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ナンパと逆ナンパ(というか罠)

 男は一人。

 まず集団で囲って逃げられなくするナンパ集団ではなさそう。

『着いていったら大人数が待ち構えている』パターンもあり得るけど。


 もちろんそういう(やから)だったとしても大変厄介だけど、

 でも、


 今私たちが探している相手に関しては、それ以上の可能性がある。



 そして、目の前の男は、



「一人? よかったら私と少しお話ししませんか?」



 ゾッとするほど美形の


 白人。


 人種の偏見があるワケじゃない。

 けど、


 追っている相手のことを考えたら。



 花恭さんは?


 チラッと振り返ってみるけど、夜なお多い人混みの中に、姿は見えない。


 だから現実の本物じゃなくて、脳裏に記憶を蘇らせる。











「今夜、僕とラブホテル行こうよ」



 今日の昼間の、あの発言の続き。


「え、え、いやああああああ!!??」

「ちょちょっ! 静かに! ここ店内!」

「いやっ、いやっ、ケダモノ〜!!」

「違うんだ! 誤解っ、誤解だ! 説明を聞いて!」


 いや、今思えば喪服で入店してきて騒ぐ客とか、一番最悪だったと思う。

 特に喫茶店なんて雰囲気に気を遣ってらっしゃるのに。


 でもコレは絶対花恭さんが悪いから。


「いいかい、僕は決して君に大胆なセクハラ行為を行なったんじゃない」

「目的がなんであれ、今のプロセスはセクハラです! 死ねっ!」

「死ぬまえに釈明させてくれ。別に何をしようって話じゃないんだ。ただ、


 山下さんの仇は取るべきだろう?」


「ぅえ?」


 花恭さんの顔は真剣、だと思う。

 そういうの分かりづらい顔立ちしてるし。

 でも声はセクハラの言い訳とかじゃなくて、はっきりした芯が通ってる、かな?


「そのためにヤツを誘き出す作戦なんだ」

「本当ですか!? だったら!」


「ただし」


 だからこそ。

 花恭さんは包み隠さず、真っ直ぐ告げた。



「君を危険に晒すことになる。

 内容を聞いて、少しでも無理だと感じたら、当然やめていい。


 死人の仇討ちに生きてる人間が犠牲になることはない。

 特に君は僕にとって、失うと取り返しがつかないから」











 そうして告げられた作戦を、私は受け入れた。

 山下さんのためもあるけど、


 ここでヤツを仕留めないと、被害は続くだろうから。


 そう、『被害は続く』ということ。

 だから、花恭さんが私に示した役割は、



「……いいですよ、お茶でもしますか」

「やった。いい店を知ってるんです」



 囮になること。






「どうします? お店変えますか?」


 男が私を連れ込んだのはバーだった。


 いったんトイレに行って調べたら別に

『奥には個室があってダブルベッドとシャワーが……』

 みたいなお店ではないらしくて、とりあえずここでは一安心。


 でも一応警戒して注文はモクテルだけに。

 口を付けるのも花恭さんが追い付いてからにした。


 意外だったのは花恭さんが飲まなかったこと。

 あのお酒好きがバーに来たのに、コーヒーだけ飲んでた。


 気にして、くれてるのかな。



 そんなこんなで小一時間粘ったあと、男が提案してきたのが今の言葉。


 ヤバい。

 緊張してきた。


 薄っすら汗が出てきたし、急に喉が渇く。

 さっきまでドリンク飲んでたのに。



 でも今がチャンスなんだ。

 役目を果たさないと!



