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133/136

大誤算

「よく燃えるね」

「大量のガソリンですからね」

「日本兵が見たら泣いて悔しがるぞ」

「コレ、ご近所に通報されちゃうんじゃない?」

「キャンプファイヤーって言ったらごまかせないかな」


 天高い火柱は思った以上に凶悪で。

 正直ドラマでもあんまり見ないよ、このレベル。


 ドラマの演出であんな量のガソリン使わないか。

 タレントさん危ないし。


 で、ソレを眺める私たちが、なんでこんなマヌケな会話してるかというと。


 別に『やっちまった』って呆然としてるワケじゃない。

 ただ、


「コレ、いつまで焼いたらいいワケ?」

「料理のことは小春さんに聞きな」

「えぇ」


 ひたすら待つしかないから。

 いつまで待てばいいかも分からないまま。


「料理は関係ないですけど。花鹿ちゃん」

「はいな」

「伝承だと


『火だるま状態で走り回って国を滅ぼした』


 んだよね?」

「そうなりますね」

「じゃあコイツ、燃え尽きるまで結構掛かるんじゃない?」

「あー」


 返事じゃないだろうけど、


『ボオオォォォォ』


 禍のまだまだ耐えられそうな唸りが聞こえてくる。

 少なくとも、『息も絶え()え』ってほどじゃない。


「じゃあ何時間か待つカンジ?」

「うーん」


 でもそれはそれで、さっき言ってた通報の懸念とかあるしなぁ。


「まぁ、そこまではいいんじゃないかな?」


 悩んでいると、花恭さんが()()()な声を出す。


「アレだけ蒸し焼きにしてるんだよ?

 焼け死ぬより早く、一酸化炭素中毒で力尽きるでしょ」


 どうなんだろう?

 妖怪ってそういうの効くのかな?


 今までも妙に生物っぽいのはいたけどさ。

 ていうか妖獣? 霊獣? だから生物なのかな?

 いや、鉄食べるわ姿くらますわが生物なワケ


 ……鉄分は人間も摂取するよね。

 あれー?


 いやもう分かんない。

 頼みの綱の、言い出した専門家は


「はぁ〜あぁ」


 両手を後頭部にやってアクビしてる。

 本気で言ってるのかテキトーなのか分かんない。


 どのみち、禍の雄叫びが消えるまでは動くタイミングじゃない。

 しばらくは待ちだ。


 なんて、


 ゴチャゴチャ悩んでる私たちに、ありがたくも答えをご教示

 ってことは絶対にないだろうけども、


『ブモモ……』


「ん?」

「どうしました?」

「火の見すぎで変な催眠術に掛かったかな?」

「どうしてそうなるんですか。ただ、



 なんか、動いてません?」



 真っ赤な炎に包まれて

 雄叫びと、火が酸素を吸う音に飲まれて

 見えにくいし聞こえにくいけど、


 気のせいじゃない。


 鉄骨がガタガタ揺れている。


 花恭さんが『軽量鉄骨だ』とは言っていた。

 だからアレだけ火を焚いていたら、上昇気流で多少持ち上がる

 そういうこともあるはず。


 でも、軽量鉄骨なんだ。

 そんな可能性よりもっとあり得るのは、


「ネェ、ちょっとヤバくない?」

「あ、あぁ、あ……」

「言わない言わない、言ったらフラグになります」

「小春さん、ちょっと離れときな」


『ブオオォ……



 ブモオオオアア!!』



「やっぱり出た!」


 嫌な予感ばかり当たるよね!



 禍が鉄骨を跳ね除けて、飛び出してきた。



 文字どおり火事場の馬鹿力!


「ど、どうするんですか!?」

「どうするってナニするのよっ!」

「止めないと!」

「誰が! いつ! どこで! どうして! どのように!」

「英語の授業!?」


 でも実際問題、相手は火だるま。

 炎まで加えたら、シルエットのサイズは倍に膨れ上がっている。


 いくら花恋さんが怪力だからって、斎藤隆介の『三コ』になっちゃう。


 かといって、ここで止めなきゃ


 もし土手を上がって町の方へ行ったら。


 とりあえず4人そろって、そっち方向へ立ち塞がる。

 だけど、いざ突っ込んでこられたら、何もできずに逃げるしかないと思う。


 覚悟も決められず、ただ反射的に構えていると


「あれ」

「どこ行くんだアイツ」


 禍はむしろ、私たちに背を向ける。


「燃えすぎて錯乱状態になったのか?」

「イノシシって賢くないことの代名詞みたいなとこあるもんネ」

「花猪姉さんは頭いいですよ」

「そうじゃなくて」


 正直こっちに来なくてひと安心。

 花鹿ちゃんのフォローも、


『なんだかんだ姉妹仲悪くはないのかも』


 なんでほっこり


 したのも束の間



「違う!」



 花恭さんの喝が響く。


「どうしたんですか!?」

「アイツ、



 川に入って火を消す気だ!」



「なっ」


 マズい。

 それは非常にマズい。


 町に突っ込んで大火災になる心配はないかもしれない。

 でも、


 乾坤一擲の、アイツを倒す手段を失う。


 またガソリンを用意して焼きなおす、っていうのは難しいはず。

 用意するまで時間を稼ぐ必要が出るけど、


 鉄骨の多くをピラミッドにしてしまった。

 前回みたいに積んである陰に隠れてやり過ごす、ってのは厳しい。


 ただ、コソコソしてるだけなら大丈夫かもしれないけど。


 アイツがいつ、町に矛先を替えるか分かるない。


 たとえ火が着いていなくても。

 あの質量と密度で、鉄の硬さを持つ物体だ。

 オマケにイノシシが走る猛スピードで突き進む。


 壊れない止まらない暴走トラックみたいなもの。

 どのみち甚大な被害が出る。



 なんとしてもここで燃やし尽くさないといけない!



 ていうことは、誰もが考えたんだろう。


 そのうえで、誰にもその手立てはないと考えたんだろう。



「全身全霊」



 この子は




「六根清浄!!」




 自分以外を除いて。



「花鹿ちゃん!?」


 気付いたときには、彼女は両腕を前に向かって真っ直ぐ突き出していた。


 そのまま延長線上に、真っ直ぐ包帯が禍を追い掛ける。


 速い。

 暴走するイノシシより圧倒的に速い。



 あっという間に追い付いて、後ろ脚2本を絡め取る。



 ただ、向こうも負けていない。

 前回の拘束は蜘蛛の巣状に、どこにも進めなくしたから止められた。


 でも今回は後ろから引っ張るだけ。

 禍は前に進む、一番力が出る方向への逃げ道を残している。



 こうなると断然、力でも体重差でも、

 花鹿ちゃんが勝てる要素はない。



 実際、


『ブガアアアア!!』


 ヤツは止まらない。

 前足だけで地面を掻いて、川に向かって進んでいく。


 だからこそ、



「はあああああああああっっっ!!」



 花鹿ちゃんの背中から、昼間の太陽のような色をした翼が生える。



 彼女は宙へ舞い上がり、大きく羽ばたいて、その力でもって無理矢理拮抗する。



 するとようやく、


『ブギイイィィ!』


 禍の足が止まる。


 川まであと少しってところで、ルームランナーにみたいにその場でバタつく。


「止まった!」

「コレならイケるんじゃない!?」


 花恭さんと花恋さんが歓声をあげる。


 だけど、



「やめてーっ! 花鹿ちゃん!


 すぐに包帯を外して!」



 喜んでる場合じゃない!




「包帯から引火しちゃうよ!!」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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