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ここのところ試練ばかりである

 我ながらカッコ付けが過ぎた気はする。

 でも言わなきゃいけなかったんだ。


 誰のためでもない私のために。


 だからこそ言い切った直後、


 周りが呆気に取られて数秒黙るので我に返って、


 花鹿ちゃんが両手で鼻と口を覆って見ているのに気付いて



 口をあんぐり開けて、ポカンとしている花恭さんと目が合って



 やっちゃった〜っ!!??



 下からは小っ恥ずかしさが込み上げて、脳天からは汗が噴き出る。


 い、今ならまだ、勢いで誰も聞かなかったことに……



「きゃあ〜っ! カッコいい〜っ!!」

「よく言った! 若いって素晴らしい!」



 ってところだったでしょうが!

 そこ、盛り上がるな! ギャルと世話焼きおじさん!


 インテリヤクザも小さくサムズアップしない!

 そういうキャラじゃないでしょ!


 おじいさんは私を肴に酒飲むな!


 坊やはいい加減、目を合わせてくれてもいいのよ!?



 やめろぉ! どいつもコイツも、私を囃し立てるな!



 今だけはどこからともなく聞こえてくる


「ケッ」


 が逆にありがたい。



「静粛に」



 っていう、収拾が付かない状況も、ご当主の一声で静まり返る。

 なんなのこの人たち。

 悪い人たちではないんだろうけど。


「それが君の答えだな。北上小春くん」


 花衣さんも。

 みんなを鋭く黙らせはしたけど、


「はい」

「であれば私も、君の意志と決意、その堅さを尊重したい」


 別にことさら、私に対して敵意があるわけじゃない。

 あくまで自分の立場に忠実なだけで、それ以外は度量のある人だ。



「ありがとうございます!!」



 本来なら座礼するべきところなんだと思う。

 でも、うまくできる気がしなくて


 いや、正直に言えば、勢いが勝ち過ぎて


 立ち上がって90度の礼をしていた。


 自分でもオーバーだと気付いたのはやってしまってから。


「恥ずかしいから早く座りな」


 花恭さんにシャツを引っ張られれ、『えへへ』って感じで座るハメに。

 まさか私の方が常識で諭される日が来るとは。


夫婦(めおと)漫才までできるとはな」


 ご当主はニッコリ笑ってくださってるけど、


「だが、だ」


 すぐに役割どおり表情を引き締める。


「尊重したい、と言うのは(やす)い。

 が、やはり安易に一般の方を巻き込み、死なれるのは承知しがたい。


 そうならないようあなた方を守るというのが、我々の存在理由だからだ」


 それはそうでしょう。

 72代、平安時代から1,000年以上そうやってきた一族の、

 プライドを超えたDNAがあるはず。


「だからあなたが、その倫理すら超えて花恭の隣に立とうと言うのなら。



 それだけの力があるか、見極めさせてもらう必要がある」



 ゴクリって耳に響いて、ようやく自分が生ツバを飲んだって理解する。


 花衣さんの視線は、私から隣へ移る。


「花恭」

「はい」

「近ごろ松尾(まつお)のあたりで、米農家に被害が多発している。

 調べたところ、どうやら妖怪の仕業であることが判明した。よって花浦(はなうら)の者が当たっているのだが、



 これをあなたと北上くんで引き継ぎ、解決しなさい」



「はい」


 どうやら試練とか試験って感じのが課されるみたい。

 でも、妖怪退治に連れてかれる事態は今まで何度もあった。


「ただし」


 それは向こうも知ってるんだ。

 単にそれだけで終わるとは思えない。


「討伐において、多少の戦闘が見込まれる。



 そこに北上くんも参加、一定の戦果をあげてもらう。



 今度は声でなく、体を張ってもらうということだ」


 つまり戦闘で役に立つこと、最低限自衛できると証明しろってこと。

 それがどの程度なのか。

 このまえの烏天狗戦程度でいいのか。


「もちろん放っておけば花恭一人で片付けてしまえる。そこでだ。


 花海。花鹿」


「はい」

「はい」



「歳近い二人には、目付け役を申し付ける」



「はぁ!?」

「かしこまりました」


 その基準も、不明瞭で人任せ。

 確実に合格を貰おうと思ったら、危険な状況でも際限なく、


 いや、むしろそこから逃げてるような覚悟じゃダメだろう。


「頼むぞ」

「待てよ花衣!」

「ではすぐにでも取り掛かるといい。細かい辞儀合いなど、今年は不要としよう」


 しかも判定人が、私に好意的な花鹿ちゃんと敵意丸出しの花海くん。

 バランスがいいのか悪いのか。


 いや、後者は私を引き剥がすチャンスだろう。

 分は悪い。


 ていうか、ご当主呼び捨てにしていいのね。


「さて、この場はここでお開きだ。宴席も彼らの用事が終わってからにしよう。以上だ。各自ゆるりと過ごしてくれ」


 花衣さんが立ち上がると、その場にいる全員が頭を下げる。

 騒いでた花海くんですら反射的に。


 退出が済んでから、ようやくみんな動き出す。


「いや、花満。大変なことになったな」

「大変なのはオレたちではないだろう」

「お兄ちゃんたち、大丈夫かな?」


 みんながザワザワしたり、さっさと引き上げるなか


「さっきの本当にカッコよかったわぁ! ねぇ、二人って付き合ってるの!?」


 花恋さんがこっちへ来る。


「いや、そういうわけでは……」

「そんなお堅いのはナシナシ!」


 いや、だとしても初対面だからさ、とは思うけど


「おいテメェ、オレぁゼッテー認めねぇからな」

「いや、決めて掛かるのは背信行為でしょ」


 アレよりは断然マシ。

 今度は入れ替わりで花鹿ちゃんがこっちに来る。


「そういうわけですから、よろしくお願いしますね」

「うん、よろしくね。付き合ってもらうことになっちゃって」

「いえいえ、そんな」


 とりあえずお目付け役の一人が知ってる人なら、緊張は軽くなる。

 握手を交わしていると、


「おっかしいなぁ」


 花恭さんが首を捻る。


「『どこの馬の骨とも知れない小春さんが、僕と同棲するのに相応しいかジャッジする』


 って聞いてたのに。

 なんか話違うくない?」

「あー」


 確かに。

 それなら私が人畜無害であることが分かれば()()()()()なはず。

 ……普通男女逆だよね?


 とにかく、戦えなくても、手を出さず料理だけ出す存在で問題ないはず。


「外堀埋められてますね」

「なんの」


 花鹿ちゃんが口元に手を当て、しししと笑う。


 その言葉が皮切り、



「え!? 付き合ってるとか一足飛びでイっちゃうの!?

 イケちゃうの!?


 ちょっと詳しく!

 馴れ初めからネットリ教えてプリーズ!!」



 花恋さんの変なスイッチが入る。

 名は体を表しすぎなのよ。


 面倒なので、さっさと退散することにした。











             花麗なる一族 前編 完

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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