どう見ても霊感商法
『あれ以来、調子はどうかな』
『はい……』
『うん、分かるよ。薬はどうだった?』
『パニックは治るんですけど、やっぱり……。包丁で指を切ってしまいました』
スマホからスピーカーで診察内容が聞こえてくる。
コレもう盗聴でしょ。
「薬ってなんだろうね」
「カルテによるとアルプラゾラムだね」
でも花恭さんも花恋さんも平気そうな顔。
彼女を救うため、正しいことをしているとはいえさぁ。
よく漫画やアニメで『行きすぎた正義を掲げる悪役』が出てきて
『正義のためには犠牲もウンタラカンタラジュゲムジュゲム!』
とかいうけど。
最初はこういう些細なところから始まるのかも。
それはそうと、
「花鹿ちゃん」
「なんでしょう」
「ここまでする必要あった?」
「患者の状況確認ですか?」
「そうじゃなくて」
それもそうなんだけど、そこは素人の私が口を挟むことじゃない。
そのうえで、素人でも気になること。
それは。
軽く室内を見回す。
「部屋をさ、こんなさ。格好だって……」
「しっ!」
話の途中で花恭さんに制される。
こっちが話の途中で私語したのはそうだけど。
『もうお皿洗いもさせてもらえなくなりました。万引きしそうで怖くて、コンビニにも行けません。
夏休みが明けても……私、学校で何するか。
先生! 私、どうしたらいいんですか!』
『うん、不安になるよね。
でもね、効果が出ていないなら、アプローチを変えればいいだけなんだ。
君がよくなる方法はまだまだある。落ち着いて』
「来るぞ!」
「はいなー!」
「総員配置に着けーい!」
プロたちが慌ただしく動く。
『ということで、今日は違う治療をしてみようと思う。
別室で準備しているから、ちょっと着いてきてもらえるかな?』
「よーしよしよし!」
花恋さんが腕まくりするのを尻目に、
「ほら、小春さん」
「はいはい」
私と花鹿ちゃんは部屋を出て、ドアの左右に着いて正座。
今回これ以上私がすることはないんだけど、
「なんか緊張するね」
「花橋と吊り橋効果しちゃいます?」
「しちゃいません」
本当に大丈夫かなぁ、って感じがする。
何せ、
「あの、先生」
ややあって、廊下の角から平田さんの声と二人分の足音が聞こえてきた。
「大丈夫大丈夫」
「でもこんなところ、なんの治療なんですか?」
……なんか、会話だけ聞いてたら、いかがわしいビデオみたい。
案の定花鹿ちゃんがニヤニヤしながらこっち見てる。
なんでこの子はいちいち男子中学生みたいな拗らせ方してんの?
なんて思ってるうちに、ターゲットが角を曲がってくる。
私たちは慌てて視線を正面に戻して、努めて真顔。
だけど、
「えっ」
すぐに平田さんの困惑と、引いてるニュアンスも入った声がする。
「あの、先生?」
「大丈夫だから」
「でも私、こんなの。コレはさすがに……」
ますますいかがわしい会話。
でも、そうなるのも仕方ないよね。
「ようこそいらっしゃいました。中へお入りください」
花鹿ちゃんが立ち上がって、恭しく出迎える。
それに合わせて私がドアを開けて、中へ誘うワケだけど、
「うわぁ」
一歩入って光景を認識するなり、平田さんは露骨なリアクション。
だって、
「ようこそ」
「いらっしゃ〜い」
真っ暗な部屋
壁中に貼られたお札
張り巡らされた注連縄で作る、正方形の空間
怪しい祭壇にはお酒、和菓子、塩、榊、弓矢、小刀
その奥に鎮座する、神社にある摂末社みたいなお堂
とりあえず置いとけみたいな大量の蝋燭
「私、ちょっと、遠慮しときます……」
「まぁまぁ、そう言わずに!」
「あとからお金請求したりしないから」
逃がさないようガシッと腕をつかんでくる、うさんくさい巫女と神主。
さっきとは別のいかがわしさに満ち溢れた空間だもの。
『手伝って』って言われたのはコレの設営。
ちなみに私と花鹿ちゃんも巫女服。
「先生……」
かわいそうに、すっかり怯えちゃって。
この場で唯一まともな大人である医師へ、救いを求める目を向けてるけど
「大丈夫、安心して。座ってるだけで終わるから」
悪いね。ソイツ、グルなんだ。
泣きそうになった平田さんを、花鹿ちゃんが注連縄で囲われた座布団へ座らせる
んだけど、そのとき肩に置かれた手は包帯まみれ。
「ひっ!」
……コレ、精神状態悪化しない?
今回は妖怪の仕業でも、終わるころには別の病気にならない?
でももう逃げられない。
「お寺でお祈りするみたいな? 手を合わせてるだけでいいから」
花恭さんに優しく言われると、諦めて正座で合掌。
それを見て頷き合う3人。
三角形で平田さんを囲むように立つ。
左斜め後ろに花恭さん。
「ウシュニ〜シャ〜〜 ヴィジャ〜ヤ〜〜 ダ〜ラ〜ニ〜〜」
なんかお経を唱えはじめる。
すると右斜め後ろの花鹿ちゃん。
神楽とかで見る塊みたいな鈴をシャンシャンと鳴らす。
そして正面、神棚の前。
花恋さんが香炉に小っちゃい木片をパラパラ入れる。
それから平田さんの顔の前まで持ってきて、甘い煙を浴びせている。
彼女は目を閉じてたから、急な煙に
「エホッ!」
むせている。
いやぁ、ただでさえ変な心理状態で苦労してるのに。
こんな目にまで遭わされて、本当に災難だね。
なんて思っていると、
「ヴァチャナ〜〜 アムリタ〜〜 アビシェ〜カイヒ〜マハ〜〜」
「エッホエッホゲッホ!」
って声と、鈴の音の三重奏に紛れて、
『グギ』
「ん? 先生何か言いました?」
「いいえぇ?」
明確に、
『グギ、グゲゲ……
グオオオ!!』
高めの、ザラ付いた唸り声が聞こえてきた。
それと同時、
「あぁっ!」
「しーっ。患者を刺激してしまいます」
「あっ、はい」
そんなの今更でしょ、ってのはさておき、
平田さんの右肩、うっすらと浮かび上がる
身長1メートルもない、痩せ細った何かがしがみ付いている。
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