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友よ同じ鍋をつつこう

「えっ!?」

「えっ、とはなんだい」

「あ、いえ」


 すっかり忘れてた。

 忘れてたし、試験は今回流れたとも思ってたし。

 完全にないと思ってた。


 そんな心理は知ったこっちゃないと、花衣さんは懐から白い封筒を取り出し


 中の紙を広げる。


「ではさっそく始めさせてもらおうか。



『お目付役 花橋花鹿:この者、臨機応変にして勇敢なり。しかれば、花橋の家名に賭けて、認めるべきと存ずる』」



「わぁ!」


 ここは予定調和、なんて思ってない。

 誠実な子だから、むしろ緊張した。


 だからこそ、花鹿ちゃんがお家まで持ち出して認めてくれたこと。

 すごくうれしい。


 で、



「続いて、『お目付役 花市花海』」



 問題は次。



「『文句なし』



 以上だ」



 え?


 ホントに?


 あの目の(かたき)にしてきてた花海くんが?



「は、花海くん!」


 思わず振り返ると、


「うわ、なんだオメェ、気持ち悪りぃ」

「あれ?」


 自分がどんな顔してたかは分からないけど、めっちゃ辛辣なこと言われた。


 でも彼もすぐ、爽やかな笑顔になる。


「勘違いすんなよ。

『オメーが花恭さんの役に立つ。そばにいる資格はある』

 って認めただけだ。


 より相応しいのはオレの方だからな」


 そういう顔もできるんだね。

 言ってることは頷いていいのかどうか分かんないけど。


 でも無視したら怒られそうだしなぁ。


 なんて困っていると、


「男女の友情も美しいが、先に私の役割を果たさせてくれ」


 花衣さんがうまいこと話題を動かしてくれる。


「北上小春くん」

「はい」

「私、花形花衣は、72代花形家当主の名において



 あなたが花瀬花恭とともにあり、任務にあたることを認可する」



「ありがとうございます!」


 ぶっちゃけ一緒にいるのを認めてほしいだけで、妖怪狩りはむしろ遠慮したかったり。

 でもここでそれを言うのはナンセンスがすぎる。

 黙って頭を下げておこう。


「おめでとうございます! 小春さん!」

「やったな北上くん! 君はもう押しも押されもしないオレたちの仲間だ! 歓迎するぞ!」

「いえーい! ねぇ、よかったら私ともトモダチにならない?」

「おねえさん、これからよろしくお願いしますね」

「分からないことがあったら、私にも遠慮なく聞いてちょうだい」

「まぁ気負わずにやるといい」

「期待しているぞ、若いの」


 みんなこの調子だし。

 祝福の嵐にペコペコしながら振り返ると、


 花恭さんは私を見て、静かに微笑んでいた。


 でも、それでいいよね。

 だって、


 一緒にいられるかぎり、積もる話はまたあとでできるんだから。


 そんな私たちの様子を察したんだろう。


「さぁ、それでは北上小春くんに敬意を表して。

 このままハモしゃぶで宴席に移るとしよう。

 さぁ、みんなも食べてごらん。おいしいよ」


 花衣さんが音頭をとり、その言葉で他の皆さんも動き出し、卓を囲む。


 ザッと襖が開いて、

 単純にご当主の明るい声で緊張から解き放たれたんだろうね

 満面の笑みの使用人さんたちが手に盆を持って現れる。


 配られるのは大量の瓶ビールとグラス、()()()()()()()()

 あとやっぱりバ◯リース。

 豪快な宴になる。


 嵐山と東山で固まるけど、


「向こう混んでるし私こっち〜!」


 花恋さんは私たちの方へ流れてきた。


「おぉ! うまい! うまいぞ北上くん!」


 花九郎さんはわざわざ遠くから感想を届けてくれる。


「お野菜の優しい甘味だから、しっかり味は付くけどハモ自身の邪魔をしませんね!」

「梅やからし酢味噌でいただくより、繊細な旨みがハダカだわ」

「鍋の具が全部巻いて食べれるのっていいね〜。せっかく一つの鍋に入ってるんだもんね〜」


 女性陣からも好評で一安心。


 ただ、


「でもよ、やっぱりなんかパンチあるタレがあってもいいんじゃねぇか?」


 若い男子の花海くんには少し物足りないかな。


「もちろん用意はあるよ」


 ポン酢と()()()()()()も持ってきてもらおうと、手を挙げたそのとき


「花海。君にとってはそうかもしれない」


 急に花衣さんが口を挟んだ。


「でもね。



 これが誰のための料理か、忘れてはいけない」



 その瞬間、全員の視線が後ろへ集まる。

 そう、上座から下座へ真っ直ぐに並んだちゃぶ台2つ。


 そのさらに向こう。



 これは、一人用鍋が載ったお膳を前にしている



「うん、



 おいしいよ、小春さん」



 花恭さんのために考えたレシピだ。



「あ、そうか」


 花海くんも理解したらしい。


 彼が食べるのは妖怪。

 そして、今回薄切りになって置かれているのは田がらし



 海綿動物、スポンジの妖怪。



「そりゃ、あんだけたっぷり出汁吸ったら、タレはいらねぇよな」

「そういうこと」


 花海くんと頷き合っていると、


「花恭、よかったな。君のそばには素晴らしい人が着いてくれている。



 君のことを第一に考え、君にぴったりのものを与えてくれる人だ」



 花衣さんが心底うれしそうに声を掛ける。



 だけど、



「そんなことないと思うけどな」



「「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」」


 えっ。

 今なんて?


 最もあり得ない言葉が飛び出したように聞こえたけど、気のせい?


 じゃないよね。

 私以外の全員も、あっけに取られてポカンとしてるし。

 あの厳粛な雰囲気のご当主すら、口がOの字になってるし。


「ど、ど、どうして?」


 ちょっと受け入れられない。

 ショックデカすぎ。

 ここで花恭さん本人から切り捨てられるのは、ちょっと人間不信になる。


 震える声でなんとか聞いてみると、


 花恭さんは()()()()()に吐き捨てる。


「だって、この祝いの席に



 僕の鍋だけ仲間外れ(ハブ)にした」



「え、えぇ……」



 いや君は妖怪食べてるんだからガマンしてください。

 私がいる理由ソレなんだから。











             花麗なる一族 後編 完

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

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