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お肉は柔らかい方がおいしい

「ふーっ、スッキリ!」


 社の片付けも終わって、壁のお札を剥がしに掛かったころ。

 ようやく花恋さんのリンt……天邪鬼討伐が終了した。


「この人、仕事にストレス発散持ち込んでるの?」

「趣味と実益を兼ねてるな」

「どっちがバケモンですか」


 もうこんなのばっかりじゃん花の一族。

 こんな倫理観終わってる人たちに日本が守られてるとか。


 なんていうと倫理観ない目に遭わされそうだから黙っとく。


「じゃ、ちゃっちゃと片付け終わらせて帰ろっか!」

「君が手伝わないから遅れてんだよ」











 ということがありまして。

 意外に時間も掛からず、夕方にもなるまえに花形屋敷、

 もとい花待屋敷へ戻ってこれた。


 私は今、キッチンにいる。

 母屋の和風邸宅じゃなくて離れの一軒家の方。


 さすがに花恋さんも最初は、夢いっぱいなキッチンで妖怪料理には抵抗した。

 でも母屋の方の料理長に


『今からこっちも夕飯の用意始めるから邪魔』


 ってことで追い出された。

 一家の当主より立場強い料理長(40代スキンヘッド逆ガル翼型の口ヒゲ)。


 私は設備さえ揃ってれば、場所はどこでもいいんだけど


「う〜ん」


 問題はそこじゃない。



「鬼ってどう料理するもんなの?」



 あまりにも未知の存在。

 それでいて妖怪のスタンダード。


 今までの

『こういう特徴が既存の食材に似てるし、こうしよう!』

 みたいなのがない。


「ガリッガリの小鬼だしなぁ。もう丸ごと茹でた方がいいかな?」


 いや、でも


「……見た目がTHE・鬼はちょっとね」


 食欲湧かないよね。

 私も作っててイヤです、そんなの。


「まともにお肉なんかなさそうだけど、精肉はしとこう」


 その方がいい。

 まる茹では火の通りも分かりにくいし。

 薄めの肉に切り出しておけば、そのへんの心配はいらない、はず。


 とりあえず包丁を入れ



(かった)!!」



 られない!?


「え? え? 何コレ?」


 ガリガリだから骨張ってるとかじゃない!

 皮からもう硬い!

 石材ブロックに包丁当てたみたいな感触だった!


 ほら、証拠に薄皮1枚切れてない!


 いったい何がどうして?

 天邪鬼ってそういうモンなの?

 石像に命が宿った的な存在なの?


 とにかく


「コレは困ったぞ?」


 このひと言に尽きる。


 包丁が通らないんじゃ、調理のしようもないよ?

 やっぱりまる茹でにするしかないの?


 にしたってコレじゃ、結局食べられなくない?

 いくら花恭さんにアゴの力があったとしても、食材の範疇超えてるって。


「やっぱり、お肉を柔らかくする必要があるよね」



 パッと思い付くのはシャリアピン。


 本来はステーキの技法で、すりおろした玉ねぎにお肉を漬け込むことで柔らかくなる。

 歯の具合がよくなかったシャリアピンさんでも食べられるよう考案されたレシピ。


 リンゴや味噌、あとは意外に舞茸なんかでも同じ効果が得られる。

 でもシャリアピンのいいところは、玉ねぎがそのままソースとかに使えること。


 いや、舞茸もソテーにすればいいんだけどさ。

 やっぱり味噌も臭み取りになるし捨てがたいな。



 他のやり方といったら、炭酸で煮込むとか。

 コーラ煮って聞いたことがある人もいると思う。

 角煮を炭酸で煮込むって裏技も、すっかり有名になったよね。



 あとはブライン液を作って漬け込むとかもあるけど、



「うーん」


 ここは雰囲気を楽しむ離れのお(うち)

 日々の生活をガッツリ賄う場所じゃない。

 今朝も出てきたのはハーブティーとクッキーだった。


 ってことで、


「いろいろ材料足りないな」


 玉ねぎや味噌なんて置いてない。

 一応リンゴはあるし、砂糖、塩、水でブライン液も作れるけど、


「柔らかくして終わり、じゃないしなぁ」


 そのあとの調理、味付けやら付け合わせやらが必要になってくる。

 そもそも小鬼でも丸ごと漬け込もうと思ったら量がいるし。


「材料借りるくらいは許されるでしょ」


 母屋のキッチンへ少しお邪魔しよう。

 料理長ちょっと怖いけど。






「すいませ〜ん」


 手洗いうがいを済ませて調理場へ入ると、


「おや、北上さん。いかがなさいました」


 何やらソースを味見している最中の料理長が、意外と気さくに声を掛けてくれた。

 いきなり天邪鬼なんか持ってくるから悪いのであって、普通にしてたら普通みたい。


「いや、ちょっといくらか食材をお借りできないかなぁ、と」

「なるほど」

「あ。ドミグラスですか」

「えぇ。少し味見してみますか?」

「いいんですか?」

「ぜひ」


 小さじに少しもらってみる。

 やっぱり缶とは違う、濃厚にして繊細な香り。


「ん、入ってるのはモロヘイヤですか?」

「お分かりになりますか」

「栄養価が高いから夏バテ対策になるし、何より旬ですからね。セロリの代わりにするのは発明だなぁ」

「お詳しい。あぁ、北上さんも料理をお仕事になさってるんでしたね」

「仕事、って言っていいのかな? 学生だし」

「はっはっはっ! あなたのお墨付きなら大丈夫ですな!」


 背中をバンバン叩かれる。

 ちょっと力強いけど悪い気はしないかな。


「で、食材でしたな」

「はい」


 料理人同士話が通じて楽しいけど、はしゃいでる場合じゃない。

 今度ゆっくり話そう。


「タマネギをいただけたらと」

タマネギ(オニョン)ですか。フランス人の魂だ。何をお作りに?」


 フレンチ系の人なのかな?


「シャリアピンにしてみようかと」

「またマニアックなものを。一度あなたとはじっくり語らいたいですな」

「私もです」

「タマネギならたくさんありますから、好きなだけ持っていってください」

「ありがとうございます」


 というわけで無事交渉成立。

 冷蔵庫に近付くと、


 別の調理台で部下の人が、フランスパンをおろし金でパン粉にしている。

 横には牛肉の塊。


「コートレットですか?」

「そうですよ。当主より『夕飯をご一緒なさる』と聞いています。お楽しみに」


 料理長がムンと胸を張る。

 そのあいだに、別の料理人が肉を手に取って、


 肉叩きで薄く伸ばしていく。


 そうそう、アレも叩いて繊維を壊してやる、お肉を柔らかくする方法……



「そういうことか」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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