勝って終わり、ではない
「きゃああああ! やったーっ!!」
「勝ちましたっ! 勝ちましたねっ!」
両手をハイタッチに合わせて盛り上がる女性陣。
あんまり騒ぐと人来るよ?
でもとりあえず、田がらし退治は無事成し遂げられたみたい。
ホッと胸を撫で下ろしていると、
「おい」
「あ」
花海くんが声を掛けてきた。
「どしたの」
「どしたのじゃねぇよ」
彼はムスッとした顔で数秒私を見つめていたけど、
やがてポン、と、すれ違いざまに肩へ手を置いてくる。
「ま、今日のところは見逃してやるよ」
角度的に顔は見えないけど、ていうかそれを狙ったんだろうけど。
「はは、よかったらもう数日延長して」
あまり追及せずジョークで流すと、
「おーおーなんだい。僕の知らないうちに恋が走り出したのかい?」
「なっ! 花恭さん! 違ぇよ!」
「やめてくださいよマジで! マジで!!」
花恭さんも戻ってきた。
そこに女子たちがハイタッチの輪を広げる。
「おかえり恭く〜ん! さっきの13代目石川五ェ門、カッコよかったよぉ!」
「そうでしょうそうでしょう。ふふん」
「五ェ門正式名称で言う人いるんだ」
一仕事終えてテンションが高いのはよろしいけれど、
「じゃあねじゃあね! 私が不二子ちゃん!」
花恋さんが話を変な方向に持っていきはじめる。
「じゃあルパンは今回のリーダー小春さんか」
「え、私!?」
「じゃあ私は次元ですか? 悪いなルパン、今回ばかりはオレぁ降りるぜ……」
「終わってからそれ言う?」
「ちょっと待てよ。それだったら人数足りねぇじゃねぇか! オレは!?」
「アンタは銭形でいいわよ。散々ルパンにケンカ売ってたんだし」
「さすが火消しだな。江戸の花だ」
「マジかよ……」
花海くんも愕然としてるけど。
私もせっかく『見逃す』宣言もらったあとに、その関係は勘弁してほしい。
ていうか早く帰ろうよ。
翌日のお昼。
私はまた家族会議に呼び出されている。
しかも今回は、
「申し付けたその日に解決するとは、見事なものだね」
私、ご当主の真正面。
花恭さんの隣じゃない。
距離は離れてるけど、1対1で真正面。
まさに判決を言い渡される被告人の立ち位置。
座ってるけど。
花恋さんが『ガンバッ!』って感じでガッツポーズしてるけど、何を?
そもそも昨日のはお目付け役乱入で試験にならないんじゃ?
まさか理不尽にも振替日なし、一発落第にならないよね!?
「さて、今日の昼膳は君が設えてくれたのだね」
「はい」
「楽しみだ」
実はそう。
花衣さんの言うとおりで。
私が花恭さんと一緒にいる理由の大部分。
それが料理。
というわけでご当主が
『それなら君の、料理の腕も見ておきたいものだね』
と言い出した。
結果、今からここに、花恭さんに振る舞う妖怪料理が運ばれてくる。
他の人は妖怪が入ってない、レシピだけほぼ同じヤツだけど。
査定はまだ続いているのかもしれない。
そんなことを考えていると、奥の方、ご当主から見て左手側の襖が開く。
「料理が来たようだ」
にっこり笑う花衣さんだけど、
「おや……」
驚きに目を丸くしてらっしゃる。
きっと、前回みたいにお膳で運ばれてくると思ったら、
ちゃぶ台が2つ入ってきたからだと思う。
「これはこれは。なかなか趣向を凝らしたものが出そうだね?」
「そこまで大袈裟なものではないんですけど。せっかく一族でお集まりなので」
「ほう」
次に運ばれてきたのは、
卓上カセットコンロ。
「おぉ、これはもしや!」
花九郎さんが軽く膝を打つと同時、
土鍋も一緒に運び込まれる。
「なるほど、みんなで同じ鍋をつつこう、そういう話なんだね」
「よくある発想ではありますけど」
「そうだとしても素晴らしいことじゃないか」
