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今日だけは逃さない

 動きを封じたから、あとはガソリン掛けて


 なんて単純なものじゃない。



 それじゃ花鹿ちゃんの包帯に引火しちゃう。


 そこで、


「おりゃああ!」

「僕は顔から行く! 花恋さんは後ろから! あとは時計回りで!」

「ヤダ、棒状の物持ってバックからなんてヒ・ワ・イ♡」

「誰かアイツをZI◯PEI兄弟にしろ」



 花恭さんと花恋さんが、鉄骨を担いで襲い掛かる。



 別にタコ殴りにするわけじゃない。

 ただ、


「隙間はどうしたらいい!」

「ガソリンなんて液体だから、それなりに詰めても隙間から入ります! 大丈夫!」

「よし来た! イノシシィ! オメェのピラミッド作ってやろうってのよ!」


 積み木、ジェ◯ガ、将棋崩しの山、うーん。

 コレって例えは思い付かないけど



 上に鉄骨を積みまくって、重さで動きを封じようってわけ。



 なんとなく鉄骨と薪の形が似ているから思い付いた。

 ……いや、似てないね。


 とにかく、こうすればガソリンの前に花鹿ちゃんが包帯を外せる。


「どのくらい載せるぅ!?」

「あるだけ行ってやれ! たぶんこれ軽量鉄骨だ! 数いるぞ!」

「そうしてください! いっぱい積んだ方が蒸し焼きになって火も通りやすいです!」

「いいね小春さん! 今日のメニューは河原でバーベキューかな!」


『ブガアアアア!』


 あのイノシシにこっちの作戦を理解する頭はないと思う。


 でも単純に不快なことを進められている。

 禍は暴れて、鉄骨や周囲を跳ね回る二人を弾き飛ばそうとする。

 だけど、


「ぬぎぎぎぎぎ……! 六根清浄ぉ……!」


 そこは花鹿ちゃんが力いっぱい、耐えてくれてる。


 ただ、


「大丈夫!?」

「電車の中で今にもお漏らししそうな状況の5倍キツいです……!」

「二人ともー! とにかくヤバいみたいです! 急いで!」


「気軽に言う!」

「オンナを急かすオトコは嫌われるわよー!」


「私オンナでーす!」


 でも拘束係、鉄骨係、双方やってもらわなきゃ困る。

 できなきゃ全部ご破算になる。


 手伝えないのは歯痒いし毎度情けないけど。

 せめていつでもガソリンへ行けるように、ポリタンクを抱えてスタンバっておく。



 そのときは、5分も経たないうちにやってきた。



「もう〜限界ですぅ〜……!!」



「小春さーん!!」

「こんなんでどうヨ!!」



 ほぼ同時のこと。

 ついに、宣言どおりピラミッド型に積まれた鉄骨拘束が完成。


「花鹿ちゃん、拘束を!」

「言われなくても!」


 そのわずかな隙間から、素早く包帯が巻き取られていく。

 本当は徐々に、このまま解いても大丈夫か確認しながら進めたかったけど。


 そんな余裕ない。

 みんなギリギリのところでやってる。


「へあっ」


 本当に全身全霊だったんだね。

 花鹿ちゃんが尻餅をつくと、包帯の端が隙間から出てくる。


 つまり、完全に拘束を解いたわけだけど、


「どう!?」



『ゥモォォォォォ』



 鉄骨の山は微かに揺れるだけ。

 隙間から()()()()()音が漏れるだけ。



 禍が飛び出してくる気配はない。



「よしっ!」


 ここからが第三段階!


 今まで見てるだけだった分、ポリタンクを持って走る。


 端っこからガソリンを撒いても、本体にかかったかどうかは分かりにくい。

 うまいこと階段状にしてくれてるから上に登って、


 ど真ん中からぶち撒ける!


「春ちゃん!」


 一つのポリタンクを空にして振り返ると、花恋さんが次を持ってきてくれている。

 さっきまでがんばってたのに、まだ手伝ってくれるの?

 正直助かる。


 ポリタンクを受け取ると、そこに次のポリタンクが飛んでくる。

 いちいち取りに行くのは手間だから、下から花恭さんが投げているみたい。

 それを花恋さんがキャッチする。


「ナイスコンビネーション!」


 花鹿ちゃんはノックアウトで座り込んでいる。

 あの子に報いるためにも、絶対成功させなきゃならない。


 と、


「変なこと言うけどさ」


 花恋さんが話し掛けてくる。


「なんでしょう」


 ガソリンは撒くとすぐに気化してしまう。

 空気より重いから上がってこないけど、無駄な会話はしないに越したことはない。


 でも無視するのもなんだし。

 なるべく短く答えよう。


 と思ったんだけど、



「なんか、必死? だね。いつもより」



「そうですかね」

「そうよ」

「私はいつも真面目に取り組んでますよ」

「でも情熱には真っ赤な炎と青い炎があるじゃない」

「よく分からない例えだなぁ」


『はい』『いいえ』で答えられない話題が来てしまう。


「ただ」


 ならもう言ってしまおう。

 その方が改めて、自分自身への決意表明になる。


 一度だけチラリと、花鹿ちゃんへ視線を向ける。



「私はあの子にいろんなことを言ったけど。

 やっぱり妖怪退治自体は、本人が選んだ生き方です。


『人の役に立つ』


 その生き方が好きで、あの子にできる最大限がソレなんだと思うんです。


 それを今日再認識して、花鹿ちゃんは思い新たにここにいる。

 だから、


 今日だけは絶対に、うまくいかせてあげたいんです」



 言い終わって空のポリタンクを投げ捨てると、花恋さんは



「ま♡ 『うまくイかせてあげたい』なんて♡」

「人が真面目な話してんのにさぁ!」



 なんなのこの人。

 花鹿ちゃん探しに行くまえの、デキるオトナのオンナはどこ行ったの? 死んだの?


 まぁ、我ながらカッコ付けすぎたとは思うから、茶化してくれて助かるけど。


 なんともいえない複雑な気分を切り裂くように、



「これでラストっ!」



 花恭さんの声とともに、最後のポリタンクが飛んでくる。


 もういい、全部燃やしてしまえ。

 面倒な空気も辛いことも、丸っと燃やしてガハハと笑って終わり。


 最後の1滴まで注ぎ切ったら、あとはゆっくりピラミッドを降りる。

 ちょっとした火花で発火、一瞬で全身火だるまだもの。

 少しの摩擦も警戒したい。


 なんとか無事下山すると。

 花恭さんと花鹿ちゃんが離れた位置で手を振っている。

 私たちもそこへ合流する。


 するとさっそく、花恭さんはマッチを取り出した。


「じゃあ行くよ」

「はい」

「離れて離れて」


 彼の足元には一筋の濡れた石のライン。

 あらかじめ導火線代わりに引いておいた、ガソリンの道。


 花恭さんはマッチに火を着けると、


「着火!」


 軽く投げ捨てると同時、走って離れる。


 多少狙いが外れても、周囲には気化したガソリンが滞留している。

 そこに引火して、


 炎の線はビームみたいに一直線。

 あっという間に鉄骨のピラミッドへ到達して、



『ブオォォオオオォォ!!』



 大きなキャンプファイヤーを形成する。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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