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燃え尽きたぜ……では許されない

 ラブホでも飲み食いしてたし、お腹いっぱいだったらしい。

 花恭さんは


「料理は明日頼むよ」


 と言い残して去っていった。











 そして翌日の11時。


 お店の厨房、目の前にあるのは、


「太陽に当たらなくても、こうなるんだなぁ」



 大量の灰。



 あの吸血鬼の死体()()()()()

 昨日トドメを刺して、少し目を離しているうちに()()なってた。 


 今までで一番人型の妖怪だったし、正直調理はプレッシャーだったけど。

 形が残ってなければマシ、かな?

 持って帰るのにも今まで一番神経を使わずに済んだ。


 ただ、


「これもう、食材じゃないよねぇ」


 灰だ。

 擦ったゴマじゃない。

 灰だ。


「竹炭とかイカ墨のパスタは聞いたことあるけど、これはなぁ」


 妖怪自体そもそも食べるもんじゃないというのは置いといて。

 花恭さん目線でも、コレをそのまま出されたらキレると思う。


 だから、見た目を誤魔化せるか。

『これはそういう料理なんだよ』と押し通せるか。

 どっちかを考えないといけない。


「うーん、『灰を使う料理』ってなると」


 コンニャク……の石灰とコレは同じ扱いでいいのかな。

 そもそも素人がイチから作るって、芋の仕入れも技術も大変そう。


 他には『(あく)持ち酒』っていうのがあるらしい。

 文字どおりお酒に灰をぶち込むんだけど、


「アレって製造過程の話でしょ?」


 仕上げに振り掛けるとかいうわけじゃない。

 そもそも灰も一緒に飲むわけない。

 花恭さんに必須な、妖力的なものが抽出されるかも分からない。


 あと梅酒とかで考えるとセーフだと思いたいけど、酒税法が怖い。


「ていうか、それなら魚粉みたいに味噌汁にでも入れる?」


 ということで、液体に溶けそうか粒子のキメを確認するべく


 まず目で見てみようと顔を近付けると



「うわクッサ! まただよ!」



 臭い食材率高すぎ! 嫌んなっちゃう!


 ただ、今回のは今までとはまたジャンルが違う。



 やたら血生臭い。



 昔おじいちゃんが猟師にもらった、血抜きをしくじった猪肉(大抵『くれる』のはこういう売りものにならないお肉)。

 アレなんか比べものにならないくらいの、血の匂いがする。

 吸血鬼だからってさぁ。


 鼻の穴に鉄の棒突っ込まれた気分。

 ロボトミーかよ。


 あとニンニクの匂いもする。

 どういうメカニズムか知らないけど、毒として全身にまわったのかな。

 まぁニンニク食べすぎると、汗からも匂いが出るっていうし。

 そういう食材なんでしょう(適当)。


 吸血鬼のメカニズムはどうでもいい。


「いやコレ、困ったね?」


 またもや食材としてのクセとパンチが強すぎる。


 私の使命は、このクソマズ食材を美食に変化させること。

 そのために『小料理屋 はる』は、花瀬花恭によって生かされているのだ。


 改めてヒドい話だよ。


 というわけでも、料理人(代理)のプライドとしても。

 私はコイツを生まれ変わらせなければならない。


「とにもかくにも、血だなぁ」


 そのためにまず乗り越えなければならないのが、この強烈な血のテイスト。

 どうしたら食材のラインに乗れるか悩むところだが、


「あ、そうだ」


 私だって高校からおじいちゃんの隣で手伝ってきた身。

 お店のメニューじゃないものも好奇心で調べたり、料理に関する知識はそこそこある。


「さすがに細かすぎるけど、せっかく()()なってるわけだし」


 一つのレシピが頭に浮かび、光明が見えてきた。


 そこに


「おはよー。お昼ごはん食べに来たよー」


 店の引き戸が開いて、花恭さんが現れた。

 だけど、


「あ、ごめんなさい。せっかく来てくれたところ悪いんですけど、今日はジャーキーで凌いでくれますか?」

「あ、そう?」

「レシピは思い付いたんですけど、ちょっと足りないものがあって」

「そっかそっか」


 このまえの、から傘お化けの余った肉で作ったジャーキー。

 それを差し出すと彼は素直に受け取る。


「コレでレシピ思い付いただけでもエラいよ」


 どうやら花恭さんも、この灰がまともな料理になるとは思えなかったみたい。

 最初から大目に見てくれてたのね。


「じゃあウイスキーでももらおうかな」


 強欲なのはそのままだけど。


 なんにせよ、待ってくれるなら助かる。

 その分作るのに手間を掛けられる。


 普通ジャーキーなんか食事の代わりにはならない。

 こういうとき、栄養バランスは関係ナシ妖力さえあればいい、って体質は助かる。


 スコッチ1本飲まれたのは、うん。











 その翌々日、13時を過ぎたころ。


「お届け物でーす」

「はーい。花恭さんちょっと出て」

「しょうがないなぁ」


 ついに待望の材料が届いた。


「暑いなかご苦労さんです」

「いえいえ、こちらに印鑑かサインを」

「えー、『キタカミコハル』ーと」

「ありがとうございます」

「受け取ったよー」


 振り返って、両手でダンボールを頭上に掲げる花恭さん。

 中身割れものだったらどうするつもりなの。


「で、コレなんだい? 重たくはないなぁ」


 彼は大きくもないダンボールをカウンターに置く。


「さぁて、なんでしょうね?」

「焦らさないでよ。クリスマスでもあるまいに。開けていいかい?」

「どうぞどうぞ」

「おりゃ」


 花恭さんはガムテープを剥がしていく。


 中から出てきたのは、


「なんだこの、膨らませるまえのジェット風船みたいなのは」

「ふっふっふっ」


 包装の透明なビニール部分から見えているのは、


 白いペチャンコのゴム膜みたいな、細長い物体。


「コレを使って、今日はあるものを作ります」

「もったいぶってるとコレそのまま食べちゃうよ」

「急に蛮族になるじゃん」


 普段妖怪食べてるからってさぁ。


 嘆いても仕方ない。

 咳払いをしてメニューを発表する。



「本日はブーダン・ノワールを作っていこうと思います!」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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