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襲来

「あー、疲れたぁ」


 花恭さんに妖怪料理を振る舞うノルマもクリア。



 そのあとは普通にお店をやって、

『なんでまだ居座ってんの』とも思わなくなった彼も普通に飲み食いして、


 無事、営業時間終了。



 片付けをして、お風呂入って、スキンケアして。


 いい感じに身も心もほぐれた深夜2時半過ぎ。

 私はベッドの上にいる。


「本日のタスク終了〜」


 厳密には日付け跨いでる、というのは無視。

 起きたら次寝るまでが『今日』、目が覚めてからが『次の日』だ。

 ※二度寝と昼寝はカウントしないものとする。


 という精神で横になる。


 ただでさえワンオペで新しいことに取り掛かっている日々。

 しかも、身も心も追い付かない、命だって危ない妖怪騒動にも巻き込まれてる。


「ふわぁ、あぁ〜……」


 ものの数分で瞼が重くなってきたところに、



 コン


     コン



「ふあ?」


 なんか変な音がする。


 よくあるラップ音とか家鳴りみたいなのじゃない。

 窓の方、窓ガラスだ。

 悪ガキが小石とか投げてきたみたいな音。

 されたことないけど。


 あぁ、そうだ。

 小学生のとき、林間学習で山奥の施設に泊まった。

 そのとき窓ガラスに、部屋の灯りに誘われたカナブンがコンコンと。


 あったなぁ。

 懐かしいなぁ。


 あぁ、昔のこと思い出してたら、どんどん眠く……



 ガン!


 バン!



「んだよウルサイなぁ夜中にさぁ! カナブンのサイズ感じゃないのよ!」


 音の主張が激しくなってきた。

 漫画なら怒りマークが付いてる感じ。


 ていうか音と衝撃が上がっている。

 ぶつかってるものの大きさや速さが増したってことになる。


「なによ! さては昼間のカラス残党が、『忠臣蔵』でもしに来たっての!?」


 いや、よくよく考えたらカラス47羽は普通に怖いわ。

 メンチ切ってる場合じゃないわ。


 でもパターン的に、放置してたらより激しくなるんだろうな。


「もう! やるしかないの!?」


 おじいちゃん愛用の9番アイアンを握り締め、


 勢いよくカーテンを開くと、



 後頭部の長いハゲたおじいさんが立っている。



「うわああ!?」


 小柄で、和服で、杖を持った、

 そう、忘れもしない



「ぬらりひょん!!」



 叫ぶのとほぼ同時、ヤツは杖を大きく振りかぶり、


「ちょっとバカ! やめて! 何す……!」


 慌てて距離をとった瞬間、



 窓ガラスに向かって振り下ろした。



「きゃああああ!」


 ガラス片飛んできた!

 片とかいうサイズじゃないのもフリスビーみたいに飛んできた!

 危ない!!


 幸い痛みは走ってないから、ケガはないみたい。

 尻餅はついたけど。


 混乱で頭が沸騰しそうな私をよそに、


『邪魔するぞい』

「邪魔ってレベルじゃない!」


 ぬらりひょんが部屋へ侵入してくる。

 ていうかここ2階だよ!? ベランダない側の窓だよ!?

 アイツ今まで宙に浮いてたっていうの!?


「な、な、なんの用ですか! もうご飯は作りませんよ! お酒も出しません!」


 ちょっとでもなんかしてみろ!

 9番アイアンが火を吹くぞ!(吹かない)

 尻餅ついた状態で吠えても格好つかないけど。


 逆にぬらりひょんの方は余裕たっぷり。


『ふむ。ずいぶんと嫌われたものだのう』

「当たりまえでしょ!」


 また店のもの食い荒らされた挙句、逆ギレで牛鬼出されたらたまらない。

 なんかムカついてきたら勢いで立ち上がれた。


 だけど、


『まぁそこについては心配せんでええわい』

「は?」


『今宵はメシ食いにきたわけではないでの』


 向こうは前回と違う。



 最初からどこか冷淡な感じ。



 声も、目付きも。


「じゃあ、いったい」


 私の返事は、我ながら動揺して情けなかった。

 だって、あんな目で見られたら。


『ワシら妖怪にとって、何より目障りは花の一族よ。

 ゆえに、あの男を殺せばしばらくは平穏に過ごせる。そう思うて烏天狗を差し向けた。



 なのに、じゃ』



 ぬらりひょんの目力がギンと増す。

 いつかの晩に向けられた、興味のない虫ケラを見る目じゃない。


 明らか、憎悪とか特別な負の感情が込められたヤツだ。


 そこまでは私でも分かる。

 けど、



『よもや花瀬ではなくお主が、烏天狗を討つとはの』



「……え?


