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都市伝説《ターゲット》現る

 ジェットババア狩りに出掛けたのは翌日の夜。

『娘さんさまさま』なんて言ったから、即解決かと思ったけど


「準備するものがあるから」


 と花恭さんに次の日を指定された。



 そんなこんなで私は今、緊張と興奮を抑え付けてハンドル握ってる。

 深夜3時が近い路上は、さすがに交通量も少ない。

 ゼロじゃないのがすごいところかもしれない。


「で、向かうのは有明ジャンクションでいいんですよね?」

「うん」


 助手席の花恭さんは自信たっぷり。

 今回は会える確証っていうか、何か手応えがあるんだろう。



 でも場所は有明ジャンクション。

 今まで空振りしてきたところ。



「たまたま会えなかったってことなんですかねぇ」

「そうなるなぁ」


 花恭さんは缶の梅酒を飲んでいる。

 これから戦う(予定)なのに、酔っちゃっていいの?

 それとも『どうせ当たらない』ってタカを括ってるのか。


 でもそれだと、いろいろ矛盾してるしなぁ。

 開き直り?


 だったら直接聞いてみるにかぎる。

 減るもんじゃないし。


「あの、やけに余裕たっぷりですけど。今夜はジェットババア出そうなんですか?」

「さぁて」


 減るもんじゃないけど、まともに答えてくれないんだよね、この人。


 花恭さんはアルミ缶を小さく左右へ傾ける。

 中身が空になったみたい。


「ま、一つ言えるのはね。今まで会えなかったんは運なんだけど。



 ちゃんと誘き寄せる方法が見つかったってことさ」



「へぇ!」


 それはスゴいや! 素晴らしい!

 ただ、


「だったらなんで、『さぁて』なんですか」

「うふふ」


 ジェットババア出るんじゃないの。






 そんなこんなで、車はインターチェンジを通過。

 スロープを上がって少し行けば、決戦の場、有明ジャンクション。


「小春さん、ゆっくりゆっくりね」

「分かってますよ」


 相手は事故を起こす怪物、しかも何人もの命を奪っているヤツ。

 頼まれたってかっ飛ばさないもん。

 私はこの時速60キロ未満を保ち続けるぞ。


 道なりに進んでいくと、


「コレ、むしろ事故の原因になってるんじゃ?」

「はは、あり得る」


 遠くから、ひと昔まえの香港みたいにカラフルな光が届く。



 事故が多発しているカーブだ。



 あまりにも多いんで、緊急の対策として場所をアピールしているんだろう。

 でも運転中はハイビームとすれ違うだけで危機を感じるのに。


 ここからでも目に騒がしいあの照明。

 近付いたらどうなっちゃうの。

 しばらく目が戻らないよ。


 もし万が一、ジェットババアに追われながらあそこに差し掛かったら。


 思わずサイドミラーを見る。

 まだ何もいない。


「花恭さん、何かいます?」

「うーん、昼みたいによく見えるけど。なぁんにもだね」

「そうですか。何か手段があるなら急いでください。前門の虎が確定してる」


 申し訳程度にサングラスを掛けてみる。

 幾分マシだけど、追われて条件変わったらなぁ。


 心臓のペースはドキドキ。釣られて車も速くならないよう脚を強張らせていると、



「じゃ、始めようか」



 花恭さんは梅酒の缶をグシャッと握り潰す。

 やだ怖い。


 でも始めるって?

 相手はまだ出てきてもいない。


 (おび)き出す方法とか言ってたけど、何するんだろう?


 横目でチラッと確認すると、



 花恭さんは懐から、小さな瓶を取り出す。



 細長いキャップを外すと、香水瓶なのかな?

 そういう形をしている。


 次に彼は助手席の窓を開けて、



 外、車の後部ドアに向かって、中身をシュッと散布する。



 何してるんだろう。何撒いたんだろう。

 まさか人間の血とかじゃなきゃいいけど。

 後続車両がいないからいいけど、あんまり変なことしてたら困る。


 そのあとも2、3プッシュ。

 それが終わると、花恭さんは瓶をしまってシートにもたれる。


「ふー」

「もう終わり? 何したんですか?」

「ちょっと香料をね」


 彼は()()()と笑う。


「香料?」

「あとで説明するさ」


 かと思えば深く目を閉じる。

 相変わらず勝手に話を進める人だ


 と思った束の間



「来たよ」



「えっ」


 小さくも鋭い声。


 思わずサイドミラーへ目を向けると、



「きゃっ!?」



 前方の眩しすぎるライトに照らされて



 小さく何かが映っている。



 後続車両じゃない。

 サイズ感が明らかに違うし、


 何より車はあんな動きで走らない。


 タイヤが地面を転がって、上物が運ばれているかたちじゃない。

 全体が屈伸運動をして前方へと脚を突き出し駆ける、



 明らかに生き物の動き。



「きっ、来たっ!」


 ついに現れた、ジェットババ……


「ん?」

「気付いた?」


 ちょっとした違和感。

 まだ『何が』とはつかんでないんだけど、変だ。


 ソレがポロッと溢れた瞬間、花恭さんが耳敏く拾う。


「いや、アレ」


 その正体は、サイドミラーの中で存在が大きくなるにつれて分かる。



「四足歩行?」



 そう、走り方が明らかに、人体の形をしたモノがする動きじゃない。


 オマケにサイズも、小柄なおばあさんにしたってかなり小さい。


 なんて思った瞬間、



 ソレは思いっきり、こっちへ向かって大ジャンプしてきた。



「うわっ」


 ギリギリ追い抜かれなかったけど


 運転席の窓越し、



 柴犬かなんかの体に付いた



 40か50のおじさんの顔と目が合った。



「いやああ!! 人面犬!?」



 ジェットババアじゃない!

 また別のヤバいのが出てきた!


「小春さん、追い抜かれたらダメだよ?」


 混乱する頭に、隣から冷静っていうか、のんきなくらいの声が掛けられる。


「人面犬。『話し掛けられる』エピソードの方が有名だしさ。

 そもそも『人面犬』っていう設定に何も関係ないから流行らないのかもしれないけど。



 アレも一応、


『追い抜かした車を事故らせる』


 って話があるからね」



「ウソっ!?」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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