駐留米軍とか言ったら怒られるけど
たしかに。
ちょっと不思議な感じ。
「……新幹線に乗ってきたとか?」
「は?」
とかいうジョークはさておき。
「河童や一反木綿だったら分かる。遠野だ肝付だと言っても、日本中の人が知ってる。どこで生まれてもおかしくない。
でも、アフィラーマジムンは違うでしょ?」
いつかの都市伝説やこのまえの豆腐小僧みたいに。
『認知』が妖怪の成立にとって重要な要素なのなら。
「じゃあ、
誰かがアフィラーマジムンを東京に持ち込んだ
って言うんですか?」
逆に日本で生息していないライオンが動物園にいる理由は簡単。
特定外来生物なんてのが日本にやってきた理由も同じ。
人の手による輸入だ。
「で、ソレができるヤツは
アイツしかいない」
「ぬらりひょん……」
場が少しざわっとする。
花持さんの目が開かれて、はっきり見えるくらいには。
そのなかで、無言で小さく頷く花恭さん。
言葉にしなくても分かる、深い激情が滲んでいる。
説明が完了したのを見計らって、花衣さんが話を戻す。
「これが作為的なことであるのに間違いはない。
また、東京には現在ぬらりひょんがいることも皆知っているだろう。
花恭が東京を離れている間にも、一族の者から妖怪の活動が報告されている」
「多くない?」
花恋さんがボソッとつぶやけば、
「江戸時代ならともかく、今の時代には、な」
さすがに江戸時代からは生きていないと思う、花持さんが相槌を打つ。
「私はこれら一連の動きが無関係ではないと考える。
そうだった場合、非常に怪しい。
『ぬらりひょんが日本中の妖怪を一ヶ所に集め、活発に活動させている』
なんらかの目的を持って蠢動していることは確実である」
全員が花衣さんに視線を集中させる。
花恭さんも私の方を向いて座っていたのを戻す。
でも体ごとは向かないのは何かの決まりなんだろうか。
「よって私は、東京を要警戒区域と判断し」
ここで、逆に花衣さんの方から目を向けられたのは
「花鹿」
「はい」
セーラー服の少女。
指名された彼女は、座布団から膝が出るくらい前へ乗り出す。
「君は花恭と年近く仲がいい。また、この場の中で僅かな差ながら、北上くんとも長く接している。
あなたはこの集まりが解散した時点をもって、今の任地から離れ
花恭とともに東京へ向かってもらう」
「承知しました」
「えっ」
本人は深々とキレイな座礼をする一方で、
「えっ、てなんだい」
私は思わず変な声が出て、花恭さんに睨まれる。
「私が来るの嫌ですか? 二人きりで邪魔されず、しっぽりムフフなアレでしたか?」
「キャー!! マジでマジでマジで!? うらやまじぃぃ〜!!」
「テメェコラ許さねぇぞ!」
花鹿ちゃんも花恋さんも花海くんも相変わらずのリアクション。
花九郎さんまで
「若いなぁ」
なんて親戚のおじさん面してるけど(実際花恭さんからすれば親戚だけど)、
「そういうことじゃないって!」
詰め寄ってきた花海くんが、胸ぐらつかもうとするのをガードしていると
「花海。私の許可なく座から離れるな、とまでは言うまい。
が、場を乱すことは許可していない。重ねて女性への狼藉など。
戻りなさい。これは場を設えた私に対する侮辱だ」
「……っス」
花衣さんがゆっくり諭すように、でも威厳たっぷりに止めてくれた。
相棒なんだから花恭さんが止めてくれてもよかったのよ?
「それで北上くん。君は何を問題と感じたのかな? 試験を越えた君は立派な妖怪狩りであり、身内のようなものだ。忌憚ない意見を述べてほしい」
「あ、いえ」
「どうしたんだね?」
改まってそう言われると言いづらい。
だって、そんな重大なことじゃなくて
「いや、花鹿ちゃん学生だし。急にそんなこと決めてどうするんだろう、って」
「なんだ、そんなことか」
そんなことって。
花衣さんだけじゃなく、場のみんながにっこりしている。
「だ、大事なことでしょ!」
「大丈夫ですよ小春さん。東京にも一族の息が掛かった学校法人はあります。私たち学生は任地替えのとき、そこにねじ込んでもらうんです」
花鹿ちゃんが丁寧に説明してくれる一方で、
「小春さんは細かいこと気にするなぁ。和むなぁ」
「わはははは! やっぱり君はいい人だ!」
他のヤツらはこんな感じ。
異常者の集まりのなかだと、常識的な意見は微笑ましい扱いを受けるみたい。
なんだコイツら。
「そういうわけで、よろしくお願いしますね、小春さん!」
「あぁ、うん、よろしく」
やっぱり真人間なのは花鹿ちゃんだけだよ。癒し。
この際しっぽりムフフとか言ってたのは忘れることにする。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ズルいズルい! 私が行きたい〜!!」
せっかく癒されてたのに、花恋さんの淑女が出してはいけない声が響く。
何も言えないでいると、ご当主がアルカイックスマイル。
「安心しなさい花恋。二人に任せきりにはしない。常駐とまではいかないが、定期的にもう一人派遣するつもりでいる。あなたにも機会が巡ってくるだろう」
「ホント!?」
「ちょちょちょちょちょっ!?」
「どうしたんだい、北上くん。蝶でも飛んでいるのかな」
「そうじゃなくて!」
なんか話が大きくなりすぎじゃないか?
何がって規模が。
いや、別にぬらりひょん対策がどうこうじゃなくて。
「あの、皆さん別に、私や花恭さんのところに泊まるんじゃないですよね?」
「ぬらりひょんは各個撃破を狙って北上くんを襲撃したと聞く。バラバラでいるのは得策ではないと思う」
「うわああああああ!!」
やっぱりだ!
私の暮らしが! 侵略されていく! 異常者の溜まり場にされる!
おじいちゃんのお店が!
大丈夫なんだろうね!?
「花恭さん!」
思わず顔を見合わせ
ようとしたけど、彼はケロッとしてこっちを見ていない。
身内だから気にしてないんだろう。
この侵略一族め!
そのまま見つめていると、ようやくこっちを向いて、
「じゃあ小春さん。今日は東山戻って送り火でも見てから、明日帰ろうか」
ヘラヘラ笑った。
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