なんの家族ドラマだよ
昔は始業式の日は半ドンだったりしたらしいけど。
最近は大体初日から授業がある。
しかもなんと、今日は7時間目がある日なんだとか。
「ただい……じゃない、バイト来ましたー」
花鹿ちゃんが帰ってきたときには17時を回っていて、私は営業の真っ最中だった。
でもよその子は部活とかあってもっと遅いんでしょ?
勉強は大事だし、進学校にいたこともない私が何を言える立場じゃないけど、
なんか、今の子って余裕ないよね。
『Z世代は忍耐がない体力がない』
っていうけど。
実際はすでに満身創痍で、蚊に刺されたら死ぬ状態で社会に出てくるだけなんじゃ?
なんて、当のZ世代たる私が言ったら、上世代に罵倒されるのかな。
「学校終わってすぐかい? 大変だねぇ」
「花学の制服じゃん! お嬢さまだったの?」
「お嬢さまでバイト? そもそもあそこ、バイト禁止じゃなかったっけ?」
「貧乏特待生なんですよ」
常連さんからのラッシュを適当に流しつつ、花鹿ちゃんはバックヤードに消える。
口が裂けても『ここに住んでる』とは言えないもんなぁ。
ってことでお客さんに見られた手前、少しは手伝ってもらったけど。
疲れてるだろうし授業の予習復習もあるだろうし、早めに上がってもらった。
もちろん、
「そりゃこんなの、大学くらい遊ばないと死んでしまうよなぁ」
花恭さんはひたすら飲んでた。
手伝え。
翌日の昼。
『台風14号は続々と勢力を増し、過去10年でも最大級の超大型台風となる見込みです』
「これ、毎年言ってますよね」
「10発20発量産されても、最大値に近かったら全部最大『級』だしな」
『台風14号は現在、駿河湾沖をゆっくりと東北東へ移動しており』
花恭さんと花鹿ちゃんが、カウンターで駄弁っている。
なんで花鹿ちゃんがいるかって。
すぐ週末だとか、昨日の分今日が半ドンになったとかじゃない。
テレビを見れば分かるとおり、
大きな台風が来てるから。
一旦は登校したけど、2限目終わりで帰ってきた。
「セーラー服、シワになるよ」
なぜか着替えてないけど。
「何をおっしゃるんですか。セーラー服にエプロン、花の女子高生。常連さんはコレ目当てで『はる』に来ているというのに」
「神保町の居酒屋に秋葉原みたいなセールスポイント加えないで」
花の(一族の)女子高生はやる気満々だけど、
「ソレにどうせ、この天気じゃお客さん来ないし」
「あら残念」
「小春さんの借金返済に黄色信号」
「お盆の稼ぎ分奪ったのは誰よ」
出番はないと思う。
というか、そもそも出番についてだよ。
「ねぇ花鹿ちゃん」
「なんでしょう」
「もうお店手伝わなくていいよ?」
花鹿ちゃんはキョトンとした顔。
「クビですか?」
「違う違う。これから学校とかで忙しくなるでしょ?」
「はぁ」
なんか響いてないなぁ。
体力お化けだからよく分かってないのかな?
「なんか『住まわせてもらってるから』って今までやってくれてたけど。
逆に私からすれば『住んでもらってる』面もあるし」
「僕を見習うんだ」
「そっちはちょっと遠慮して」
もちろん助かってる面もある。
でも、大人のプライド
っていうより、やっぱり一人の人間として気になってしまう。
対する花鹿ちゃんは
「んー」
と頬に指を当てて考えると、
「でも、
すぐに学校行かなくなると思うので」
「えぇ?」
またそんなことを言う。
「なんでよ。行った方がいいって」
「でも必要ないですし」
「どうして」
「私は妖怪狩りですから」
うーん、価値観が合わない。
『学校は社会へ出るまえに、ある程度共通の知識や常識、価値観を獲得しておく場』
という意味でも、ドンピシャに学校行くべき存在なのに。
「『将来就職に困らないから学歴はいらない』って考えは違うよ? そんな生き方してると花恭さんみたいになるよ?」
「僕は高校出てるよ」
「じゃあ行かない方がいいのでは?」
「おいこら」
「まぁ冗談はさておきですね」
花鹿ちゃんは居住いをただす。
確かに花恭さんイジリは冗談ではあったけどさ。
こっちは概ね真面目なのを、どう捉えての発言なのか。
「私はぬらりひょんの動きに対策すべく東京へ来たわけで」
「それはそうだけど」
「こうして小春さんの家にお邪魔しているのも、各個撃破対策です」
「あー」
「朝昼に襲ってくることは少ない、とは思いますけどね?」
そう言われると、自衛を考えたら学校行ってる場合じゃないのか。
『行かなくていい』以外にも、いろんな縛りがあるわけだ。
まだ成人もしてないのに。
そこにあくまで、一族ではない、部外者の私が口出ししていいの?
いやでも、間違ったことを言っているわけじゃないはずで……
詰まってしまった私の代わりに
「まぁ学校通う通わないはね、僕もいろいろあるなかでやりくりしたけどさ」
花恭さんが、ズイッとカウンターに身を乗り出す。
「バイトはまぁ控えなよ。そもそも小春さんは僕に借金してる。返済のためにアレコレ世話を焼いてるんだ。
そこにぺこちゃんのバイト代乗せたら、完済が遠のいてしまうなぁ」
「私はバイト代なんて」
「ぺこちゃんがそうでも、僕はケチだよ?」
「もう」
私は花鹿ちゃんの活動を
花鹿ちゃんは店の手伝いを
それぞれ譲って、ここは収めろ
そういう第三者からの仲裁。
私と花鹿ちゃんの目が合う。
確かにお互い、ここからは不毛な平行線だと感じていたところ。
彼女はふうっと息をつく。
「分かりました。でも私、そもそもお店楽しかったので。
時間があるときだけにしますね」
「分かった。家事もね」
「時間がないときはね」
ということで決着した。
その晩は台風が本格的に東京へ襲来。
嵐となったけど。
我が家はひと足先に嵐を越えていたから、多少心は穏やかだった。
「ぎゃあああああ!!」
「木造建築の2階怖すぎる!!」
そうでもなかった。
ぬらりひょんに破壊されたとき建て直したけど。
土台になる1階との兼ね合いで、昭和木造のまんまなんだよね。
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