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繋げてコンビネーション

「考え、ですか?」

「うん。だから花鹿ちゃんは私の言うとおりに動いてくれる?」

「分かりました」

「ネェネェ、私は?」

「静かにしててね」

「なんでよ!!」


 田がらしを倒す方法。

 二人の協力も取り付けられた(ということにしておこう)ところで、


「花恭さん! 花海くん!」


 今度はフォワード二人にも話を通しておかないと。


「うっせぇ話し掛けんな!!」

「取り込み中! 手短かに!」


 よく見ると田がらしの身体中に、サカムケみたいな傷はできている。

 刃物で切り付けてるだけはあるみたい。


 でもあれじゃ結局、仕留めるには途方もない時間が掛かると思う。


「悪いけど、その取り込み中をいったん切り上げてください!」


「なに?」

「はぁ!?」


「ひとつ作戦があるんです!」


 先の二人はあっさり受け入れてくれたけど、


「バカ言え! 誰がテメェみてぇな素人の!!」


 まぁこっちはそうなるよね。

 でもそこは信頼できるパートナーがいる。


「バカ! さっさと引き上げるよ!」

「グエッ!」


 さすがの怪力花恭さん。

 大の男でも襟首つかんで引っ張ってくる。

 まぁ相手側が抵抗してないだけかもしれないけど。


 そのまま彼らはひとっ飛びにこっちへ戻ってきた。

 そもそもそんな離れてないし。


「作戦があるってね」

「はい」

「狂言だったら切実に困るよ」

「落ち着いて。私がそんな無益な嘘ついたことありますか?」

「今存在が無益か問われてる最中じゃん」

「ひどいや」


 それこそ無益な会話をしている場合じゃないとは思う。

 でも、


『……』


 やっぱり知能も海面動物に準じてるのかな。

 こっちに襲い掛かってくる様子はない。


「で、どうするのさ」

「はい。まず、花鹿ちゃんが田がらしを」


 落ち着いて説明に入ろうとしたそのとき、



「おい! 待てや!」



 案の定と言うべきか、噛み付いたのは花海くん。


「どうしたの」

「花鹿はお目付だ! 協力させたらテメェの試験は落第だぞ!」


 ザマー見ろ! って感じじゃないあたり、忠告で言ってくれてるんだね。

 敵意さえなければ律儀な子なんでしょう。


 だったらたぶん、個人的な好き嫌いはともかく、

 この場は話せば分かってくれるはず。


「それに関しちゃ、もう今更だよ」

「はぁ?」


 花海くんの左眉がピクリと動く。

 でもすぐに腕組みをして、何やらウンウン頷いている。


「なるほどね。オレが勝手に仕掛けたからもう破綻してるって言いてぇのか。

 でも悪いな。オレは協力してやったわけじゃねぇし、屈辱だが状況も進んでねぇ。


 1から仕切り直しにゃ()()()()()よ」


「意外に冷静なのね」

「んだと!?」


 田がらしより私を殴ってきそうな態度に、花恭さんが割って入ろうとする。

 話早く進めてほしいんだろうね。


 でもいったんそれは待ってもらおう。

 右手で制すと彼はへの字の口で止まった。


「でも花海くん。

 私もう協力してもらってる」

「何言ってんだ。バカか?」


「あなたが最初に仕掛けたおかげで、私は相手の反応を安全な位置から見れたんだよ。

 物理攻撃が効かないことも、水を吹き出して反撃することも。


 花海くんがリサーチしてくれてなかったら、私がやられてたかもしれない」


「ぬぐ……」

「それに、何も状況を進められてないって言ったけど。


 そんなこと言わないで。

 あなたの活躍で、戦況は大きく変化してるんだよ?」


「あ?」

「ほら、あそこ」


 私が指差す先を、花海くんと花恭さんが目で追う。


 そこは田がらしの足元、っていうか田んぼ。


「アイツは大量の水を身に蓄える妖怪でしょ? 水が必須って言ってもいい。

 だけど、花海くんが何度も攻撃して吐き出させたおかげで


 持ち主には悪いけど、田んぼはカラカラ。

 アイツはもうこれ以上、思うように水を補給できない」


「なるほど」


 頷く花海くんに、


「それでね」



 ここであえて、手を取ってみる。

 組んでるところを半ば強引に。


 払われる、どころか攻撃されるかもしれない。

 けど、



「それを踏まえたうえで、作戦があるの。



 協力してくれる?」



 どうしても息を揃えなきゃいけない。

 向こうがしないなら、こっちから歩み寄らなきゃいけない。


 すると、花海くんは



「今かぎりだ。聞かせろよ」



 言葉とは裏腹、ふいっと顔を逸らせた。






「よし、じゃあ作戦どおりに。タイミングは私が合図しますから」

「任せてっ!」

「がんばります!」

「やってやらぁ」

「期待してるよ」


 二人を加えた、改めてのブリーフィングも終了。



 早速行動開始だ!



