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【悲報】2回目

 あぁ、思考が解凍されるって、こういう感じなのね。


「花恭さん!」

「無事だなっ!?」


 天井で姿は見えないけど、そこにいるみたい。


『花瀬か』


 ぬらりひょんも私から視線を外して、道路側を見ている。


「ぬらりひょん」


 花恭さんもそっちに反応したらしい。

 アイツがさっきまで私に向けていた以上に冷たい声が響く。


 それと同時に、



「オマエは、また僕から大事なものを、奪おうというのか」



「きゃっ、え?」


 なんか、体に振動が

 いや、


 食器棚の方からカチカチ音がしてる。

 店全体が揺れてるんだ。

 小さい地震?


 お酒とか割れたらたまらない。

 大丈夫かどうか、厨房を覗いて確認すると、


 動いたおかげで天井の穴から、花恭さんが見える角度に。


 な、



 なに、アレ。



 そこにいたのは、



 昭和のアニメの超能力みたいに、青白いオーラをまとい

 髪の毛や着流しを、下から風が吹いてるみたいに逆立てる


 怒りに満ちた表情の花恭さん。



「わ、わ、わ」


 どんどん揺れが強くなっていく。

 ヤバいヤバい! のんきに見てないで机の下とかに隠れるべきかも!


 ていうか下手したら、このまま花恭さんに店を吹っ飛ばされちゃう!?


 でも止めるわけにもいかない。

 にっちもさっちもいかない状況で、冷静な判断をしたのは


『ふむ。花瀬の男に烏天狗殺し。凶悪な妖怪狩りどもと2対1か。



 さすがに()()骨が折れるの。夜分に一人を奇襲した意味ももはやない。

 ここは引き下がるとしよう』



 ぬらりひょんだった。

 相変わらず私を戦力にカウントしていることを除けば。


 でもさすが後頭部長いだけのことはある。

 しっかり脳みそ詰まってるぜ。



 ただ、争いごとってのは片方だけが冷静でも収まらない。



「逃さん!」


 発光する花恭さんは仕込み刀を抜き放ち、ぬらりひょんへ切り掛かる。

 そこにヤツの方も、溜めていた2発目の闇魔法的なのを放つ。


 やめてぇ!


 2つのオーラが正面衝突する。

 かろうじて見えたのは、きっと花恭さんが暗黒玉を刀で上に跳ね上げて、


 うわっ!



 眩しい!



 両者がぶつかったところから、白飛びするみたいな光が溢れて、






 ひるるるるる



 どぱぱーん






「……え?」


 次に目を開けたら、何コレ?



 なんか大きい打ち上げ花火が上がってる。



 何事?


 いや、それより花恭さんは!? 店は!?


 とりあえず店は跡地にも瓦礫の山にもなってないし、私もケガはない。

 花恭さんは?


 天井の穴から覗くと、彼も夜空の花火を見上げていた。

 もうオーラも出てなくて、ただ絵になる日本の夏の後ろ姿がそこにいる。


 やがて残光もなくなると、花恭さんはこっちを振り返る。

 眩しいのから暗くなって、顔はよく見えないけど、


 なんとなく、笑った気がする。



 いや、でも、脆く、

 泣きそうなような



「ぬらりひょん、逃げられたよ」


 そのまま彼は、穴から1階へ飛び降りてきた。


「そうですか。でも無事ならそれでよかったです」

「それはこっちのセリフだよ」


 ポン、と私の肩に手が置かれる。


「随分と災難だったね。でも無事でよかった」

「はい。おかげさまで」


 本当に花恭さんのおかげ。

 彼が来てなかったら、私はアイツを9番アイアンで。

 うん、自信ない。


「わざわざ助けに来てくれたんですね」

「当たりまえさ。この世界、巻き込んでしまったのは僕だ」


 やっと目が慣れてきた。

 それで最初に見えるのが『何言ってんだコイツ』って表情なのはアレだけど。


「にしたって早かったし。さすがですね」


 素直に褒めると、


「あれ?」


 花恭さんはプイと顔を背けてしまう。

 皮肉って思われちゃった?


「どうしたの。別に含みとかないですよ?」

「そうじゃない」


 声もちょっとだけ小さい?


「間に合ったのは()()()()だ。飲み足りなくて近くのコンビニにいたから」

「あー」

「真っ直ぐ帰ってたら、間に合ったか分からない」


 そういうことね。

 確かにそれは、お互いヒヤッとしたところだ。


 でも私は助けられて素直に感謝してるし、文句はない。


「気にしないでください。態度デカい方が似合ってますよ」

「顔は小さいよ」

「誰も顔の話はしてませんけど」


 意味不明なナルシスト発言だけど、調子は戻ったっぽいしヨシとしよう。

 照れ隠しってことで。


 で、問題は



「お店、どうしよう……」



「あー」


 派手にぶっ壊されちゃったよ!


 修繕?

 リフォーム?

 まさかの建て直し?


 いったいどうすレバいいの!?


「こ、この際2階は諦めて、穴だけ塞いでバックヤードに寝泊まりする? そしたら全部でいくら掛かる? そもそもおじいちゃんが帰ってきたらなんて言えば!?

 ていうか私、財布とか通帳とか諸々の書類とか、全部2階に置いてたよね? もしかして全部消し飛んだ?」

「消し飛んだよ」

「NOOOOOO!!」


 機嫌が治ったと思ったら容赦ない一言!

 もうちょっと落ち込んどいてくれていいのよ!?


 頭を抱えてグネグネするしかない私の頭を、花恭さんはポンポン叩く。


「まぁまぁまぁ、落ち着きなよ」

「これが! 落ち着いて! られます! かぁ!」

「まぁまぁ。でも言ってしまえば、諸問題は全部お金の話でしょ?」


 ん?


 なんか嫌な予感がするぞ?


 そもそもお金で解決できない問題も発生してそうだけど、それは置いとくとして。

 この流れはもしや……


「安心して! 僕が立て替えてあげる!」

「ほ、ホントに?」

「ホントだよぉ」


 まぁそれだけならありがたい申し出。

 問題は、



「ちなみに、そのお金は」

「借金のとこに足しとくね」



「NOOOOOO!!」


 やっぱり!

 さっきまで細かいこと気にしてたんだし、それならチャラにしてくれてもよくない!?


 せっかく地道に借金返してきたのにさぁ!

 食材とお酒の代金だから、そのうち返ると思ってた矢先にさぁ!


 いくら増えるの!?

 いつになったら返済終わるの!?


「いやああああああ!!」

「夜中に近所迷惑だよ」

「今更ですよ!」


 くそっ、余裕そうに!

 私の苦しみがオマエに分かるか花瀬花恭!


 と睨みつけたら、


 苦しみが分かるわけじゃないだろうけど、

 花恭さんは妙に真剣な顔でこっちを見ている。


「どうしたんですか」

「それでね、小春さん」

「なんでしょう」

「ここからが大事な話なんだ」

「コレ以上に!?」


 ないと思いますけど!?

 絶対ない!


 だって私の人生掛かってるレベルだもん!

 そう簡単に越えられても困る!


 なんて思ってたけど、飛び出してきた言葉は


「小春さん。



 僕と同棲しようか」



「え」



 確かに人生の岐路になりそうだった。











             夕暮れに鳴くは神隠し 完

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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