「いえ、今夜はもう……あ」

「どうしました?」

「終電ないんだった」

「私たちが会ったころにはね。タクシー呼びましょうか?」


 男の顔がニヤリとしたの、見逃せない。


「それより



 朝まで休める場所、知りませんか?」






 男の案内で夜の街を歩く。

 正直すごく怖いけど、


 10メートルくらい離れた後ろを、花恭さんが着いてきている。

 だから大丈夫。

 うん、絶対大丈夫。


 だけど一つだけ気掛かりなこともある。

 それは



 彼は今、いつもの和傘を持っていない。



 今日のファッションは


『ヤツにホテルを出るところから見られるかもしれない』

『そのとき傘なんか持ってたら警戒されるかも』

『そのへんにいそうな若い男の格好しておくよ』


 ってことで、合わないから置いてきた。


 口振りからして、妖怪界隈でも花恭さんは有名なのかもしれない

 とかは置いといて


『いったい、どうやって戦うつもりなんだろう?』


 それだけがひたすら心配。

 高いところから飛び降りたり、ローキックで相手の膝の皿粉砕したりはしていた。

 身体能力があるのは知ってるけど、果たしてそれだけで。



 なんて思っているうちに


「着いたよ」


 男が足を止めたのは、



「あ」



 まさかの、さっきまで花恭さんといたホテル。


 囮としては臨むところだけど、もうホテルとか自信ありすぎじゃない?


 そう思う一方で、



『みんなベッドで冷たくなってて』



 山下さんの置き土産が脳裏に響く。

 それがコイツのルーティンだとしたら、やっぱり間違いない。



「じゃあ、入ろうか」



 ついに男は私の意思を確認しなくなった。

 向こうも勝負どころなんだろう。


 私は小さく頷いた。






 対面じゃない、鍵が自販機みたいに出てくる受付を通過して。


 たどり着いた404号室。

 ここまでリードしていた男は、


「レディファースト」


 私を先に入らせようとする。

 逃がさない手口だろうね。

 そこに関しては妖怪もナンパ男も手口は一緒。


「いえいえ、そんな」


 卑猥な目的じゃなくても、部屋の奥側になるのはマズい。

 遠回しに拒否すると男は少しムッとしたけど、


「ささ、早く」


 ボディタッチ。

 背中を押してやると満足そうに中へ入る。


 ここまで来ればもう大丈夫。

 あとは花恭さんの到着を待って、方法は分からないけど人間か妖怪か判別してもらえれば


 なんて考えたのが、スキになったのかもしれない。


 このまま玄関で立っているはずが、



「おいで」

「きゃっ!」



 急に腕をつかまれて、引っ張り込まれてしまった。



 なんか一声掛けられるかと思って油断してた!

 どうしよう!


 今ならまだ逃げ出せる!?

 いや、下手に暴れたら殺される!?


 混乱している私の後ろで、


 風もない、男の手も届かないのに、

 ドアがバタンと閉まる。

 鍵も。


「あっ! いやっ!」

「しーっ」

「きゃあっ!!」


 男は米袋みたいに私を担ぎ上げると


「うっ!」


 そのまま雑にベッドへ放り込んだ。

 幸い痛くはないけど、


「今更、逃すワケないだろう?』


 ジャケットを脱ぎ、ネクタイを解き、シャツのボタンを2つ3つ外して。

 こちらへゆっくり近付いてくる男。


 声が、美しいテノールから、もっと低いザラついたものに。



『さぁ、観念するのだ』



 瞳も真っ赤になって、

 開いた口の犬歯はやけに長い。


「ひ……や、や……」


 私はもうベッドの上で動けない。

 男がボタンを外すのを止めて、手をこっちへ伸ばそうとしたとき、



 鈍い音がした



 って気付いたのは少し遅れてから。

 だって、それより早く、


 ドアが室内に吹っ飛んできたから。


『誰だっ!』


 男が振り返って叫ぶ。

 角度的、入り口は見えないんだけど、


 廊下の明かりで差し込むシルエット。

 私のよく知ってる人。



「その人から離れろ。薄汚い野良犬」



 よく知ってる声。



「花恭さん!」



「おぉよしよし、怖かったね。よくがんばった」

「それより、コイツやっぱり!」

「そう。お察しのとおり」


 自身を挟んでの会話に、男はジリッと足元を()()()


『キサマらグルか。しかもオレの正体も気付いているとは。祓魔師(エクソシスト)(たぐ)いだな?』


 チラッと私を見た目は、真紅で、激しい怒りと殺意に満ちている。


 マンガのキャラの八重歯なんてもんじゃない、異様にデカくて凶器とすら言える犬歯。

 ギリギリ音を立てそうなほど食いしばられている。


 その表情を見て何度目か、しつこいくらいの確信を得ると同時。

 今は後頭部を向いているけど、すでに見たんだろう花恭さんが


 対照的に、静かに微笑みながら

 クールな声で告げる。



「そういうオマエは、吸血鬼(ヴァンパイア)

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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