手巻きパーティー(寿司ではない)
まずは70度くらいのお湯にアフィラーマジムンを漬ける。
と言っても30秒くらい。
漬けすぎると羽根を抜くとき皮が破けちゃう。
でもコレがまた、部位で力加減が変わって難しい。
結局多少は破けたけど、屠殺のプロじゃないもの。許してもらおう。
羽根を抜き終わったら、首、手羽先、脚を切り落とす。
丸鶏って言われてアメリカのアニメ的にイメージするような見た目に。
そしたら再度、お湯に潜らせる。
汚れを落とし切るのと、水分を含んで全体にハリが出る。
これでお肉の処理は完了。
本当は一昼夜干して肉を乾燥させる、とかあるんだけども。
夏にやったら腐敗しかねないし、専用の乾燥機もない。
今回は省略。
さて、ここからが本格的な調理ですよ。
まずはお肉に、水飴を水で溶いたものを塗っていく
んだけど。
まぁ基本、水飴常備している家庭の方が少ないよね。
てことで、他のもので代用しよう。
皆さんも覚えておいて損はない、レシピに『水飴』と書かれていたときの代用品。
それはハチミツ。
味のうえでは全然別物だけど、今回みたいな
『料理にツヤを出す』
『焼き上がりをパリッとさせる』
ていうのには同じ使い方ができる。
だから今回はコレで代用
してもいいんだけど。
「さすが関西、コレがあるとは」
見つけちゃった。
冷蔵庫に鎮座する『冷やしあめ』の瓶を。
え? 『なんじゃそりゃ』って?
そりゃそうだよね。
関西ローカルな飲み物だから。
現地じゃたまに自販機でも売ってるくらいメジャーなんだけど。
そう、飲み物なんですよ。『あめ』って名前だけど。
どんな飲み物かっていうと、水飴におろした生姜や搾り汁を加えた……
いや、逆に『生姜湯に水飴を加えて甘くしたもの』と思ったらいい。
それを冷やして、夏場に暑気払いで飲むってわけ。
で、もうお分かりでしょ?
『水飴を水で溶いたものを塗る』のが本来のレシピ。
冷やしあめそのものなんだよね。
というわけで、今回はコレを刷毛で塗っていく。
生姜風味がつくのはご愛嬌。
そう邪魔はしないはず。
下拵えが終わったら焼きです。
オーブンで焼くのもアリだけど、密閉状態で蒸し焼きにすると、しっとり仕上がる。
今回は乾燥させる工程を省いているわけで。
できるだけ香ばしくパリッとが醍醐味の料理だから、
「おおっ、アレは! かの烏天狗を焼き殺した伝家の宝刀、七輪の再現がここに!?」
「花恭さん、料理できるまでに誤解解いといてくださいね」
「期待しないで励みな」
ガレージでバーベキュー用のコンロを使い、直火の炙り焼きで仕上げる。
じっくりじっくり、焦がさないように遠火で。
でも分厚い身の中まで火が通るように時間を掛けて。
鉄串に刺して架けたお肉と根気よく向き合い、適宜回転させて……
のあいだに、やっておきたいことがある。
「お肉頼みますね」
「ま、多少ナマでも妖怪だし当たらないだろ」
「もっと前向きに成功させて」
「ソレは『種族が違うから避妊しなくても」
「じゃ! 任せました!」
焼きの管理を花花コンビに任せて。
強力粉と薄力粉、水とごま油。
これらをボウルに入れて混ぜ合わせる。
ガシガシやると生地が固くなるから注意。
混ざったら30分ほど寝かせる。
そのあいだにネギとキュウリを千切り。
他にはせっかくだからミョウガも用意してみたり。
錦糸卵やハムの細切りもおもしろい。
夏はトマトもおいしい。
冷やし中華じみてきたね。
あと妖怪肉は花恭さんしか食べられないので。
牛肉をサッと炒めたものや、エビを茹でても合うはず。
メイン具材のバリエーションを増やしつつ、
甜麺醤、味噌、アルコールを飛ばした調理酒を混ぜ、砂糖で味を調整。
擦りゴマも加えてタレも完成。
よし、いろいろしているうちに生地も休まったでしょ。
フライパンに油をひいて、円状に入れる。
大体真ん中あたりを狙って、高い位置から注ぐと勝手にそうなりやすい。
ホットケーキやおこのみ焼きがキレイな円にならない人は試してみて。
もちろんあとからヘラで成形すれば同じってのはそう。
で、薄めで厚さにムラがないよう焼き上げたら
『薄餅』の完成です。
必要なものは揃った!
