘の間で、究極の選択を迫られた。


激しい攻防の末、それぞれの目的は達成されるのか?


辰巳とレイは、復讐を成し遂げることで、本当の解放を得られるのだろうか? あるいは、復讐の空虚さに直面し、新たな生きる意味を見出すのだろうか。 美緒は、過去の呪縛から解放され、西成で新たな人生を歩むことができるのか。その過程で、彼女とアキラの「本当はイケメンと本当は不細工の美女」の恋は、どのような結末を迎えるのか。 アキラは、アイドルとしての「作られた美」を捨て、美緒やシェアハウスの仲間たちとの「本当の自分」を選ぶのか。彼の選択が、今後のアイドル界、そして彼自身の人生に大きな波紋を呼ぶ。


エピローグ


事件が一段落し、西成のシェアハウスは静けさを取り戻す。


それぞれの登場人物は、整形という手段と、それに伴う運命の交錯を通じて、「美しさ」や「外見」の虚飾を超えた、人間としての真の価値、そして新たな「生きる意味」を見出した。 彼らは必ずしも当初の目的を達成したわけではないかもしれない。しかし、この西成の路地裏で出会い、互いの秘密と向き合ったことで、彼らの人生は確かな変化を遂げた。


カメラを向けられても、辰巳とレイはまだ少し戸惑いの表情を見せるが、以前のような拒絶はない。美緒とアキラは、外見にとらわれない、確かな絆で結ばれた笑顔を交わす。


西成の路地裏は、今日もまた、新たな「訳あり」の人々を迎え入れ、彼らの物語を紡ぎ続けていく。

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