一族集結
今回以降、1日1回 12:12更新となります。
ご了承ください。
30代には見えない。
肩にギリ掛からない、男性にしては長いくらいの髪も、50代ってほど白髪は目立たない。
「ぺこちゃんだけでしょ。僕もう随分と、盆と正月しか帰ってないよ」
「あぁ、そうだったそうだった!」
大袈裟に袴の膝をピシャリと叩くおじさま。
場を和ませようと涙ぐましい努力だね。
で、『和』になってほしいのは、イレギュラーにも
むしろイレギュラーにこそなんだろう。
「それで君が、北上小春くんか!」
「あっ、はい」
私にも話を振ってくる。
「まぁ座ってくれ」
「ありがとうございます」
立ったままだったから気を回してくれたみたい。
私自身が努力するのは前提として。
本来そういうところは花恭さんがサポートしてくれるべきなのでは?
『任せろ』とか言ってたはずの男は、座布団にあぐらかいて素知らぬ顔。
「オレは花染花九郎。まぁここに来たのも何かの縁だ、よろしく頼む!」
「こちらこそ、お手柔らかに」
花染氏は少し前のめりで、朗らかに笑う。
あれ? もしかして、思ったより私、歓迎されてる?
みんな花鹿ちゃんみたいに、いい人だったりする?
「ほら、花満も!」
花染さんは自分の右に座る男性の背中を叩く。
ちょうど2人は同年代くらいに見えるけど、
こっちは一転短髪で、スーツ姿に羽織をジャケットの代わりにしている。
しかも、
「花任花満だ」
鉄面皮で声もローテンション。
違ったわ。別に歓迎されてないわ。
あぐらで右膝に右肘ついてるのも、なんとなく威圧感がある。
たぶん任侠映画で見るような姿勢だからだと思う。
火は消えてるけど、目の前に灰皿と吸い殻あるのも余計際立てる。
でも顔は渋いけどイカついわけじゃないから、なんかインテリヤクザに見える。
結論怖い。
「ど、どうも」
しかも花任さんが次を振らないから、
「……」
「……」
「……」
自己紹介の波が止まって気まずい沈黙に。
すると、
「私は花積花八重。よろしくね」
東山の列の一番上座にいる女性が、軽く乗り出して挨拶してくる。
ゆるいパーマの長い黒髪。
ケチャップ飛ばしたら弁償できなさそうな和服着てる。黒地で珊瑚柄。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「ふふふ、緊張しなくていいのよ」
いや、あなた目が笑ってないんですよ。
見た目が似てるってわけじゃないけど、例えるなら西洋人形なのよ。雰囲気が。
そのせいか、20代とか若くはないんだろうけど、いまいち年齢不詳な感じ。
ミステリアスな魅力とかじゃなくて、ただただ怖い。この人も怖い。
その目で彼女が促したのは、対角線上。
嵐山の末席で、私の正面。
「花丸花千代です」
「こ、こんにちは」
小学生!
どう見ても小学生男子!
羽織着てるけど小学生!
ジャケット脱いだ『名探偵コ◯ン』みたいな格好で、丸メガネまでしてるけど小学生!
頭脳は大人って感じはしない、人見知りっぽく緊張してる小学生!
大丈夫なの!?
あと小学生連呼してると私がショタコンみたいだ。
で、やっぱり緊張しているらしい。
そのあと何も会話が続かない。
数秒空白があって、最後に口を開いたのは
「花島花持」
嵐山の上座。
腕組みして、異様に真っ直ぐ背筋伸ばしてる、70は行ってそうなおじいさん。
髪はツルッとなくて髭は口もアゴも豊かな、仙人みたいなおじいさん。
今どき紋付袴とか、初めてナマで見た。
で、このおじいさんもこれ以上何も言わない。
なんか顔の彫りが深くて目元が影だから、こっち見てるのかも分かんない。
また空気に困った花染さん? 似た名前ばっかりでややこしいんだよ!
