2つ合わせてポンコツラーメン
今回の河童退治も無事終了。
さっさとお店へ帰ろう。
本日ゲットしました食材はこちら。
「ちょうどすっぽ抜けたし、これでいいでしょ」
河 童 の 腕〜(ドラ◯もん風)。
ということでコレを持ち帰り、
「今日はお客さんと遅くまで飲み食いしたし、明日にしよう」
「栄養にはなってませんけどね」
調理は明日に持ち越し。
こんな呪物を冷凍庫に入れるかで悶着があったものの、無事私が敗北した。
残ったボディはどうなったって?
不忍池から引きあげる直前のこと。
「コレ、どうするんですか?」
「全部は食べられないなぁ」
「だからって道に河童放置できないでしょ。池にでも沈めて隠滅するの?」
「まぁ見ときなよ」
花恭さんはスマホを取り出し、
「……何してるんですか?」
「見て分からない?
写真撮ってる」
「えぇ……。エ⚪︎クスにでもあげるの?」
「そんなことしないよ。僕イ◯スタ派」
それから画面をタップ。
「いいかい、こうして妖怪討伐をしかるべきところへ報告するとね。ほら」
今度は画面をこちらへ向けてくる。
するとそこには、
『受理されました』
の文字。
「すぐに回収担当が来て持っていく。あとは施設でお焚き上げって寸法さ」
「すぐにって、どのくらい?」
「行きしなに連絡しといたし、スタンバってると思う。5分もしないよ」
「へー」
「で、こうすると口座に報酬が振り込まれるってわけ。小春さんが気にしてた、僕の収入源だね」
無駄に朗らかな笑顔。
でも多少は疑問に答えてくれる気があるらしい。
「で。しかるべきところって?」
「それはそのうち」
多少は(重要)。
で、翌日。
今日も暑くてたまらない夏の天気だ。
正午過ぎに起床して、河童料理に取り掛かる。
花恭さんはまだ来ていないけど
・店の仕込みをやっている最中に、妖怪料理なんか手を着けたくない
・そもそも1分1秒でも早く、こんなもの冷凍庫から出してしまいたい
以上の理由により、優先的に始末する。
起きて最初にやることがコレは、あんまりな人生だけど仕方ない。
「河童かぁ。これは腕だけだけど、全体像でイメージすると……」
まずは鍋でお湯を沸かす。
一方で河童の腕を半解凍。
流水で洗う。
こうすることで、凍っていた表面のヌメりが簡単に落ちる。
塩揉みするよりよっぽど簡単。
このために冷蔵庫じゃなくて冷凍庫に入れたんだ。
みんなもタコとか釣ったらやってみよう。
さて、お湯が沸いたらここに河童の腕を投入。
硬さが分からないから、ひと口サイズより気持ち小さめにカット。
二の腕の脂肪はコクより臭みが勝ちそうなので排除。
そしてここに、臭み取り用のネギやショウガを加えてじっくり煮込む。
アクも丁寧に、神経質なくらいに取り除く。
別に普段は手を抜いているわけじゃないけど。
にしても、
「……大丈夫? コレ」
臭みには気を使ったのに。
立ち昇る湯気から、ドブみたいな匂いがする。
というか水を張っているわけだし、ドブに他ならない。
昔、料理マンガの食レポで
『皿の上に宇宙が生まれた!』
みたいなこと言ってるのを見掛けたけど。
私は寸胴鍋の中にドブを産み出してしまった。
普通にショック。
とそこに、
「昼だけどおはよう。やってる?」
店の引き戸が開き、花恭さんが登場
と思いきや、
「……やってんなぁ」
「誰のせいだと」
あまりの異臭に
「できたら連絡して」
と言い残し、Uターンして帰ってしまった。
来店時間7秒。
マジでショック。
近隣住民から苦情来たり通報されたらどうしよう。
でももう引き返せない。
花恭さんも帰ったんだから時間がある。
本日分の仕込みをしつつ、しつこいくらいに煮込んでみる。
結局店の料理と妖怪料理並行してる……
とにかく親の仇みたいに煮込んだら、河童肉を取り出し
今度は一人用の小さな土鍋へ。
そこにカツオ出汁、しょうゆ、料理酒、味醂。砂糖と塩は細かい調整に少々。
ここにもネギとショウガを入れ、白菜とシイタケも参加させる。
そう、まる鍋、つまりスッポン鍋風だ!
京都が有名な料理だけあって、昆布で出汁を引くことが多い。
でも今回はこっちの水が関東である以上に、相手が河童。
鰹節でより濃い味付けを狙うと同時に、
昆布の海藻風味で水草のドブが想起されることを回避する。
ちなみにスッポンは出汁が大変美味とされているけれど
今回については、考えるまでもないでしょう。
さて、あとはまた煮込んで、シイタケに火が通ったら完成!
