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締めの会

 8月16日。

 世間のお盆休みも今日の送り火

 あるいは明日まで有給入れてる人がいるくらいで終わっていく。



 私にとって今年のお盆は怒涛だった。


 因縁付けられたみたいな理由で京都の大屋敷へ。

 しかも相手は妖怪狩り一族とかいうオマケ付き。


 なんか変な裁判にも出されたし、妙な試験にも駆り出された。

 相変わらず妖怪退治にも協力させられたし。

 まったく、お盆()()って概念はないの?


 でも、悪いことばかりじゃなかった。

 普通じゃ泊まれない、下手な旅館より大きな屋敷はいい経験になったし


 愉快な人ともたくさん知り合えた。

 変な人ヤバい人多めなのは否めないけど。



 そんなことを振り返りながら。

 今日も東山一党の宿坊で朝ごはん食べてると、


「そうだ小春さん」


 味噌汁で喉を潤した花恭さんが、思い出したように声を出す。

 こっちは向かない。


「なんですか」

「このあとまた集まりがある。小春さんも出てね」

「まだ私に何か」

「ま、何をケチ付けるんじゃないさ。毎年のシメの会だ。

 小春さんが加わって、新体制での今後の方針もあるだろうし。無関係じゃないから出ときな」

「まぁそういうことなら」

「っていうのは全部楽観的推測ですけどね」


 ミーンミンミンシャワシャワシャワシャワ

 チリンチリン

 ポリポリポリポリ

 カコーン


 あ、鹿(しし)おどしだ。

 じゃなくて。


「花恭さん? 黙ってないで否定して?」

「いや、ねぇ」


 花鹿ちゃんは何も考えず言っただけだろうけど、黙られると変な空気になる。


 すると、車座で畳にお膳を並べた上座。

 ポリポリたくあんを齧ってた花八重さんがにっこり笑う。


「大丈夫よ。騙し討ちとかするつもりだったら、とっくに闇討ちされてるわ」


 やだ、今すぐ東京帰りたい……。






 といって脱走するわけにもいかず。

 朝ごはんが終わってダラダラしてたら10時。


 私たちはまた謁見の広間に集まった。

 最初の裁判があったのと同じ部屋。


 座る配置は前回と一緒。

 またみんな羽織を着て並んでる。

 やっぱり威圧感あるっていうか、壮観だね。


 花持さんや花千代くんに会うのは前回のハモしゃぶ以来かな。


 今回は誰に異様なムードを醸されるでもなく、あっさり受け入れられて



「御前さまが、お入りになられます」



 そう待たされることもなく、花衣さんが登場した。


(みな)、一族の集まりも今日までとなる。改めて、よく集まってくれた。感謝したい」


 前回は『何を言い渡されるんだろう』と緊張してた。

 そういうのがなくなって、改めて向き合うと


 あぁ、なんか、素直に威厳とか荘厳さとかが伝わってくる気がする。


「なかには妖怪退治を行なってくれた者もいるようだが。少しでも羽根を伸ばす時間になったならうれしい」


 ここでみんな、示し合わせたように座礼。

 毎年の流れなんだろうね。

 私も合わせて頭を下げる。


「このあとは各々任地へ戻り、日常に戻る運びとなる」


 そのまま話が続けられると、みんなも()()()に姿勢を戻していく。


 するとそのあいだ、花衣さんは話を止める。

 全員が体を起こして、目が合うのをじっと待っていたみたい。


 なんとなく顔がこっちを向いている、とかじゃなくて。

 わざわざ一人一人と目を合わせたあと、彼女は背筋を伸ばすと



「しかし、今回は少し編成を変える運びとなる」



 この集まりの最重要事項だろう内容を切り出す。


 誰が何を言ったり、動いたワケじゃないけど。

 若い人が座る下座の方で雰囲気がざわっとする。


 一方、年齢層が上の人たちは動じず座布団に腰を据えている。

 年季が違う落ち着きなのか、もしかしたら重鎮たちは先に話し合ったのかもしれない。


「そりゃ、アレか。任地のローテーション回すってことか」


 花海くんが思わずって感じで切り込む。


 でも、花衣さんは首を左右へ。


「そうなる者も出てくるだろうが、全体で言えばそうではない」

「じゃあいったい」

「順を追って話そう」


 彼女は花海くんを手で制すると、話を自分のペースに戻す。


「私は北上くんが東山に到着したとき、花鹿に逐一の報告を求めた。

 直接会うまえに、もう一度よく知りたいと思ったからだ。

 一族の末端ではなく、私が人となりを知っている者のレポートが欲しかった」


 花恭さんを挟んだ向こう。

 花鹿ちゃんが横目でニヤッと笑った。


 そっか、だからあの日、門前で掃き掃除なんかしてたのね。

 偶然装ってたけど、私と確実に遭遇するため待ち構えてたんだ。


 なんで跡目継の子が使用人みたいなことしてるんだろう、って疑問だったんだ。


「そしてあがってきた話の中に、



『アフィラーマジムンを調理して出した』



 というものがあった」


「アフィラーマジムンか」

「マジムンと言えば、沖縄の連中だな」


 花九郎さんと花満さんが小声で話している。

 リアクション的に重鎮たち(勝手に任命)も聞いてない話っぽい。


「しかし、聞けば東京駅のホームにて討伐したものだという。



 これは由々しき事態である」



 花衣さんは一際凛とした、なんなら圧力を伴った声を張る。

 この話の中で、ここが一番重要なポイントなんだろう。


 でも、



「……何が?」



 私はプロじゃないから、まったく分からない。

 その深刻さに着いていけない。


 でも質問して話の流れを切るつもりはなかった。

 だから小声でつぶやいたんだけど、花恭さんの耳はしっかり拾ったみたい。

 軽くこっちを振り返る。


 当主が話してるんだから静かにしろ、って表情だったけど


「花恭。北上くんに説明してあげなさい」

「はい」


 花衣さん優しい。

 私に合わせてくれる。

 もしくは私もしっかり理解しなければならない話なのか。


 花恭さんは座りなおして、私に体の正面を向ける。


「そうだな。まず、小春さん。あの東京駅で遭遇して僕が話すまで、


『アフィラーマジムン』って存在、知ってた?」


「いえ」

「妖怪としてマイナーな存在だしね。


 しかも沖縄ローカルで、『ニュージーランドにしか生息してない鳥』とかと大差ない」


 確かにアヒルの妖怪なんて、似たようなのすら聞いたことない。

『現地語ではこう呼ばれてる』とかじゃなくて、本当に沖縄にしかいないんだろう。


 と思うと、

 真剣な、少し険しい花恭さんと目が合った。


「問題は、



『なぜアフィラーマジムンが東京にいたのか』



 ってことだ」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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