少し驚かせてしまうかもしれません
気が付くと私は、三十重塔の上の方の階にいた。
赤い木造に緑の屋根瓦。
中華風の楼閣だね。
私はベランダに立っていて、街並みを見下ろしている。
映画の『ラストエンペラー』とかで見たことがあるような光景。
『────ませんか?』
背後から声を掛けられる。
花鹿ちゃんだ。
どうやら彼女は下に降りないかと私を誘っているらしい。
いいね
と思ったら彼女は私の手を取り、階段を降りる。
ひとつ下の階は、何もかもがさっきいた階と同じだった。
ただ、仁美ちゃんが立っていた。
高校のときの友人で、軟式テニス部だった。
同じ友人グループでよく話したし気も合うコだった。
でもサシで遊びに行ったことはなかったな。
必ずミミか石ちゃんがいた。
『お金返して』
と仁美ちゃんは言うけど、誓って借りたことはない。
『黙れよ』
と返して私はベランダに出る。
街を見下ろすと、この塔から街を囲む城壁の門まで真っ直ぐ進む大通り。
そこを進む荷馬車が見えた。
たくさんの桃を積んでいる。
今にもこぼれ落ちそう。
『桃ですね』
花鹿ちゃんが隣に来てつぶやく。
仁美ちゃんは消えていた。
なんだか行ける気がしたので、私はベランダから飛び降りる。
翼も何もないけど、なんか空中を歩ける。
私たちは荷台のトマトの山に着地した。
ひとつ手に取って齧る。
ほのかに甘い気がする。
花鹿ちゃんは一気にムシャムシャ食べてしまって、口周りが真っ赤。
私はトマトが嫌いだと真顔で宣う。
馬車が城門を抜けると、そこは草原だった。
遠くに森が見えるくらいで、ひたすら広い平原。
振り返ってもジブリ映画で見るような洋風の小屋があるだけだ。
小屋を見つけると目の前に川が流れていたので、釣りをする。
一瞬のうちに、よく分からない魚がたくさん釣れた。
見た目は大きめのアジに似た何かだけどオイカワだ。
隣で釣っている花恭さんは、1匹も掛からなかったみたい。
1匹譲ってあげると串焼きになっていたので、彼は
『ありがとう』
と笑って食べる。
釣りはやめにして、私たちは小屋へ向かうことにする。
漆喰っぽい黄色い壁にオレンジの屋根。
三方に窓がひとつずつ。
木製のドアがある面だけ左右に小さいのが計2つ。
ドアを開けて中に入ると、暖炉、キッチン、テーブルと椅子、あとは諸々の家具。
RPGでよくある、冷静に考えると生活できないワンルーム。
キッチンの流しに水を張って、そこにオイカワを放す。アユな気もしてきた。
いったん椅子に腰を下ろして一休みすると、
『え?』
急に天井が下がってきた。
ズズズ、とゆっくり迫るペースで。
待って、このままじゃ私、潰されちゃうんじゃない?
焦って立ち上がると、いつの間にか窓もドアもない。
まさか、脱出するには壁を破壊するしかない?
でも、どこにも使えそうなものはない。
花恭さんもいつの間にか姿を消しちゃってる。
花鹿ちゃんは花恭さんだったので当然いない。
そうこうしているうちに、天井は直立できない高さまで下りてきている。
思わず尻餅を突いてしまうと、ますます脱出が困難になる。
『あ、あ、あ、
うわあぁ〜〜〜〜〜っ!!』
自分でも情けないくらい、ただただ叫び声をあげていると
頭上から、バキッと何かが割れる音がした。
天井、天井だ。
天井にヒビが入っている。
それに気付いたのも束の間、
天井は完膚なきまでに粉砕されて
『間に合ったー? よかったよかったー』
開いた穴から花恋さんが下りてくる。
彼女は目と鼻の先まで顔を近付けてくると、
「無事かい、小春さん」
花恭さんだった。
もうワケが分かんない。
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