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ときにロリコン、ときに風の神

 烏天狗。

 某ゲゲゲは女房の方しか知らない私でも聞いたことがある。


 でもやっぱり、天狗っていったら鼻が長いのが常識。

 こんなガッツリ、物理的な意味での鳥頭が出てきたら。


 状況が状況だ。

『昭和の特撮怪人かよ』とか言いたいのを飲み込んでいると、



『なるほど』



 コイツもしゃべるんだ。

 基準がよく分からない。

 人型に近いとか、知性がありそうとかかな。

 頭鳥だけど。


『我輩の正体をすでに見抜いていたか』


 カラスが猛禽類かなんて私知らないけど。

 ヤツは鋭い目で花恭さんを見下ろす。


 対して彼は、野犬みたいに獰猛な笑顔で見つめ返す。

 野犬見たことないけど。


「そりゃな。短いスパンで暴れすぎなんだよ。ソレと分かる証拠も丸出しで」


 花恭さんは闘牛みたいに、草鞋のつま先でアスファルトをザリザリ蹴る。


「オマエら妖怪はいつもそうだ。で、結局は人間に見つかって退治される」


 謡うように楽しげな挑発の言葉へ、リズムを付けるみたいに。


『フハハハ』


 でも烏天狗はカッともせず、腕を組んで笑っている。


『確かにそうかもしれんがな? どうせ人間のことだ。勝った伝承しか残していないだけのことよ』

「じゃあ妖怪側で伝わってる、勝った逸話を教えてくれよ」


 続く挑発合戦。

 私、サバなんか焼いている場合かな。


 戦闘で役に立てるわけじゃないけど、気分の問題はある。


『ソレには及ばん。弱い人間をなぶり殺したなど当然の話。いちいち自慢するヤツはおらんからな』

「ふーん」


『そして、今日ばかりは「人間に見つかった」のではない』


 その言葉を合図に、


 烏天狗は腕組みを解いて、ゆっくり両腕を広げる。


 右手に持っているのは、大きい紅葉の葉っぱみたいな団扇。


『我輩がキサマを誘い出したのだ』

「へぇ、熱烈じゃん?」

『ぬらりひょんどのに請われて来てみれば、まさか忌まわしき花瀬が残っていようとは。なるほど、コレは我輩でなければ太刀打ちできまい』

「アイツの差し金で、刺客として来たってぇワケだな?」

『そうだ』

「人気者は辛いね」

『そうかもな』


 ヤツはソレを、大袈裟に

 一度腕をぶるんと震わせて掲げる。


「うわっ」


 すると急に風が吹きはじめた。

 サバを焼く煙が顔に当たって、変な声が出る。


 風が渦巻いてる。


 目には見えないけれど、肌で分かる。



 徐々に強くなっている空気の流れは、団扇の先端へ。



『ときにキサマ、先ほど「妖怪側が勝った話を教えろ」と言ったな?』

「僕の方は無学で悪いね。許せよ」


 花恭さん、まだ軽口続けるのね。


 だけど、獰猛な感じから淡々とした雰囲気へ。

 マジになったとか気圧されたとかは分からない。


 ただ、その変化だけで烏天狗には満足だったらしい。


 クチバシみたいな硬いのは変形しない。

 口角が上がるなんてこともないけど、


 私にもアイツが笑ったのは分かる。


『安心しろ。



 今日は確実にその日になる!


 キサマの身をもってな!!』



 言い終わるや否やってタイミング。



 烏天狗は団扇を勢いよく振り下ろす。



 瞬間、もうゴウッとかビュウみたいな風の音じゃない。

 ボッとジェットエンジンでも噴いたような音と同時に、


 確実に作り上げられていた、風の一撃が発射される。


「ふっ!」


 対して花恭さんは和傘を広げる。

 正面から見たら丸盾みたいになるんだろうけど、


 常識的なサイズの和傘は、


「花恭さん!?」


 スッポリと全身を覆うことはできない。

 傘に弾かれて流れた風が、


 かまいたちってヤツかな。

 花恭さんのスネから血を走らせる。


 それ以上のケガはなさそうだけど、風圧に押されて片膝をついた。


「大丈夫ですかっ!」


 何もできないけど、助けなきゃ!


 でも、近寄ろうとする私を彼は手で制する。


『フハハハハ。いかに花瀬一門の人間といえど、所詮は生身の人間。痛かろう』


 天狗め! 余裕綽々(しゃくしゃく)って声を!

 降りてきて戦え!


「関心しないなぁ」


 トラッシュトークに対応するように。

 花恭さんが、傘を杖に立ち上がる。


 無理してるとか強がってる様子はないけど、


 右足の草鞋が、血を吸って赤くなってる。


「ロリコンが幼女に向かって攻撃するなんて。ノータッチの精神じゃないのかい」


 そっか。

 花恭さんの背後には少女がいる。

 だから避けずに受けて、ダメージを負ったんだ。


『悪いが我々はしっかり攫う方の怪異なのでな』

「そうだったな」


「そこの女の子! 早く逃げて!」


 きっと軽口を多く入れてるのも、時間稼ぎだったんだ。

 性格もあるだろうけど。


 少女は震えてるのか頷いてるのか分からないけど、立ち上がって走っていく。


 もう少し早く気付いてサポートしていれば。


『逃げたか』


 烏天狗はジロリとその背中を見た。


『まぁいい』


 けれど、すぐに視線を戻す。



『今ばかりは、狙いは(わろ)ではなくキサマだからな。花瀬花恭』



「僕も地元じゃイケメンで通ってるからね」


 花弥子さんもドスの効いた声で睨み返す。

 けれど、自分から仕掛けてはいかない。


 牛鬼のときの身体能力を考えたら、いけるはず。


 きっと脚のダメージで電柱の上まで跳べないんだ。


『確かに、それは認めよう』


 それを見越してるのか、

 烏天狗はまた悠々と団扇を掲げる。


『しかし、



 今に二目(ふため)と見られぬ造作(ぞうさく)となる』



「きゃっ!」


 また風が集まっていく。


 傘じゃ完全に防げないし、今の脚じゃ回避も難しいと思う。


 どうしよう!?

 何か、私に援護できることは!?



「小春さん」



 そこに、静かな声が掛けられる。

 落ち着いた、私を安心させるような、


「え」



「お弁当、できてる?」



 私を信頼しているような。



「あ、アレですか!? この状況で!?」

「今だからこそさ」


 頼まれていた弁当。

 七輪とサバ。


 振り返ると、炭の火が風で消えかかっている。


「あっ!」


 さっきそういう状況かって言ったのは私だけど。

 ()()()でも料理人だからか、体が勝手に動く。


 体で七輪への風を遮って、火を着けなおして団扇で適切に酸素を送る。



 そしてここで秘密兵器投入!


 炭の上に藁を()べる。



 高知でカツオの()()()なんかに使う技法。

 藁は中身が空洞で空気が入っている。


 だから一気に燃えて、高火力が出せる。



「すぐ()()()から、もうちょっと保たせてください!」


 花恭さんが烏天狗と睨み合ってる一方で、団扇をパタパタとサバ焼いてる。

 我ながら滑稽すぎるでしょ。


 でもコレが私にできること。


 すると、


「大丈夫」


 肯定するかのように、花恭さんは微笑んだ。

 その直後、



『むおおっ!?』

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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