姉妹とは思えぬ
また!?
もういいじゃん!
私本家に正式に認められてるんだよ!?
でも気持ちは分かる。
未成年の妹が最近現れた知らない大学生と同棲なんて。
しかもキケンいっぱいのカオス東京。
遠い親戚とはいえ男もいる。
私が家族だったら止める。キレ散らかす。
通りすがりの20代女性・学生 の立場でも止める。
なんなら一切の問題が起きなかったとしても、
『思春期の女の子がこの環境で生活する』
それ自体健全じゃない。
使命だかなんだか、生涯妖怪狩りとして生きるかは知らないけど。
それでも絶対将来によくない。
それは分かってはいるけど。
実際に連れ戻されそうになると焦ってしまう。
私もダメな大人だなぁ
なんてちょっとショック受けていると、
「あの、落ち着いてください。お顔が真っ白ですよ!」
花猪さんは咎めるどころか若干引いてる?
「そんな大層な話ではなくて。花鹿がご迷惑を掛けていないか、と」
「え」
にっこりと、それでいて上品さを保った笑顔。
もしや、取り越し苦労?
「ああいや! むしろお世話になりっぱなしで! 本当にいろいろ、助かってます!
ね、花恭さん!」
そう下に来られると、別方向で困ってしまう。
逆にフォローする側になったから、ただ援護射撃を求めて話を振ると、
「なぜそこで僕に言う?
なんかの当て付けかな? おおん?」
「誤解です!」
誤解だけど、自覚あるなら少しは手伝ってよ。
「このお茄子が、肉厚なのにお出汁をよく吸って。丁寧なお仕事をなさったのですね」
「いやぁ、秋茄子は皮が薄いですから」
あれから開店時間まで、仕込みをしながら話をしてみたけど。
花猪さん、
この人、いい人だ!
いや、本当のところで言えば、今日1日で性格なんて見抜けはしない。
でも確実に、
言葉遣いや、万事小さくて物静かな所作
品がいい。
「へぇー、京都から来たの!」
「オレが東京案内しようか?」
「うふふ、ごめんなさい。もうスケジュールは組んでいますの」
「あー、残念!」
酔っ払いおじさんたちの絡みも、上手に乗りこなしている。
それに比べて、
「コレおいしーね! なんだっけ、モツ?」
「ハツ」
「じゃんじゃん焼いてヨ!」
串でジャングルジム組めそうな量の焼き鳥を、レモンサワーで流す花恋さん。
本当に血族、いや、同じ生物なの?
別に楽しくたくさん食べることは悪いことじゃない。
居酒屋だから、お客さんに王侯貴族みたいな食事風景は求めてない。
でも違いがすごいわ。
花恭さんを思えば、花猪さんの方がハズレ値なんだろうけどさ。
いや、花鹿ちゃんを思えば、花橋とそれ以外の教育の違いなのかな?
って思ったけど、あの子下ネタっていうか、エロネタ大好きだもんなぁ。
きっと妖怪狩りという生業が、人を歪めてしまうのでしょう。
で、歪み1号花恭さんはというと。
花恋さんに圧倒されてか、角のテーブル席へ。
カウンターの指定席を離れてる。
別に仲悪いわけじゃないんだろうけど。
だとしても私からすれば、同族嫌悪にしか見えない。
あるいは花恋さんこそが、傍若無人花瀬花恭を浄化する光なのかも。
毒をもって毒を制す感否めないけど。
そんな三者三様のなかで、唯一花猪さんが浮ついている要素といえば
「……」
そわそわと、ちらちらと。
短いスパンで繰り返し玄関を見ている。
酔っ払いに絡まれて早く帰りたい、って感じじゃない。
むしろ表情自体は楽しそう。
やっぱり、
花鹿ちゃんの帰りを待っているんだと思う。
世間一般の姉妹仲。
私は一人っ子だったから、いいのと悪いの、どっちが多いかは知らない。
周りの友人の話を聞いても、どうともいえない。
でも普段会えてないんだもんね。
お盆も花鹿ちゃんはほぼ嵐山だったし。
なので私も時計を見てから、出汁巻きを渡しがてら囁く。
「もうすぐ帰ってきますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
努めてはしゃがないようにはしているようだけど、
大根おろしにしょうゆを掛けすぎている。
意外に分かりやすい。
と、噂をすれば。
磨りガラスの向こうに人の影。
ガラッと引き戸が開いて、
「こんばんはー!」
「はいこんばんは」
居酒屋に似つかわしくない黒セーラー。
花鹿ちゃんが帰ってきた。
一応バイトという設定であること。
変に花恭さんとの関連性を探られないよう、本名も隠していること。
事前に伝えていたので、花猪さんが名前を呼び掛けることはなかったけど。
その分笑顔で目を合わせる。
その瞬間、
「あ」
花鹿ちゃんから、一切の表情が消えた。
店内に入ろうとした足がギクリと止まる。
「え」
思わず私が抜けた声を出すほど。
失礼とは思いつつ、花猪さんの方を振り返ると
彼女も戸惑った表情をしている。
どうかしたの?
状況を理解できるより先に、
「店長」
「あぁはい!」
花鹿ちゃんは表情同様、色のない声で事務的に告げる。
「今日は急な予定ができてしまいまして。
ごめんなさい。もう行かなければいけないので、バイトはお休みさせてください」
「え、あ、そ、そう?」
なんて、覚束ない返事が最後まで聞こえたかどうか。
「では、失礼します」
そのまま花鹿ちゃんは1歩退がると
引き戸を閉めて、どこかへ立ち去ってしまった。
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