 その理由はやっぱり分からなかった。

 どういうこと?


「いやいやいやいや、やってないやってない」

『嘘を申すな。ワシは見ておったぞ。キサマが的確に天狗の苦手な鯖を焼く匂いを繰り出すのを』

「はぁ!?」


 違う。

 それは違う。


 外野から流れだけ見たらそうかもしれない。

 でも、サバや七輪を用意するよう言ったのは花恭さんだ。


 私はただ、意味も分からず頼まれた準備をしただけで。



『しかも火の着いた藁を撒き散らし、烏天狗を焼き尽くした』



「え、えぇっ!?」


 確かにそれは覚えがある。

 やりはした。藁焼きは私の発想だもん。


 でも、


「わ、わ、私じゃないもん!」


 そんな私が主犯格か実行犯みたいな言い掛かりはやめて!

 アイツが風を吹かせて、勝手に吸い込んで勝手に引火しただけでしょ!

 そもそも天狗が藁で焼けるなんて思わないもん!


 至極真っ当な論理のはず。

 でも、


 相手は人間じゃないから、人間の論理も通じない。


『よもやお主が、ここまで手強い妖怪狩りとは思わなんだ。花瀬に育てられても厄介よ。



 ここで消えてもらう』



「はぁ!?」


 言うや否や、ぬらりひょんはまた杖を掲げる。


 なになになに、やだやだやだ、



 目に見えてドス黒いオーラみたいなのが集まってる。



 ドラ◯エの闇属性魔法みたい。



 とか言ってる場合じゃない!!



『ここで消えてもらう』ってことは、



 アレをここでぶちかます気だ!

 私に向かって!



「きゃあああああ!!」



 逃げないと! とにかく逃げないと!

 とりあえず1階に……


 歩くと這うの中間くらいでバタバタ、なんとか階段に逃げ込んだ直後



 背後で凄まじい衝撃と、

 木材の建物をベキベキ破壊する音が響く。


『となりのト◯ロ』の、台風で家が悲鳴あげてるシーンみたいなヤバい音。



「きゃああ!!」



 あまりの風圧で、階段を一気に下まで転げ落ちる。


 痛い。

 舌は噛んでない。

 骨は?

 そこまでの痛みは感じない。


 ただ、



『間一髪逃れたか。しぶといのう』



 ひっくり返ってるんだろう、天地が逆の視界。


 階段を上った先にぬらりひょんが立っていて、


「ウソでしょ……」



 その背後に夜空が見える。



 2階が吹っ飛んだってこと。



 不幸中の幸いは床、1階の天井部分は残ってることくらい?

 いや、ところどころ穴開いてるっぽいけど。


 でもそれだって、



『ちょこまか逃げても、苦しみが増えるだけじゃぞえ』



 死んでしまったらまったく意味がない。


『今度こそ楽にしてくれよう』


 また杖にオーラが集まっていく。


 ひっくり返ってる場合じゃない。

 さっさと逃げるか、


「……頭打たなくてよかった」


 少し曲がった9番アイアンで殴り掛かるか、決めないと。


『抵抗すれば、もっと苦しむぞ』


 呆れたみたいな声しやがって。

 誰のせいでこうなってると。


 どうせ鬼ごっこしたって、あの謎爆発から逃げ切れるとは思わない。

 だからって撲殺とかができるかって言われたら。


 死に方を選べってこと!?


 上半身はゴルフクラブを振りかぶり

 下半身は店の出口へ足がジリッと


 頭と心が混乱で整理できないそのとき、



「小春さん!!」



 2階から聞き慣れた声が響く。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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