花満さんと花八重さんが、
『当主と同じ鍋を囲んでいいのか? 恐れ多くないか?』
ってアイコンタクトしてたけど、本人が乗り気そうでホッとした。
怒られることはなさそう。
ていうか変なところで線引きあるのね。
いや、
「何鍋だろうなぁ!」
「私最近ゴマ豆乳鍋ハマっててぇ」
花九郎さんは花恋さんとワクワクしてらっしゃるから個人差かな。
「あんまり辛いのじゃないといいんだけど」
「胃腸に優しいものだといいのだが」
年齢差60くらいありそうな二人の不安な声もあとの祭り。
土鍋の蓋が開くと中身は、
「何コレ?」
花恋さんが身を乗り出して覗くと、思わず他の人も首を伸ばす。
「色は着いているが、透き通ったスープだな?」
「細切りのはお野菜かしら? たっぷり入ってるわね」
「下に昆布も沈んでいる」
「肉も魚も入ってねぇじゃねぇか」
若い男子花海くんからクレーム入ったところで、
「まぁまぁまぁ」
別皿で運ばれてきたのは
「おや、これは」
「ハモ、ですか?」
湯引きするまえの刺身状態。
花鹿ちゃんが驚いた目で私を見てる。
そりゃそうだよね。
「北上小春くん。我々は昨日同じものを食したところだが。
そこにぶつけてくるとは、たいした自信だね?」
こうなるもんね。
花衣さんの目付きは、咎めてないけど不敵だ。
「さて、メニューの説明をしてもらえるかな?」
「はい。『ハモのしゃぶしゃぶ』です」
「ほう!」
あっさりしたメニューに、はっきり花持おじいさんと目が合った。今絶対目が合った。
「昆布、ハモの骨、玉ねぎ、アサツキ、ニンジン、キャベツ、セロリで出汁をとりました。
そのままでも、野菜を巻いていただくのも結構です」
「それで細切りなワケね!」
「しかし、ハモしゃぶではあまり見ない野菜が多いぞ」
「え、そうなんですか?」
花千代くんはこんなもの食べないだろうしこの反応だけど。
大人はよく心得ている。
「それに、ポン酢とかは出てこないのか?」
花満さんや花九郎さんの言うとおり。
花鹿ちゃんが私より緊張した顔でこっち見てるけど、まぁ任せて。
「まずはそのまま、お召し上がりください」
胸を張って答えると、
「ではそうしてみようか」
ご当主が上座から降りてくる。
豪華な和服を着た人物がちゃぶ台に着く異様な光景。
周囲の緊張をもって見つめるなか、袖を捲ってしゃぶしゃぶと。
手を添えながら、ゆっくり口へ運ぶ。
「これは」
花衣さんは思わずつぶやいたあと、まずは飲み込んでから私を見据える。
「なるほど。切れ込みが入って身もふうわりしているから、出汁がよく染み込むのだね。
たっぷり野菜を煮出してあげれば、タレがなくともおいしく食べられる、と。
素晴らしいじゃないか」
「お褒めに与り光栄です」
「愚問かもしれないが、料理の腕も一流なんだね」
彼女は軽く微笑んで頷く。
ありがたいお言葉です。
花恭さんもだけど、いいものばかり食べてそうな人に言われると自信になる。
でも今、それより気になる言葉が。
「料理の腕も?」
「あぁ、そうだったね」
花衣さんは一度上座へと戻る。
正座になって両袖をヒラリ、時代劇みたいに居住いをただすと、
「さて、北上小春くん」
いつもそうだけど、また一段落ち着きと威厳がある声を響かせる。
瞬間、鍋でわちゃわちゃ言ってた全員が黙って背筋を伸ばすほど。
なんだろう。
それはそれとしてポン酢がほしい、とかじゃないことだけは確かだけど。
一呼吸置いて、私と真っ直ぐ目を合わせて。
ついに切り出された言葉は
「君に課した試験の、結果を発表しようと思う」
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