あとはお肉の焼き上がりを待って、
「はいお待たせ、
『アフィラーマジムンの北京ダックパーティー』でございます」
「「おおーっ!」」
場所は変わって食卓。
お部屋全部畳かと思ってたけど、机と椅子の洋風もあるみたい。
それでもなんか、レトロ風味ではあるけど。
「高級中華行かなくても食べられるもんなんだね」
「すごーい」
「それはそうですけど、私がお店やってることをお忘れなく」
「忘れてないよ。というわけでプロが選ぶマリアージュもよろしく」
「ちぇっ」
まぁそう来るだろうとは思ってたよ。
中国料理ってことで、紹興酒とかもアリだろうけど。
でも今回は北京ダック『パーティー』。
未成年の花鹿ちゃんも一緒に楽しめるように、
「それじゃあ」
「「いただきまーす!」」
氷たっぷり、ウーロン茶とウーロンハイで乾杯。
それから各自薄餅を手に取って、味噌ダレを塗ってから好きに具材を包む。
最初から包んだ状態で出す店も多いけど、セルフにはセルフの楽しさがある。
手巻き寿司パーティーみたいなものね。
花恭さんはまず、アフィラーマジムン、ネギ、キュウリ。
実にスタンダードなスタイルを一口。
「うん! 皮がパリッと、身はしっとり。野菜はシャクシャクで食感がゼイタクな」
食事は味だけじゃなくて五感の演出が大事。
一口の中にいろんなものが詰め込まれてるってのはエンタメです。
もちろんとっ散らからない範囲でだけど。
北京ダックには皮だけ削ぐのとお肉も一緒に包むのがある。
皮だけタイプはあとで肉は別料理として出てくるんだけど。
今回はコース仕立てにするのも大変だから、お肉ごと切り分けている。
それも功を奏したみたい。
花恭さんは二口目をいって、ウーロンハイで追っ掛ける。
「うーん、いい。お肉もジューシィだしタレも濃いから、ウーロンハイで流すのが本当によく合う」
油を切ってくれる飲み物だからね。
薄餅にもごま油が使われてて、見た目以上に重いメニュー。
独特の風味が強くて慣れない紹興酒より、こっちで正解だった。
ちなみにウーロン茶は喉の油を流してしまう。
カラオケでたくさん歌うときには、ドリンクバーで飲みすぎないように。
さて、花恭さんはじゅうぶん堪能してくれたみたいだけど。
これはパーティー。
もう一人にも楽しんでもらわないと。
花鹿ちゃんはキュウリ、トマト、錦糸卵、エビを巻く。
花恭さんを見たあとだと、すごく品のいい小口でパクリ。
「うふっ、みずみずしっ♪」
よしっ、お気に召したみたい。
スタミナにお肉とかもいいけど、夏こそいいお野菜をたっぷり食べないとね。
水分ミネラルビタミンですよ。
「次はお肉とミョウガにしようかな〜」
「僕も普通の肉とかもらっていいかな?」
「どうぞどうぞ。あ、どうせなら作り合いっこしましょ」
「いいね、それ」
考える楽しさ、シェアする楽しさ。
手巻きパーティーの真骨頂。
「小春さん、本当にお料理上手ですね! プロとはいえ想像以上でビックリです!」
花鹿ちゃんが明るい笑顔を向けてくる。
プロかは微妙なんだけど、やってもない武勇伝でキラキラされるよりよっぽどいい。
「それほどでも、あるかな?」
「うふふ!」
「なーに鼻の下伸ばしてんの」
「伸ばしてませーん」
とにかくうまくいって一安心。料理人冥利に尽きる。
私も食べようと薄餅にタレを塗ったところで、
「これで一族が何を言ってきても、料理の腕で黙らせられそうですね!」
「えぇ……」
ソレは冥利であってもメンドくさいかな。
そうだ 京都、行け。 完
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