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猛暑にもほどがある

『明日も最高気温は40度を越える見込みです。不要普及の外出は控え、冷房を使用し、こまめな水分補給を……』



「いや、堪ったモンやないな」


 スマホから流れるラジオの内容に、初老の男性は思わず独言(ひとりごち)る。


 ちょうど風が吹いたのに合わせて、麦わら帽子を脱ぎ、タオルで汗を拭う。

 こうすればいくらかは涼しいが、



 真夏、晴天炎天下。午後14時、気温は42度。

 そもそもの絶対値がキツすぎる。



 塩入り麦茶を一口飲み、ハンディ扇風機で首筋を冷やす。

 楽になるというよりは、死ぬのをギリギリ踏みとどまれる感覚である。


 そのような状況下だというのに。


 彼の懸念は自身の健康ではない。



「こない暑いと、稲がダメになって(のうなって)まうわ」



 目の前で、張られた水が眩しく太陽を照り返す

 彼の田んぼ。



 字面だけならノスタルジックだが、今は太陽の凶悪さを示すだけに他ならない。

 恨めしい光景ですらある。



 なにしろ稲は高温に弱い作物なのだ。

 文字どおりの『高温障害』を起こし、萎びて枯れてしまう。

 そうでなくとも粒が小さくなったり、予定外の生育で収穫時期がズレ込んだり。


 いわゆる『米どころ』として有名な都道府県は、新潟だったり秋田だったり。

 大抵冷涼地であることをイメージしてもらえば分かりやすい。


 なので、言ってしまえばこの京都盆地

 ときに沖縄すら越え、日本で一番の酷暑を記録する土地で

 稲作をしようという方が無茶なのかもしれない。


 しかし農家は土地とともに生きる生業(なりわい)

 文句を言っても仕方ない。

 彼が若いころは35度なんて超えないし、盆は晩夏の足音がする季節だった。



 だからこそ、自分でコントロールできるところは手を尽くす。


 掛け流しなどの水管理

 特製の堆肥ブレンドによる土作り

 アルミ反射シートなんてものも試した。


 地道が努力の甲斐あって、



「あともう少しってとこやし、乗り越えぇよ」


 稲たちはスクスク育ち、花を付け、



 ついに籾が実り、ちらほら(こうべ)を垂れはじめた。



 ついにここまで来た。

 あと半月もすれば9月、


 収穫の季節も近い。


 別にそのあとは楽勝、とまでは言わないが、山場は越える。

 文字どおり盆もなく働き続けて、ようやく一息つけるのだ。


 その努力の結晶が、物理的に実るのを眺めつつ


「お上もお天道も、米農家イジメすぎやねんて、なぁ」


 汗を拭い、忌々しげに空を見上げるのだった。











 そんな農家の切実たる叫びに応えたか。


 その日の夜中である。



『ジュッ! ジュジュッ……!』



 何をしているのかは知らないが、男性の田んぼの真ん中で



 何やらモゾモゾ動くシルエットがあった。











 そして明くる朝。

 その日も田んぼの様子を見に行った彼が目にしたのは、


「は?


 なんでや?



 なんでや!!」



 カラッカラに乾燥してひび割れた土と



 全ての稲が麻紐のように枯れ果てた、見るも無惨な田んぼの残骸であった。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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