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【探しています】深夜徘徊ババア

 その日の営業も無事終えて。


「さぁて小春さん、深夜のドライブだ」

「はいはい」


 深夜2時、片付けも終えた私たちはここからがもう一仕事。

 正直すごくメンドくさいけど、ジェットババアをプッシュしたの私だしなぁ。


「なんだいその顔は。最高イケメンなパーソナリティーが出る、FM花瀬付きのドライブだよ」

「ラジオだったらパーソナリティーの顔無意味でしょ」


 もちろん花恭さんは鬼のように飲みまくっていた。

 隣に乗られると私が飲酒運転してると誤解されかねないレベル。

 これで妖怪出てきて、ちゃんと戦えるわけ?


「とにかくちゃっちゃと行くよ。夏の夜は短い。首都高へマッハGOだ」

「警察に捕まったら間に合わなくなるでしょ」


 今回の敵は交通事故を起こしてくる。

 河童のときみたいに隣で縮こまってれば済むわけじゃない。

 下手すれば一瞬で二人ともあの世行き。


 ……ホントに大丈夫かなぁ。






 ぼやいていても始まらない。

 何より終わらない。


 てことで深夜の首都高へ。


 高速代は出してくれるらしいけど、当然でしょ。

 そっちの経費だよ。



 ということで今、私たちは夜景を尻目に高架を走っている。


「『眠らない街、東京』って感じだねぇ」

「ですね」

「アレ全部、人が営む光、生きている証だよ」

「急にロマンティックなこと言うんですね」

「残業という名のね」

「夜勤かもしれないでしょ!」


 あの光全部夜勤だったら、ホテルと病院多すぎってなるけど。

 他に夜勤がある業種あんまり知らないし。


 とかいう世知辛い話は置いといて。


「そろそろですよ。酔いは覚めましたか」

「他人の車で酔わないタイプさ」

「そうじゃなくてお酒」

「あー、ね」

「ね、じゃなくて」


 私たちは事故が多発しているという、



 有明(ありあけ)ジャンクションへと差し掛かる。



 自然とハンドルを握る手に汗が滲む。

 滑ったらヤバい。


 高速道路だから限度があるけど、許されるかぎりスピードを落としていく。


 チラッと助手席を見ると、

 花恭さんは後部座席に手を伸ばして傘を取る。


「邪魔だなぁ」

「じゃあ小春さんが素手で戦うかい?」

「勘弁してください」


 大きい傘を隣で構えられたら、圧迫感がすごい。

 抜き身の刀じゃないだけマシか、スペース的には悪化しているか。


「後部座席に座ればよかったのに」

「深夜のドライブ、助手席に人がいないと侘しいでしょ?」

「今余裕ないから、あんまり関係ないです」

「えー? そんなんじゃ女性口説けないよ?」

「私がジェットババア口説いてどうするんですか」


 そう、全てはジェットババア。

 コイツ次第で私たちの身の安全が変わってしまうし、

 そもそもそのために命を懸けているわけで。


 だけど、


 チラッとサイドミラーを見る。

 バックミラーも見てみる。


「花恭さん」

「なんだい」


「ジェットババア、います?」


 彼は窓を開け、首を出して後方確認すると(みんなは危ないからやらないでね)



「いないな」



 あっさりつぶやいた。


「うーん、どうしてだろう」


 ホッとしたような、困ったような。

 私は複雑な気分でいるのに、花恭さんの方は淡白だ。


「そりゃ毎日事故が起きてるわけじゃないし。出ない日の方が多いんでしょ」

「確かに」


 そりゃそっか。

 今まではから傘おばけにしろ烏天狗にしろ、探したその日に会えていたけど

(烏天狗は最初からこっちを誘き出すつもりだったらしいけど)


 本来はこう、地道なものなんだろう。

 レアポ◯モン探してひたすら草むらをうろつくみたいな。


 考えているあいだに有明ジャンクションを過ぎようとしている。


「どうします? もうしばらく高速乗ってみます?」


 すると花恭さんは首を左右へ。


「いや、いい。降りよう。今日はもう遅いし」

「そうですか」

「このままだとジェットババア関係なく、小春さんが居眠り運転で事故りかねない」

「あー」


 確かに、いまいま眠気がしているわけじゃないけど、時刻は3時をまわっている。

 いつ瞼が下がってくるか分からない。


 たぶん今は緊張で覚醒状態なだけ。

 長引いて糸が切れたら、一気にくるはず。


「じゃあ、おとなしく帰りますか」

「明日もあるしね。お店も、機会も」


 車は直進せず、インターチェンジへ向かった。











 翌日の昼。

 多少寝不足だけど、業務に支障はない。

 ということで仕込みをしていると、


 花恭さんはいつものようにカウンター


 なんだけど、めずらしくお酒を飲んでいない。

 置いてあるコーラはラム酒が入っていない純粋な存在。


 彼は今、スマホと睨めっこしている。


「どうしたんですか」

「東京港トンネルか」

「何が?」


 ()()()()()だったんだろうけど、聞いたら視線を向けてくれた。


「いや、有明ジャンクションにはトンネルがあるらしくてね。昨日は通らなかったなって」

「あー、あの海底トンネルですね。それが?」


 花恭さんはスマホを置いて、肘を突きながらコーラを一口。


「ジェットババアはもともと、『トンネルに出てくる』存在だったんだ」

「へぇ」

「でもソレだと、近くにトンネルのない地域や、縁のない子どものあいだで広まらないでしょ?」

「ですね」

「そこでこのまえ話した、都市伝説の『出典がない』ってのが効いてくる。


 もう完全に視線はスマホから外れて、私への講義モード。


「『こう』っていう『答え』がどこにも書いてないから、



 場所や語り手の都合で中身が変わっていく。



 そして」



「『そう』思えば『そう』なる……?」



「よろしい」


 花恭さんはにっこり笑う。

 ゼミの教授みたい。


「つまりこのジェットババアの場合だと。地域によって、そこで話されてる内容によって


『トンネルに出てくる』場合もあれば『高速道路』も。果ては『場所の指定がない』のまでいるわけだ」


 確かに口裂け女だって、『ポマード』一つとっても


『匂いが苦手だから付けていると襲われない』

『唱えるだけで逃げる』

『唱えると逆上して殺される』


 とかいろいろあった気がする。


「ご当地ババアでルールが違うってわけだな」

「ご当地ババアて」


 グラスを揺らす花恭さん。



 そういうわけで、今夜はトンネル巡りとなるのだった。


 ……違う心霊スポットにかち合わないよね?

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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