「できた! 『河童のスッポン鍋風』!」
完成したので、さっそく花恭さんに連絡
と思ったけど、
「本当に大丈夫? コレ」
さっきまでキュウリ畑に火を付けたくなるくらいの河童臭だった。
果たして食用に耐える程度にはなっているのか。
スープを器に取り、軽く味見してみる。
すると、
「うわ臭い!!
ダメだ! まだダメだ!!」
たぶん不忍池の水を啜ったらこんな味だと思います。
死んじゃうね。
コレはダメだ。
こんなもの食べさせたら、不忍池に沈められてしまう。
『小料理屋 はる』の看板を背負う身としても許せない。
コレはさすがに不忍。
「いや〜、どうしよっかぁ、コレぇ」
でもここまでやって無理なら、もうフ⚪︎ブリーズで煮込むしかなくなる。
「困ったなぁ、困った……、ん?」
瞬間、脳内であるピースが繋がる。
あるいは発想の転換。
実は、私は今
もう一つ、困った食材を持っている。
「お呼ばれしたよ〜って、うぅわ!」
「らっしゃい!」
その後、16時をいくらか過ぎたころ。
開店時刻より一足早く。
花恭さんがまた来店するなり、失礼なリアクションをする。
「らっしゃりたくないんだけど。なんか匂い悪化してない?」
「誰のせいだと」
こうなったからには、元凶たる彼にも付き合ってもらう。
強い意志を込めた目で見つめれば、
「毒ガス河童の伏線、回収しなくていいんだよ?」
花恭さんもおとなしく席に着いた。
ということでさっそく、本日のメニューの提供へ。
「硬さは?」
「ほう?」
唐突な聞き方に、彼の眉が動く。
だけど今ので理解したんだろう。
花恭さんはニヤリと笑う。
「硬めで」
「あいよ!
ていっても、買ってきた一袋98円のちぢれ麺なので。硬さの調節とかないんですよね」
「なんだ」
それはご愛嬌。
スープを温める傍ら麺も茹で、
ゴマ、紅ショウガ、青ネギ、自家製の煮玉子とチャーシューを乗せたら、
「へいお待ち!
『河童のトンコツしょうゆラーメン』出来上がり!!」
「おぉー!」
花恭さんは丼を受け取ると不敵に笑う。
「僕も京都人の端くれ、トンコツしょうゆにはうるさいよ?」
「あ、京都なんですね」
確かに陰陽師っぽいね。
本当に陰陽師ならね。
それはさておき。
店にあったもう一つの『困った食材』。
ソレは仕入れ先の肉屋さんから押し付けられた
ゲンコツ、いわゆるトンコツだ。
『店でシメまで出しゃいいんだよ!』
という謎理論で、安くだけど買わされた。
ウチのシメは『焼きおにぎりの出汁茶漬け』で間に合ってんの。
こんな調理も処理も手間なもの、絶対使えないよ
やるならせめて煮干し出汁とかにするよ
と思っていたんだけど。
骨を砕いて強火で炊いて、しょうゆベースのスッポン鍋にぶち込んでラーメン。
まさかこんなところで役に立つとは。
「なるほど。どうしても河童の臭みが抜けないから。
最初から臭いことが織り込み済みの料理にしたんだな」
「トンコツなんて臭くてなんぼ! 臭いモンには臭いモンぶつけんだよ!」
「ヤケっぱちだなぁ」
妖怪料理なんてシラフで作ってられないから!
でも今はどうでもいい。
ラーメンは冷めないうち伸びないうちが華。
花恭さんはまずスープを一口。
すると、その体がピクリと固まる。
「どうですか!」
「……」
「おいしいですか!」
「こ、これは……」
今度は麺を勢いよく啜る。
トンコツは細めのストレート麺が基本だけど、彼に必要なのは妖怪料理。
河童スープがよく絡む、ちぢれ麺の方がいいはず。
ストレート麺の方がスープが絡むって説もあるらしいけど。
ソレより何より!
ラーメンはうまいかマズいか、それが全てよ!
さぁ、答えろ花瀬花恭ゥ!
「これは、濃厚なトンコツで、まる鍋の少し甘いしょうゆ味とも馴染んで。でも河童の風味かな? 少しだけ魚介トンコツっぽくもあって」
「よしっ!」
「それで」
「それで?」
「すさまじく臭い」
臭いものは臭い。どうしたって。
忽然と消える 完
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