実家へごあいさつ♡
新幹線で2時間ちょっと、午前10時。
「着いたぁーっ!」
「長く感じたけど、東京──京都間って距離考えたら早いんでしょうね」
私たちは京都駅のホームに降り立った。
「京都帰ったのいつ以来だろ。正月かな」
花恭さんは感慨深そう。
「え? でも東京来たのって最近でしょ?」
「あー、ま、物理的には京都にいたりもしたんだけどね。ぬらりひょんを追って西へ東へしてたから、『帰る』っていうより『立ち寄る』なんだ」
「なるほど」
そのへんの感覚はよく分からないけど、そういうものなんだろう。
そこからは在来線に揺られて、時刻が半になるちょっとまえ。
「ここで降りるんですか?」
「うん」
蹴上って駅で私たちの鉄道旅は終わった。
「あぁ懐かしの三条通!」
駅から一歩出て、花恭さんは腰に手を当てて深呼吸。
コレはやりたくなるよね。
地元はテンションが上がるんだろう。
少しウキウキのご様子。
でも私みたいな東京モンからしたら、さすが京都!
夏の容赦ない熱射!
盆地の籠った空気!
肌にまとわりつく湿度!
めちゃくちゃキツい!
ずっと立ってたら脳がゆで卵になっちゃう。
さっさと進んでもらおう。
「それより目的地、ここから近いんですか?」
「そうだなぁ。タクシーってほどの距離でもないかな。歩こうか」
「ですね。京都の町は歩いて楽しい」
「よく分かってるじゃないの」
花恭さんはうれしそうだけど。
本音を言えば、この暑さの中を歩きたくはない。
駅から坂を下って右手側へと進んでいくと。
看板には、
「『この先南禅寺』」
「有名なお寺だよ」
「なんかすごい仏像とかあるんですか?」
「湯豆腐」
「また食べ物の話」
でもすごい!
地元民ガイドで観光してる感すごいある!
楽しい!
本家からの呼び出しじゃなかったらもっと楽しい……。
「昼まえには花瀬の屋敷に着く。小春さんはいても暇だろうし、お昼ご飯にでも行くといいよ」
「あー」
「南禅寺も観光したらいい。三門登って『絶景かな絶景かな』ってね」
「今桜咲いてないでしょ」
石川五右衛門は置いといて、私がウロチョロしてても邪魔だろうし。
外で遊んどくのも手かもしれない。
お豆腐なら喉通るかも。
なんて考えてるうちに、南禅寺への参道をスルーしていき
現れたのは
「わっ!」
「どしたの」
道の左右に立つ、時代劇でしか見ないような塀。
右手には石垣と黒っぽい木材の板壁、屋根瓦付き。
その上でワサッと林みたいに茂る庭木も重厚感バツグン。
左手はちょっと背の低い生垣が品のいい感じ。
道の先には白壁も見える。
でもどれもこれも見た感じ、大きなお寺とか旅館って感じ。
南禅寺の離れとかなのかな。
だとしたら東大寺とかそのくらい土地広いんじゃない?
にしても、こんな風景があるのはさすが京都。
神保町のゴチャついた界隈も風情があって好き。
けどこんな、塀周りを1周するだけで持久走になる豪邸のひしめき合い。
こりゃ別格ですよ。
近所がこうなら、毎日散歩するだけで楽しい。
「すごいなぁ。こんなとこ住んでみたいなぁ」
「あんまりロクなことないよ。部屋によってはトイレも遠いし、喉渇いても冷蔵庫まで歩かなきゃいけないし」
「えっ」
なんか今、サラッと経験者みたいな。
しかも街としてじゃなくて、家としての。
「掃除も家の人たくさん雇わないと、蜘蛛の巣の分譲アパートになるだけだろうなぁ」
「待って待って」
「待ってもいいけど、そんな早歩きだったかな?」
爆弾発言の中心は、T字路を左に曲がりかけたところで立ち止まる。
「そうじゃなくて」
いや、分かってはいた。お金持ちなのは。
だからボロアパートのときに
『よくこんなとこに耐えられるな』
『逆に憧れるんだな』
とかも思った。
でも、
「ここ住んでるんですか!?」
コレはちょっと、予想外に大きい。
規模が平安時代の貴族なのよ。
いや、平安末期からの華族もとい花の一族らしいけど。
「違うよ。ここは花橋の屋敷。花瀬はもうちょい先」
「やっぱりここらの住人なんじゃん!」
なんて騒ぎながら、
バカデカい敷地のバカ長い塀で、バカみたいに真っ直ぐ続く道を進むと
「あ」
「あ」
塀の途中で現れた、今度は思ったよりこぢんまりとした、品のいい門構え。
その前で、
打ち水をしているセーラー服の少女と目が合った。
向こうと花恭さんが小さく声を漏らした、と思ったら
「花恭さーん!」
「ぺこちゃーん!」
「「元気してたぁ〜!?」」
急にお互い駆け寄って、両手を合わせてキャッキャしはじめる。
知り合いらしい。
でもなんでちょっとノリがギャルなの。
セーラー服ちゃん柄杓落としたよ
と思って見てると、
「あ、後ろにいらっしゃるのって」
どうやら私にも気付いたみたい。
並んで歩いてたのに、今視界に入ったのね。
すると、返事するより先に
「そうだよ。あの人が例の北上小春20歳大学生」
「余計な情報足さないでください」
花弥子さんがいらない紹介をしてくれる。
てか『例の』ってなに。
なんかヤバいヤツみたいじゃない。
ある意味そう思われてるから呼び出されたのか。
なんか居心地悪い。
髪を掻こうと思って右手を少し上げた瞬間、
「あなたが北上小春さん!」
「わぁ!」
一瞬で目の前に来たセーラーちゃんに、ギュッと握られる。
「あのたった一人でぬらりひょんに立ち向かう度胸を見せ! 烏天狗を火の着いたサバで殴り殺した!」
「思ってたのと違う方向でヤバいヤツとして伝わってる!」
「わぁー! 一度お会いしてみたかったんです!」
「なんか絶対に応えられない類いの期待を持たれている!」
それだけでも困惑してしまうのに、
女子高生かな? 中学生ではなさそう?
ダークブラウンでボブカットの美少女に手を握られて、
その包み込んでくる両手が、全面包帯でバッチバチ!
ボクサーもびっくりのバンデージ!
この数秒、情報量が多い!
「どしたの。鼻の下伸ばし、てもないな」
花恭さんもコメントに困る顔になってるらしい。
まず何から処理、あるいはスルーするべきか考えていると、
「へぇー、オマエが例のねぇ」
急に頭上から、
目の前でセーラーちゃんが向けてくるのとは、180度違う感情の声がした。
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