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旅行連行

 どうも皆さんおはようございます。

 え? 今回は3人称の怪談パートから始まらないのかって?


 えぇ、今回は違うんですよ。

 初っ端からワタクシ、北上小春でございます。


 しかも、


「立ち食いでコロッケそばって。意外と質素なの頼むんですね。お金持ってるし、喫茶でモーニングとかするのかと」

「分かってないなぁ小春さん。確かに味だけなら世の中、7点やら10点やらはたくさんある。


 だけどこのコロッケそば。冷めたコロッケとフツーのそば。

 それがなんでか、1足す1が4になる食べものは、そうそうあるもんじゃないよ?」


「よく分かんないけど、関西人は()()()なんじゃないかなぁ」



 午前7時17分。

 朝の東京駅は立ち食いそば屋からお送りしております。


 もちろん左には、着流しに草鞋の時代錯誤、サモエドスマイルの優男。



 with花瀬花恭でございます。



「コロッケに汁を吸わせるんじゃない。汁にコロッケを吸わせるんだ」


 彼はコロッケを沈めるのに夢中。

 その講釈、山菜そばの私に関係なし。


「なんでもいいけど、早く食べてくださいね。新幹線48分発ですよ」

「はー、せかせかしちゃって。江戸っ子はコレだから」


 どうでもいい会話はさておき。


 いつも深夜営業の影響で、昼まえに起き出すのがセオリー。


 どうして夜の民たる私たちが、早朝の駅で朝ご飯を食べているのかというと











「今度の帰省、






 小春さんも連れてこい、って」






「……え?



 えぇ〜っ!!??」



 世間がお盆休みの足音に浮き足立つ日々のことだった。



 私が花恭さんの実家、本家への出頭命令を喰らったのは。



「なんでなんでなんで!? なんでよ!? 私なんかした!?」

「『なんかした』っていうか、『なんかしてないだろうな』的な?」

「そもそもなんで私認知されてるわけ!?」

「僕も別に小春さんのこと、花形に話してないけどなぁ」


 花恭さんは眉根を寄せて、スマホの画面をスクロールしている。


 どうやら彼にも不意打ちの話で、メッセージには続きがあるらしい。


「えー、えー? はぁ!? ふーん、なるほどなぁ」

「一人で納得してないで説明して!」

「ちょっと待って。あとで要約したげるから」


 親切なんだろうけど、目の前で表情コロコロ七面鳥されてると不安になる。


「なぁるほどね」


 やがて花恭さんは数回頷くと、


「大体分かった」


 やっと私と目を合わせる。


「どういうことなんですか」

「まず、


 世の中には花瀬と本家花形だけじゃなくて、たくさんの『花の一族』がいる


 って話したのは覚えてる?」

「はい」

「だから当然東京にも、花形の手の者がそこそこいる」

「へぇ」


 全員京都に集まってるってわけでもないんだね。

 どういう一族か知らないことの方が多いけど、そのへんは融通が効く


「で、ソイツらをして、僕のお目付をさせてるわけだね」


 なんてことはなかった。

 ガチガチ大きい家のしがらみがあるパターンだった。


「そこの人が本家に報告したみたいだ。



 僕と小春さんが同棲してることを」



「え? そういう感じ?」

「これでも僕は『東山』の一角、花瀬の当主。どこの馬の骨とも分からない女を連れ込んでるのは看過できないらしい。

『おいコラ北上小春とかいうヤツ、一度ツラ見せに来んかい』と」

「えぇ……」


 お怒りの呼び出しなの?

『妖怪料理を作る、謎の美少女パートナーがいる』とかじゃなくて?

無辜(むこ)の一般人を巻き込んでしまっているらしい』じゃなくて?

『一度しっかり本家で話をしておく必要がある』じゃなくてぇ!?


「い、い、嫌だっ! 殺されるっ!」

「そぉんなことなぁいよぉ」

「嘘だっ! 言い方が妙にヘラヘラしてるもん!」


 私は絶対に行かないぞ!

 命は惜しいし理不尽には屈しない!


 ていうか、男女逆なら分かるけどさ!

 男が女連れ込んでるくらいほっとけよ!


 御曹司かよ!

 御曹司だわ。


 業務用冷蔵庫にしがみ付いて抗議の意思を示すけど、上級国民には通じない。


「そんなこと言わずに。呼ばれてるうちに出頭した方がいいよ? なんでも自首したら罪は軽くなるもんさ」

「やっぱ断罪されるんじゃないの! 誰がそんな虎の口の中に行くか!」

「でもお店襲撃される方が嫌でしょ。冷蔵庫ごと連れてかれるよ」

「ソレもう犯罪者集団でしょ!」


 でも言われてみればそうかも。

 ただでさえぬらりひょんとか来るのに。


 上の階が吹っ飛んだのも、ガス爆発って噂になってる。

 管理が杜撰な飲食店って大丈夫なの? って言われてるとかどうとか。


 このうえ怪しい集団が取り立てみたいに現れたら!

 完全に終わってるお店じゃないの!


「あああああもおお!!」

「気をしっかり」

「誰のせいかっ!」



 こうして私は、泣く泣く東京裁判への連行を受け入れた。

 実際は逆に東京から京都へ行くんだけど。


 旅用の荷物とは別に、ささやかな身辺整理も行い、


 かつ常連さんたちとの別れの盃。

 出発前夜まで普通にお店を開き、


 閉店後はそのままお店で寝た。


 朝の電車に乗るから、少しでも睡眠時間を取るためっていうのもある。

 でも一番は、



「さらば、おじいちゃんより受け継ぎし城……! 守りきれなかった……!」



 離れがたい気持ちがあったから。



 そして運命の朝、神保町駅から新幹線に乗るべく東京駅へと向かい











 今こうして


「ごちそーさま。おそばもいいね」


 朝ご飯を終えたところ。


 そばでよかったかもしれない。

 カフェでカツサンドとかだったら喉通らない。


「時間はどう?」


 花恭さんは私の肩を叩く。

 自分でスマホ見たらいいのに。


「まぁ今からホームに向かってちょうどいいって感じですね」

「サンドイッチ買う時間ある?」

「サンドイッチ?」


 言いつつ彼は()()()をくぐる。

 少し早足。


「師匠の知り合いが東京行ったときに、


『東京駅にはフルーツサンドのおいしいお店があるんですよ!』


 って」

「なるほど」

「小春さん喜ぶかなって」

「あ、ふ、ふーん。並ばなきゃ間に合うんじゃないですか?」

「じゃ、急ごう!」


 妖怪と戦うほどの身体能力。

 早歩きがじゅうぶん速い。


 普通は男性が女性にペース合わせるもんでしょ。

 置いてかれないように気を付けながら、私は一つの結論に至った。


「どうりで朝はおそばにしたわけだ」


 軽めにして、フルーツサンドの分を空けておきたかったんだね。


 帰省ラッシュで混み混みの人波の先。

 花恭さんが振り返って手を振る。


「早くーっ! 売り切れちゃうよ! フルーツサンド!」

「そんな朝から?」


 でも、気持ちはうれしいけどね

 そんな甘いもの、私喉通んないよ。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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