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花市と花橋

 今度はなに?


 声がした方を見上げると、



「なんだよ。話のイメージより、全然冴えねぇ感じじゃねぇか」



 Tシャツ、デニムパンツ、オレンジの短い髪。


 セーラーちゃんが打ち水してた門があるのとは逆側の屋敷。

 塀より高い庭木に腰掛けて、こっちを見下ろす男がいる。

 どうやって登ったんだろう。


「な、なに!? あの『高校時代ギリヤンキーじゃなかった陽キャ大学生』みたいなのは!? もしくはバンドマン!」

「あー」


 花恭さんは一瞬メンドくさそうな表情を浮かべる。

 ものすごく変わった相手なのか、説明するのが手間なのか。

 どっちにしてもロクなことはなさそう。


 結局何も答えを推し量れないうちに、


「よっと」


 マイルドヤンキーが木から飛び降り、こっちに近付いてくる。

 細マッチョって感じで背が高くて、目付きは悪い。


 ヤンキーっていうか、少年誌のスポーツマンガに一人はいる、短気な相棒枠的な。


 で、その人が目の前まで来て、ガン飛ばしてくる。

 やっぱりヤンキーだわ。


「どう見てもそのへんの小娘じゃねぇかよ」


 小娘って言うアンタはどうなのよ。

 同年代に見えるけど。


「コイツが烏天狗倒したなんて、信じらんねーな」


 やってないんだって。

 私を本家にチクった花の一族!

 いったいどういう報告したの!


 でも今そっちに恨みを巡らせても仕方ない。

 目下このヤンキーに睨まれてる状況を改善したい。


「あの、花恭さん」


 軽く振り返って話し掛けた瞬間、



「『花恭さん』!?」



 ヤンキーがマジヤンキー化する。

 声がデカいよ。


「テメェ馴れ馴れしく!」


 そんなこと言われても困る。

 本人が下の名前で呼べって言ったんだし、


「ま、実際おんなじ家に住んでるしね」

「まっ♡」


 セーラーちゃんの頬に手を当てるリアクションは古典的すぎるけど、まぁそういうこと。

 でも花恭さん、今ソレは言わないでほしかった。


 だって、


「カアァッ!」


 明らか、ヤンキーの火に油を注いでる。

 動きがデ◯ノートで心臓やられた人なんだよ。


「なに、なんなのこの人」


 とにかく勝手に苦しんでるスキに話を整理しておこう。

 もう一回話し掛けると、花恭さんは鼻からため息。



花市(はないち)花海(はなうみ)。僕と同じ『花の一族』で、『東山(ひがしやま)派』の一角でもある」



「『東山派』?」

「あとで話すよ」

「ていうか、名前が花花なのって花恭さんだけじゃないんですね」

「なにその歌手みたいな言い方」


 話がちょっと逸れたところに、

 ぺこちゃんだったっけ。そう呼ばれてたセーラーちゃんが耳打ちしてくる。


「花海さんは花恭さんの『舎弟一番』を名乗ってまして。自分こそが相棒だと自認しているんです。だからあなたのことが許せないみたいで」

「あぁ、うん」


 それはなんとなく態度で察せたよ。

 だからライバル的に睨まれるのはいいとして(よくないけど)、


「……ゲイ?」

「女の子にはモテはします」


 セーラーちゃんは首だけ捻って露骨に目を逸らした。

 別にゲイが何ってワケじゃないけど、近親ゴニョゴニョになっちゃうもんね。

 子どもはできないけど。


 ていうかよく見たらこの子、手だけじゃなくて喉笛にもガッツリ包帯巻いてる。

 まさか首から下全部バンデージじゃないよね?


 ヤバい、たぶん今この場にまともな人いない。

 ぺこちゃんは花花の法則から外れてるし、ただのご近所さんだと期待したのに。


 ぺこちゃんてなんだよ、キャンディーのキャラクターかよ。

 どのみち普通じゃないや。


 多少話は理解できたけど、何も解決してない。

 その状況で、


「ゆ、許さねぇ、許さねぇ!!」


 ヤンキー花市くんは心臓と恋(?)の(やまい)が大ダメージらしい。

 理不尽な目を向けてくる。


「ゼッテーに許さねぇぞ! 覚えてろよ!」


 謎の捨てゼリフを残して、ひとっ飛びで塀を飛び越え屋敷へ戻っていった。

 確かにあの身体能力は花恭さんの一族かもしれない。

 でも、


「なんだったの、あの人」


 やっぱりそういう感情しか湧いてこない。


「知らん。そういう怪異でしょ」

「花恭さんが知らなかったらもう迷宮入りなんですけど。さっきは一族だって紹介してたでしょ」

「僕だって知り合いを選ぶ権利はある」

「えぇ……」


 実は意外と人情家だと思ってる花恭さんが冷たい。

 もし普段からこういう態度なんだとしたら、折れない彼はメンタル強者かもしれない。


 私からしたら急にケンカ振られて思うところはあるけど、ここは武士の情け。

 話題を変えておいてあげよう。


「ところで彼、『東山派』ってことは、このへんに住んでるんですか?」

「そこの屋敷が花市だよ」


 花恭さんはさっきまで花市くんが座っていた松を指す。

 確かに他人の家の庭木に登ってたら、ヤバいヤツか泥棒だもんね。

 どのみちヤバいヤツか。


「へー、じゃあ京都なのに関西弁じゃないんですね。花恭さんもそうですけど」

「ま、あくまでこの屋敷は本拠地で本籍地だからな」


 花恭さんは目線を上げる。

 どこを見た、ってより、なんとなく『遠い場所』って概念を示すような。


「僕もぬらりひょん追って西へ東へしてるでしょ? それとおんなじ。『東山派』と『嵐山(あらしやま)派』の人は、日本全国派遣されて京都にいないことも多い」

「へぇー」

「だから親の出張関係でみんな方言が違うし、標準語で話すよう統一されてる。いくらなんでも鹿児島弁とかになると、本家と会話できないし」


 よく分からないけど、大きくて使命がある家系なりの事情があるみたい。

 別に京都弁で話してくれないと困るでもなし。

 聞いといてなんだけど、なんでもいいや。


 と、私の中で話題を終わらせようとしたとき、


「ぺこちゃんもそのクチでしょ?」

「そうですね。高知とか長野とか転々としてましたし」

「え?」


 ちょっと意外な方向に会話が続いた。


「ぺこちゃんも『東山派』の人なの?」

「そうだよ?」

「おかしいですよ! 『花花』の法則に従ってないし!」


 花恭さんは腰に手を当て、鼻からため息。


「ぺこちゃんが本名なワケないでしょ。どうなのさ」

「いや、あなたたち大概『どうなのさ』って名前でしょ!」


 待って!

 ぺこちゃんはぺこちゃんでいて!


 やっぱり『花の一族』はヤバいヤツしかいないって再確認したとこなの!

 ぺこちゃんも全身包帯疑惑でヤバそうだけど、


 一人でも『花の一族』じゃない人がいる


 それだけで私は安心できるんだ!

 アウェーから救われるんだ!


「ぺこちゃん……!」


 きっと私は、血走った目をしていたことだろう。


 しかし、


「改めまして。



『東山派』花橋家跡目継(あとめつぎ)

 花橋(はなはし)花鹿(はなじか)と申します!」



 ぺこちゃぁん……。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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