あの花九郎さんとかいう歌舞伎役者みたいな名前のおじさんが話を振る。
「ほら、花海も自己紹介したらどうだ」
「けっ」
けどマイルドヤンキーは相変わらず。
「どうしたんだ花海」
「あー、この二人、もう顔合わせは済んでてさ。それでまぁ、ちょっと因縁がね」
代わりに補足するのは花恭さん。
「一方的に付けられたんですけどね……」
「おぉ……。ダメじゃないか花海。お客さんにそんな」
「知らねーよ。こんなヤツ客じゃねぇだろ。どこの誰だか知れねぇのがよ」
「花海」
もういいですよ花九郎さん。私気まずくても気にしないよ。
それにしても、
「なんだい、人の顔じっと見て」
「いや」
私の視線に気付いて、こっちを横目で見る花恭さん。
付き合いや馴染みがあるとか抜きにして、フラットな目で見て。
まさかこの人が、まだ人当たりのいい方だったなんてな。
「なんでもないです」
「惚れたか」
「惚れましたね」
「二人ともそういうこと言うと花海くんが怒るからやめて」
さっきの態度的に、この場でも胸ぐらくらいつかんできそうだもん。
もういっそ弾劾裁判始まらないかな。
よく分からないリンチ受けるくらいなら、正当に妥当に裁かれた方がマシだ。
まぁ明らかに日本の法律適用外の東京裁判(in 京都)されそうだけど。
「いつまでこうしてたらいいんですか?」
「そうだなぁ」
場に沈黙が横たわってるから、自然と私たちもヒソヒソ声。
「花形は全員揃ってからだし」
「遅れてる人が来ないことには」
「えぇ、困るなぁ」
「まぁ嵐山派の人だし、そんな遅くならないでしょ」
花恭さんが気楽につぶやいた直後、
ドタドタドタ、と廊下を走ってくる音がして
襖がバンッと開く。
「もう来てるぅ!? ヤスくんのカノジョって人!」
現れたのは、薄黄色のワンピースを着た若い女性。
同年代か、ちょっと下か?
茶髪をうなじの上で、無理矢理まとめたみたいな一つ結びにしてる。
「来てるぞ」
「カノジョじゃないけどね」
「どこどこどこドン!?」
「太鼓叩いてます?」
「あ、ここです!」
「あら!」
なんか、急にうるさくなった。
辛気臭いよりはいい?
なんかもう、私より花九郎さんがホッとしてそうでよかったよ。
急に現れた女性は、襖を開けたところからジッと私を見る。
「へぇ〜。聞いてた好みとは違うけど、真面目そうな顔してるじゃん?
『恋愛したいのと結婚したいのは違うタイプ』
ってヤツ?」
「コイツが花恭さんとそういう関係なワケねぇだろ!」
「わっ、花海くん怖ーい」
「私の顔褒められてる? ディスられてる?」
「私は好きですよ。真面目そうで」
「残念だけど、僕は今でもこの世で自分が一番好きだから」
「でしょうね」
喧喧諤諤の東山席。
筆頭の位置の花八重さんは、黙ってニコニコしてるけど。
「遅刻ギリギリだぞ。早く座れ」
「はぁーい」
アウトレイ、じゃなかった、花満さんが収拾を付ける。
自分の席へ向かう彼女の、羽織の背中はまさかのハイビスカス。
……全員分見たわけじゃないけど分かる。
この人絶対フリーダムで浮いてるタイプだ。
でも座布団に腰を下ろして
「私、花待花恋って言います! カレシ募集中! ばきゅーん!」
ニコニコハキハキあいさつしてくるのは、悪い人ではないんだろうね。
ノリがアレとかは置いといて。
ほらもう、大人にあるまじき頭の悪さに、隣の小学生ドン引きだよ。
花恋さんは、座ったかと思えば四つん這いに身を乗り出す。
「ねぇねぇねぇ、今スマホ持ってる? 連絡先交換しない?」
「花恭さん、この人誰にでもこうなの?」
「チャラ男以外だったら近所の犬にもこんな感じ」
「怖い……」
逆になんでチャラ男はダメなの、一番の同類でしょ
なんて思ってると、
「皆さま」
「わっ」
いつの間にか上座に、エプロンしてないギャルソンみたいな格好の人が立っている。
若くて、正直見た目で判別つかないけど声が男の人。
彼は正座で腰を下ろすと、深々と頭を下げる。
高校で見た剣道部の人みたいな、教科書レベルの座礼だ。
「御前さまが、お入りになられます」
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