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人気者はツラいよ(瀕死)

 花の一族から存在を認められたのがつい先日。

 今は何を気にする必要もなく、花形のお屋敷に逗留している。


 裁判自体は終わったんだけど、それ以前に

『お盆に親戚が集まる』

 という当然の風習があるわけで(近年そうでもないかも)。


 今年はうまいこと土日も組み合わさって長めの盆休み。

 だから花恭さんはまだ東京に戻らない。

 私もお供してる。


 そもそも企業勤めがいないから、カレンダーどおりである必要もないけど。


 お店の稼ぎさえなんとかなるなら、ね……






 朝の9時をまわったころ。


「ふああふ……」


 無駄に長い渡り廊下の先、見えてきたのはお寺

 じゃない。


 敷地が広くて和風の建物も複数あって。

 なんなら普通のお寺より断然大きいくらいだけど、



 これは花形屋敷の一部、お客さんが止まる房。



 花恭さんに


『僕ら東山一党は一箇所に詰め込まれるんだよ? ケチな話だ』


 とか言われてたから、広い間で雑魚寝でもさせられる

 まではさすがにないにしても。男女がいるし。

 狭い合宿所みたいなところになるのかな、とか思ってた。


 それがまさかもまさか、たった数人のために屋敷一つレベルをあてがうなんて。

 庶民の私には『どこがケチなの』って話。



「おはよう。朝帰りとは大胆だね」

「あ、いや」


 宿坊に入って回廊を歩いていると、庭から声が掛けられる。


 花恭さんだ。


「おはようございます」

「おはよう」


 花鹿ちゃんもいる。

 二人は敷物に座って、大きな日除の傘を立てて、お茶をしている。

 それは風流だけど、なんで彼女は今日もセーラー服なんだろう。


「朝帰りと言っても、同じ敷地のはずなのだけれどね」

「うわっ!」


 そっちのフォトジェニックな光景に気を取られて、背後からの声に肩が跳ねる。


「あら、驚かせたわね、ごめんなさい」


 振り返ると、そこにはクスクス笑う花八重さん。

 お盆の上に香炉を載せている。


「いや、こっちこそ変なリアクションして、失礼しました」

「いいのよ、別に」


 彼女は年齢相応の深みと、年齢を感じさせないキレイな笑みを残して庭へ。

 すれ違いざまの甘い匂いは、香炉の中身か本人か。


 3人の茶会、花海くんはいないらしい。

 彼には悪いけど野郎の宿命、いない方が絵になる。


 って考えると、花恭さんって結構アレだね。

 この中に混じってて邪魔しない。

 中性的、じゃないけど、品格っていうのかな、絵本の王子さま感がある。


 黙ってじっとしてればね。


 なんて、寝起きと二日酔いでボーッとしていると、


「小春さんも降りてきなよ」


 花恭さんが手招きしてくる。


 私がその世界に?

 ちょっと畏れ多い。いろいろエラー起こしそう。


「遠慮しときます」

「なんだい? 日頃の恨みを込めて、僕を高い位置から見下ろそうっていうのかい?」

「なんでそうなるのよ」

「恨まれてる自覚があるのね」

「そこのエノキにタマムシが集まってるのを、みんなで観てるんです。小春さんもぜひ」

「花恭さんも花鹿ちゃんみたいな風流の心を持っては?」

「発案者は僕だ」


 花八重さんもニッコリじっと見てくる。

 なんか逃げられる感じもしないし、素直にお呼ばれしておこう。


「じゃあ失礼して」


 庭に降りる階段から茶会の場所まで、ずっと絨毯が敷かれている。

 今素足だけど問題ないね。


 傘の影に入ると、花鹿ちゃんは少しズレてスペースを作ってくれる。

 すると彼女を挟んだ右隣の花恭さんが、顔を覗き込んでくる。


「昨日は花九郎さんとこで楽しんだんだろ? 話聞かせてよ」



 そう、さっき花八重さんが


『同じ敷地』


 って言ってたみたいに。


 以前にも聞いたけど。

 嵐山一党の人たちは、東山と違って独立した屋敷を持っていない。

 その代わり、それぞれ花形屋敷の敷地内に、同じくらい大きな区画を分譲されている。


 てなると、複数の家で一つの宿坊に入れられてる花恭さんが


『ケチな話』


 というのも、分からないでもない。

(これは彼の性格込みであって、普通は自分の屋敷もあるしそんなこと思わない)



 それで私は昨晩、花九郎さんの住んでる便宜上花染屋敷にお呼ばれ。

 彼とマブダチ(親戚)な花満さんの九州土産で、


『いやぁ! 君はいい人だ! 大和撫子の鑑だ!』

『花恭はご覧のとおりだから、さぞかし苦労するだろう。だが君なら安心して任せられる』

『私が男だったら逃さないね! 今襲う』

『オマエはむしろオレたちおっさんから、彼女を守るために来たんだろうが』


 と褒め殺されながら(?)、花恋さんも加わって4人大いに飲み食いした次第。

 これが朝帰りの理由。



「ていっても、麦と芋1本ずつ空けたあとから記憶ないし、たいした土産話ありませんよ?」

「一人でですか?」

「いやさすがに4人掛かり」

「いいなぁ、僕もカラシ蓮根で焼酎飲みたかったよ」

「小春さん、すっかり気に入られてますね」

「おじさんって、やたらと若手に飲み食いさせたがるんだよね。なんでだろう」

「うふふ、私たちくらいの歳になるとね。若い頃より食べられる量が減るから、見てるのが代わりになるのよ」

「いや、それにしては飲みっぷりがオカシイです。花恭さんもそうだし、花の一族肝腎膵おかしい」


 すると、さすがに朝はお茶にしている花恭さんが()()()と笑う。


「ま、酒とタバコには古来より、魔を払う力があるとされている。だから僕らも強制じゃないけど、本家から推奨はされてる」

「現代医療に中指立ててますね」

「そのせいか知らないけど、そういうのに強い遺伝子が多く生き残ってる傾向はあるね」

「選択圧、なのかな?」

「たまーに聞くでしょ?

『オレのじいちゃんは酒もタバコもやったけど、80いくつまで生きてピンピンコロリ』

 みたいなの。そういう体質さ」


 それは酒やタバコに限った話じゃなくて、ただただ頑丈だったのでは。

 たぶん健康な暮らししてたら100まで生きるポテンシャルあったよ。


「ちなみにお酒やタバコを好む妖魔の話もあるので注意です」

「ダメじゃん」


 じゃあもう酒飲みが酒飲む言い訳付けてるだけの、ただただ酒飲み遺伝子じゃん。

 なんか茶会の風流も一気に消し飛んだ気がする。


 するとある種の緊張が消えたのか、急に眠くなってきた。

 二日酔いで頭も痛い。


「じゃあ私はこれで失礼します。部屋で寝とくから、なんか用があったら起こして」


 退散しようと腰を上げると、


「ん。じゃあ2時間後ね」

「え」


 やけに具体的な返事をされた。


「小春さんには悪いけど、僕ら昼から花恋さんに呼ばれてるから」

「えぇ……」


 あの人も元気ね。

 どうかお酒は出ませんように。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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