賞金133万円
盆の終わりがけのころである。
「あのさぁ」
「なんだよ」
「なんでこんな真夏の炎天下に、山なんか登らなきゃならんワケ?」
東京、と言っても23区ではなく多摩地域、北部の方。
昼でも鬱蒼と薄暗い山の中を、二人の男性が歩いている。
年頃は大学生といったところだろうか。
パッと見はハイキングのような格好をしているが、
それにしては無駄にリュックが大きく、中身も詰まって重そうだ。
そのせいか、いや、そんなものなくとも。
急斜面ではないがコースか獣道か怪しい坂を行く、二人どちらも汗まみれ。
ただ、
「何言ってんだよ。今じゃなきゃダメなんだよ。秋めいてきたら、スズメバチとか危なくなってくるんだから」
「いや、最初から山なんか入るなよ」
数歩先を行く方と着いていく方、テンションには著しい差がある。
どっちがどっちかは、足取りの差で推して測るべし。
「そうはいかんでしょ」
先を行く方が立ち止まり、デニムの尻ポケットに手を伸ばす。
取り出したのはスマートフォン。
「オマエそこ入れんのやめろよ。このまえ椅子座って画面割ってたじゃねぇかよ」
「うるせぇ」
終始冷静、ではなくローテンションな相方の忠告も無視。
彼はロックを解除する。
ここはもうすでに麓とは言えない位置。
当然圏外ではあるのだが、
今用があるのはWi-Fiも4G5Gも関係ない写真アプリ。
彼は1枚のスクリーンショットを相方へ突き出す。
「ほら見ろ!」
「まえ見たって」
「もっかい見ろ!
『東京都東村山市山中でツチノコの目撃情報』!
こりゃもう行くしかねぇだろが!」
「うへぁ」
「生捕りしたら賞金133万だぞ!? 夢のアメリカ横断旅だぜ!」
「向こうの物価知らねぇけどよぉ」
「サンフランシスコからボストンまで! 何枚何キロステーキ食うかなぁ!」
「1回和牛食って残り貯金した方がいいと思うぞ」
などと、取らぬツチノコの皮算用をしながら進んでいると、
「お」
「どうした」
「道が開けた」
相変わらず薄暗くはあるが、道幅は倍に。
「ハイキングコースに合流したのかもな」
「よしっ! 他の人が目撃したってことは、ツチノコは人の通る道に出るってことだ! いいぞ」
「じゃあ最初からそこ通ればいいじゃねぇか」
「やっぱ基本は人のいないとこに巣があると思ったの!」
状況は変わっても両者テンションは平行線のまま。
「言ってもツチノコってヘビだろ? こんな暑い日に出歩いてないって。やっぱり秋にするべきだったんだよ。冬眠まえでエサ獲りに動くだろうし」
「ヘビだから歩きませ〜ん」
「ウッザ」
テンション以外も二人の気持ちが交差することはないだろう。
コレで一緒に行動はしているのだから、人の関係とは不思議なものである。
もはやツチノコ探しも忘れて、低レベルな漫才に終始する二人だが
そこに
「それも一理あるけどな、命あっての物種だ。スズメバチに刺されて死んだら、アメリカにゃ行けん」
「ヘビ探してんのに、さっきからハチ恐れすぎ……
ん?」
「どうした?」
「おい、アレ」
ローテンションな方が坂の上を指差す。
先行しているハイテンションは振り返って話している。
つまり背後になる。
「なんだなんだ、ツチノコか!?」
パッと振り返ると、そこには
「おいおいおい、マジかよマジかよ!」
「ヤバいぞ……」
「逃げろ!!」
すごい勢いでこちらへゴロゴロ転がってくる、丸太。
「なんだなんだ! インディー・ジョーンズか!? 藤岡弘、か!?」
「なんでもいいわ!」
「さっきの細い道入るぞ!」
二人はUターンして走る。
丸太の長さは道幅いっぱい。
避けることはできないが、逆に細道に入ればこっちまでは来ない。
「おわあああ!!」
「ひいいいい!!」
間一髪、なんとか小道に逃げ込んだ二人。
「た、助かった……」
「なんであんなモン転がってくんだよ」
やり過ごせてホッと一息。
逆に丸太を見てやろうと振り返ると、
「……え?」
「どういうこと?」
小道と本道の分岐点。
こちら側への入り口で、
丸太がピタッと止まっている。
いや、
違う。
さっきまでゴロゴロ転がってきた丸太は、円柱の側面が見えていた。
しかし今は、棒として捉えたときの先端がこちらを向いている。
そこには、
「なんだ、アレ」
「三角形……
ヘビの頭か?」
言うや否や、二人と丸太の目が合う。
円柱の胴体、ヘビの頭。
とくれば、もうその正体は一つしかない。
そう、
「「ツチノコだ!!」」
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