こっすいルパン
都会とは常にスクラップ アンド ビルドしているもの
というのは田舎者の勝手なイメージだろうか。
でも現に、今だけは。
東京都は千代田区にある工事現場。
都会の街中も街中、ビルの隙間ではなく、大通りに面した十字路の角。
区画も広い好立地。
ここは現在、潰れたパチンコ屋を物理的にも潰し、新たな建築を始めているところ。
すでに地面はならして補強し、本格的に上物へ取り掛かっている最中である。
何やら新進気鋭のディスカウントスーパーになるのだとか。
パチンコ愛好者には悪いが、その方が喜ぶ人は多いだろう。
区民の期待を背負って、オープンの日を今か今かと待たれている状態だ。
ということもあって。
現場もお住まいの皆さまに喜びを届けるべく、日々筋肉を唸らせていたのだが
「『休みがないとキツい』と言いつつ。休み明けが一番キツい。あると思います」
「休みまえ死にそうな顔してたじゃねぇか」
よく晴れた朝、現場へやってきた二人の男。
建設会社の名前である『有限会社 マンリキ』
『関係者以外立ち入り禁止』
『騒音アイムソーリー』的な文言。
それらを書かれたガードが途切れた、便宜上の門を通る。
周りにもたくさん屈強な男たちが集まっており、全員が作業着にヘルメット。
「精神と体力は別モンだよなぁ」
「安心しろ、どうせまた次の台風来るらしい」
この季節には付きもの。
昨日まで台風で作業は停止していたのだ。
ということが小まめに続くと、気持ちが下がる。
体力仕事はキツいものの、ノってしまえば勢いは出る。
また、三次元的に成果物が積み上がっていくのもモチベーションとなる。
だが、現状それらが小刻みにされているワケで。
気持ちはプツプツ切られるわ、作業自体も進んでないわ。
手抜きこそしないが、気分自体はダレはじめているこのごろ。
いつ終わるか見通しの立たない現状は、さらにダラけを加速させる。
そんなわけで、朝礼を終えた彼らが現場へ、普段の0.8倍速で歩いていくと
「あっれぇぇ〜〜〜〜?」
先に行った連中の、素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「なんだ今の」
「田中だろ? アイツはいつもテンションおかしい。気にすんな」
辛辣なのではなく、土建現場マンの落ち着きということにしておこう。
逆に落ち着きのなさそうな声はいったんスルーしたが、
「オッオオオオーッ!!」
「今度はなんだ!?」
「野島さんか!?」
今度は彼ら以上の頼り甲斐を誇る大ベテラン。
ちなみに野島伸司脚本のドラマは辛すぎて最後まで見たことがないらしい。
それはさておき、さすがに尋常ではなさそうな展開。
二人も小走りで声の方へ向かう。
しかし、着いたころにはもう人だかり。
肝心の部分が見えない。
なので彼らは、周囲のメンツに聞いてみることに。
「おい、いったい何があったんだ?」
「あぁ、なんでも資材がなくなってるらしいぞ」
「あーあーあー」
よくある話だ。
あまり言いたくはないが、移民が増えてからこういうことは多い。
工事現場なんて夜中は侵入し放題。
諸々盗んで売れば、真面目に技能実習生をしているより断然儲かる。
あるいはそうでなくとも、時間や労力に対する利益率が高い。
得てして犯罪とは、倫理観とリスクを排除すれば欲望への効率がいいものである。
だからなくならない。
「ま、そういうことあるわな」
「このまえのクレーン盗もうとしたバカよりマシに思えてきたわ」
「マヒしてんなぁ」
「最近治安悪いよね」
完全に『よくあること』のテンションで処理してしまう二人だが。
でも一応直接見てはみたい。
「で、何が盗まれたんだろうな?」
「ボルト箱ごととか?」
「それは放置して帰ったヤツが悪ぃ」
などとのんきに人混みを分けて、先頭へ出ると
「「オッオオオオーッ!!」」
彼らは、自分たちが声を上げたことにすら気付けなかった。
なぜなら、
とても生身では持ち出せない、数メートルはある鉄骨の山。
それが根こそぎ、更地になっていたからである。
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