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夜の河川敷は花火がしたくなる

 図書館を出たらば説教の嵐。

 帰りの車内でも説教の嵐。


 そんな広い車じゃないから、勘弁してほしくて私が止めた。

 本人も悪気があったわけじゃないし。


 そんなこんなでお店に戻ってお昼ごはん。

 作るのも面倒なので宅配ピザを注文することに。


 一つは定番マルゲリータにするとして、

 花恭さんと花恋さんで、ビスマルクかもち明太マヨかの争いが勃発。

 結局3つ頼んだ。

 なぜハーフアンドハーフにしないのだろう。



 意外と早く帰って来れたし、結局妖怪退治は夜中。


 ってことで、臨時休業は撤回。

 普通に仕込みをして営業もやった。


 花鹿ちゃんには悪いけど、今日のバイトは休んでもらった。

 偶然にも先生が来たりしたら気マズいからね。


 あと今日は朝が早かったし。

 バトル担当の皆さまにはお昼寝をしておいてもらおう。











 ってことで深夜3時。

 私たちは荒川区へ来ている。

 今は隅田川沿いを車で走っているところ。


「この先が」

「そう。鉄泥棒出没の第二候補地」


 後部座席の花恭さんが腕組みして答える。

 ちなみに花鹿ちゃんを見つけた中央区の工事現場は空振った。



 視界の右はなんてことない、下町の住宅街。

 左側には河川敷と隅田川。


 進めども変わった気がしない光景をしばらく走っていると、


「あ」


 ようやく変化が。


 河川敷に降りる道と、そこを塞ぐゲート。

 鎖と南京錠で閉鎖されている数センチ上に張り紙されているのは



『関係者以外立ち入り禁止』



「ここですか?」

「うん」


 いったん車を停めて、ヘッドライトで照らされる先を確認する。

 といっても目的地は左、日本の車は右ハンドル。

 私から見えなくはないけど、見やすくもない。


 助手席を譲らなかった花恋さんが、窓から身を乗り出す。


「あー、河川敷広くなっててぇ。なんかあるわねぇ。

 でも工事現場じゃない感じぃ?」

「って言ってますけど?」

「問題ない。行くよ」


 花恭さんは気にせず車から降りてしまう。花鹿ちゃんも。

 私も慌ててエンジンを切って続く。


 追い付いたころには、2人とももうゲートの前へ。

 花恋さんももう隣に並ぼうとしている。


「あの、ここに入るんですか? 立ち入り禁止ですよ?」

「その看板を見てごらん」

「はい?」


『立ち入り禁止』の印刷されたボードの右下。

 そこには


『コガサ鉄工所』


 の文字。


「ここはそこの会社の集積所さ。作った商品で、鉄骨とか場所とって倉庫に置けないのを置いてる」

「なるほど」


 何も鉄を盗むのは工事現場ばかりじゃないってことね。

 ていうかコッチの方が確実にあるもんね。妥当だわ。


 それはよく分かる。


「で、入るんです?」

「入らないと仕事にならない」

「捕まりますよ」

「その警察が鉄泥棒捕まえられるんだったら、僕も構わないよ?」

「へーへー」


 まぁそれはいいとして(よくない)、


 おじいちゃんの車はどうするんだろう。

 ここは普通に路上だし、近くにパーキングもないんだけど。


 なんて思って振り返ったら、


「あ!? 駐禁!? 車泥棒!?」


 すでに2人ほど怪しい影が愛車のすぐ隣に!


 戻ろうとする私の肩を、花恋さんがつかむ。


「ギャッ!」

「大丈夫。一族の人だよん。死体処理スタンバっとくの同時に、車の面倒も見といてくれるって。あ、それならキー渡したといた方がいいかもネ」

「ああぁ……」

「聞いてる?」

「脱臼するかと思った……」

「貧弱なんだから」

「凶悪なんですよ」

「なんだと?」

「あんまり言い過ぎると素手でミンチにされるよ」

「沖縄に『ゴリラ女房』って民話がありましたね」

「あー、無理矢理ゴリラの旦那にさせられるヤツね」

「おうオマエら全員こっち来い」


 サラッと言いたい放題して先に行こうとする二人だけど。

 私からすれば花鹿ちゃんの身体能力とかでもじゅうぶん


 いや、言わないでおこう。

 言わないでおくから私だけ花恋さんに捕まってる状況を助けてください。

 でも二人はそのまま土手の坂をくだっていってしまう。


 車がないと、大きな鉄骨なんて盗み出せないからだろうね。

 なだらかなスロープになっている通路を塞ぐ門以外、柵とかは設置されていない。


 下町のおおらかさっていうの?

 昭和には小学生の遊び場だったんだろうね。

 あとはヤンキーの決闘場。


 この会社が昭和からあるのかは知らないけど。






 集積所は特別区切りとか建物もなくて、河川敷に急に鉄骨が置いてある。

 一応下に()()()を敷いて、布を被せてあるけど。


 それが左右に3列ずつ並んでいる、真ん中の広い道を行く。


 それにしても真っ暗だ。

 街灯みたいな照明の(たぐ)いは一切ない。


 そりゃ必要ないよね。

 深夜に鉄骨取りに来ることもないし。


 おじいちゃんの車は駐禁とられないために、花の一族の人がドライブに乗ってっちゃった。

 だからヘッドライトで照らすこともできない。


 あ、ガソリン代はあとで返してね。


 まえに花鹿ちゃんが言ってたみたいに、妖怪狩りは夜目が聞くとか。

 だからか3人はズンズン進んでいくけど。


 私は正直足元もロクに見えない。

 ゴチャゴチャしてない集積所で本当によかった。


「あの、スマホのライト点けていいですか?」

「うーん、ダメ」

「なんで!?」

「妖怪が反応して、突っ込んでくるかもしんないじゃーん?」

「私、何につまづいて頭打つか分かんないよ!?」

「妖怪に突撃されたら、頭どころか『全身を強く打って死亡』ですよ? ご遠慮ください」

「うぐぅ」


 でもさ。

 河川敷でジャリジャリ足音鳴ってるんだよね。

 意味なくない?


 なんて思いつつも黙って着いていくと、



 ガランゴワン!



 と。

 不意に甲高いような、でも鈍いとも言えるような音が響き渡る。


 夜中にこんな音を立てるヤツなんて

 と思うまでもない。


 これは、



 鉄骨を取り落とした音だ。



 ドラマの効果音でしか聞いたことはないけど、

 それとは微妙に違ったけど、

 間違いない。


 ってことは。


 こんな夜中に、クレーン車もナシに



 こんなことができる人間、いると思う?



 プロ3人が駆け出すのを音で感じる。

 慌ててあとを追うと、



 10メートルくらい走ったかな。

 その先に、



 ゴリ

 メキ

 バキ



 なんて音と、



 四足歩行の、巨大な影がいる。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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