「花鹿ちゃん!」

「はいっ! 全、身、全、霊ぇ〜!」


 まず花鹿ちゃんが空手の『押忍!』みたいなポーズを取ると、


 背中からバサッと、光の翼が大きく広がる。


 ……コレって羽織突き破ってるのかな?


 それはさておき。

 花鹿ちゃんは電柱ほどの低空飛行で田がらしの頭上まで行くと、



「六根清ぉ〜浄ぉ〜〜!!」



 包帯を伸ばして田がらしを縛り上げ、そのまま宙へ吊り上げる。


 ずっと無警戒だったのが、ようやくグネグネ動き出すけど


「ぬぬぬぬぅ〜!!」


 しっかりギッチリ縛られてビクともしない。

 第一段階は成功ね。



「花海くん! 花恋さん!」



「おうよ!」

「アイアイ!」


 続いて第二陣。


『私も役に立つよぉ〜! 超使えるよぉ〜! 例えるならキッチンの重曹だよぉ〜!』


 とうるさかったので、花恋さんにも手伝ってもらう。

 重曹は私も厨房のシンク磨きで世話になってるし。


 二人は素早く吊り下げられた田がらしの両端に着くと、



「右に捻るぞ!!」

「はいせーのっ!!」



 スポンジボディを雑巾のように絞り上げる。



 ちょっと花恋さんの腕力が心配だったけど、さすが花の一族。

 若い男子の花海くんと釣り合っていて、


 みるみる水分が吐き出されていく。


 田がらしも危機を感じたんだろう。

 最初は真下へジャバジャバ落としていた水に、急遽方向をつけて噴射する。


 でも、



「きゃっ!」

「や〜ん、冷たい〜ゲボッ!」

「これキレイな水なんだろうな!」



 器用じゃないのか単純な量の問題か。

 三方向に分散させれば、相手を吹っ飛ばせるほどの威力を保てない。


 一人事故ってるけど。



 数分もそうしてると、


「軽くなりました!」

「よっしゃ!もう一滴もでねぇぞ!」

「花恋おねえさんが絞り尽くしてやったわ!」


 化粧が崩れて2体目の妖怪みたいになってる人はさておき。



「よしっ! じゃあ降ろしてくれ!」


「はいっ! 降ろします! せーのっ!」


 吊り上げた田がらしを、いったん田んぼに解放する。


 まな板の上のコイならぬウナギみたいに()()()()()()田がらし。

 アレだけたっぷり絞られたからね。


 てなったら、次にすることは明白。



 ズジュジュウゥ〜!

 と音を立てて、



 全身の穴みたいな口から、さっき落とした水分を貪欲に吸い込んでる。



 ここで私の出番!


 みんなが繋いでくれたチャンス、

 しくじるなよ北上小春!



「やあああああ!!」


 ワケもなく叫びながら、準備しておいたペットボトルの蓋を開ける。

 その中身は、



「ほぅら! 少しでも水分がほしいでしょ!」



 瓶子から移し替えてはあるけど、

 花恭さんが用意してくれた御神酒だ。



 妖怪を退治するべく作られた、神聖なる液体。


 それを思いっきりぶっ掛けてやると、



 田がらしは吟味もせずにゴクゴク飲む。



 瞬間、


 声も表情もないし、態度っていうのも乏しい。

 でも分かる。



 田がらしの柔らかい体が、ひきつけを起こしたみたいにビチッと固まる。



 絶対に効いている!

 アイツ今弱っている!


 でも私の役目はここまで。

 あとはバトンを繋ぐのみ。


 仕上げはやっぱり、我らが



「花恭さん!!」



「田んぼの肥やしに()()()()()()っ!!!!」



 矢みたいに一直線に飛んできた花恭さん。

 仕込み刀をおおきく振りかぶって、勢いそのまま



「またツマラヌものを斬ってしまった」



 向こう側の畦道に着地すると同時、



 田がらしの体が、真っ二つになって崩れ落ちた。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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