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出たなロリコン

「あれは」


 カラスなんていくらでもいるでしょ

 そう言ったらそうだけど。


 夕方とカラスなんて、よくあるシチュエーションでしょ

 なんて言ったらそれまでだけど。

 夏だから全然昼間っぽいけど。



 だけど、私は見た。

 現場付近、関係のある場所かは分からないけど


 ゴミ捨て場に落ちていた大きな黒い羽を。



 私は見た。

 その瞬間、大量に現れて


 威嚇するように大合唱を繰り広げるカラスの群れを。



 だから、たった1羽のカラスだって、因縁めいたものを感じる。


 ソイツがキョロキョロ子どもたちを眺めているのも。


「ここからだ。静かにね?」


 花恭さんはもう一度口の前で人差し指を立てると、


「きゃっ」

「静かにって」


 いきなり私の額にお(ふだ)を貼り付ける。

 コレじゃキョンシーだよ。

 死してなお花恭さんに便利使いされるなんて()()()()もんじゃない。


「なんのお札」

「僕らは顔が割れてる。認識阻害ってやつだ」

「相手カラスですよ」

「小学生くらいの知能はあって、人の顔覚えるらしいよ。あと透明人間になるわけじゃないし、悪いことはできないからね」

「ニュアンスの違いは分からないけどその補足はいらない」


 とにかくカラスにバレるとマズくて、ソレを防ぐお札らしい。

 テキトーに剥がすと呪われるとかあっても嫌だし、そのままにしておこう。


 でも視界の邪魔だな、なんて寄り目になっていると



「動いた」



 花恭さんの静かなつぶやきが聞こえた。


「ほら、あの子」


 指差す先。

 そこには左右のリュックの肩紐をギュッと握る、一人で帰路に着く少女。


 そしてその頭上、

 あとを追うようにカラスが、電線や街路樹を飛び移る。


 そのあいだ、一切少女から目を離さない。


「明らかに」

「目ぇ付けてるね」


 花恭さんはニヤリと口角を上げると、着流しの袖を腕まくりする。



「さぁて小春さん! ストーカーをストーキングするかぁ!」



「お、おー」






 少女が道をテクテク、カラスがあとをピョンピョン、追って私たちがコソコソ。

 しばらくは進学塾があるだけあって駅前、人目のありそうな場所だ。


「でも、誘拐犯ならもうちょっと寂れた場所で狙うんじゃ?」

「ソレより『子ども』って要素が大事なんだろ。ギリギリ大人の帰宅も始まらない時間に、一人で出歩く小学生。ま、狙い目は塾帰りだろうさ。ニュースでも、前の子は塾帰りって言ってたし」

「なるほど」


 なんて言っているうちに少女は駅へ。

 交通カードで流れるように改札の向こうへ。


 カラスの方はというと、

 ロータリーの縁石で立ち往生してる。

 さすがに中まで追っては行かないみたい。


「コレもう一安心なんじゃ?」


 少し平和ボケかもしれない発言に対し、花恭さんは


「いたっ」


 お札の上から軽くチョップ。

 そのまま何も言わず、駅の改札を金払って通る。


 どうやら追跡は続くみたいだ。






 電車に乗って2駅目。

 少女は少し駆け足で電車を降りる。

 降り遅れた経験があるのかもしれない。



 私たちも改札を出ると



「ああっ!?」



「しーっ。派手なことするとバレる」

「だ、だけど!」


 駅を出てすぐの電柱の上。



 カラスがいる。



「アイツ、電車を追い掛けてきたの!?」

「んなワケないでしょ。別のカラスだ」

「カラスの見分けがつくんですか!?」

「あのねぇ。見分けじゃなくて、普通に考えたらそうでしょ」


 どこにだってカラスはいる。

 そう言われたらそうだけど、今は状況が違う。


「じゃあカラスが引き継ぎしてるって? 社会人!? 社会カラス!?」

「そうだね。社会っていうか会社っていうか」


 花恭さんはニヤリと笑う。



「こうもカラスを統率できるヤツは、そういないだろうな」






 さらに少女と、案の定追跡するカラスを追って。


 横断歩道で遮られてヤキモキしたり

 ショーウィンドウのアクセサリー眺めるのを眺めたり

 100円パンとパックのいちごミルクの買い食いを見守ったり

 スマホを触るとき、ちゃんと脇に寄って立ち止まるのに感心したり


 しているうちに住宅街へ。


 一軒家ばかりが立ち並ぶ、碁盤みたいに整理された道路は狭い。

 車がすれ違うこともできなさそう。


 つまりは、



 隠れられる十字路が多くて

 狭くて逃げ場がない空間。



 逆に少女の家も近いはず。

 何かあるとすれば、ここで……


 緊張で思わずカラスの方を確認すると


「わっ!」



『ガアガアガアガア』

『ガアガアガアガア』

『ガアガアガアガア』

『ガアガアガアガア』

『ガアガアガアガア』

『ガアガアガアガア』



 数が異様に増えてる。

 いつかの威嚇してきたときよりは少ないけど、明らかに集まってきてる。


「ビンゴ、だね」


 花恭さんも顔をあげて、不敵に笑っている。


「いや、ビンゴじゃないでしょ。これ、バレてるんじゃ」

「それはない」

「そ、そう」


 まずは一安心、となった束の間



「じゃ、そろそろお弁当にしよか」



「はぁ!?」


 またも奇想天外な発言が飛び出す。

 彼はさも当然って感じで、七輪の入ったリュックと保冷バッグを地面に下ろす。


「なんでなんでなんで!? ここで!?」

「ここで」

「七輪を!?」

「炭で」

「バーカ!!」


 住宅街だよ!?

 そんなのもう放火魔扱いだわ!


「ほら、女の子とカラスが行ってしまう」

「あーもう! 理由があるんでしょうね! 『食べたくなっただけ』だったら、晩ご飯とお酒抜きですからね!」

「安心しなよ」


 やると決めたら時間との勝負。

 素早く七輪を取り出し、中に炭を詰め、着火する。

 そこに網を載せ、保冷バッグから取り出したるは


「コレでカラスの気を引こうとか、そんなんじゃないよね!」



 まさかのサバ。



「まったくもう!」


 結構大きめの柵を載せて、団扇でパタパタ火に酸素を送る。

 道路の真ん中で七輪を使う、完全に奇人だけどどうにでもなれ!



 すると、そうしているうちに


 ふと見れば、少女が立ち止まっている。


 やがて彼女はしゃがんで、ポツリとつぶやいた。



「あれ、おっきな羽……」



 瞬間、風がゴオッと巻き起こって


「きゃあ!」


 少女の短い悲鳴が聞こえたかと思うと、


「あれ?」



 風が止んだ。



 と同時に、



『ガアガアガアガア!!』



 カラスの怒号が響き渡る。


 まさか攫われたの!?


 煙の向こうへ目を凝らすと、



「な、なに?」



 少女は呆然と、尻餅ついてそこにいる。



 そして、その前で立ちはだかる位置に


「子どもを攫う伝承がある」


 いつの間にか立っている花恭さん。


 ザリッと草鞋を鳴らして、1歩、2歩と前へ出る。


「かつカラスを使役し、自身も羽を落とす程度にはカラスの()()をしている」


「あ、あの、おにいさんは?」

「いい人だよ」


 一度振り返って優しい声で答えると、またくるりと振り返る。

 そして見上げた先、電柱の上には


「そんなのオマエしかいないよなぁ、



 烏天狗(からすてんぐ)



 山伏の格好で、黒い翼を生やした、


 顔面カラスの大男が立っている。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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