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凍らせたり焼いたり

 凍結療法。


 簡単にいうと、イボとかを液体窒素で壊死させてしまう方法。


 そこだけ聞くとヤバそうだけど、


 要は患部を無理矢理カサブタにしてしまうワケで。


 役目が終わったカサブタは、ポロッと勝手に剥がれたりするでしょ?


 数回治療しているうちに、イボもそうなるって寸法。

 切除するよりよっぽど簡単で、負担も少ないんだって。


 と、実際にやった従姉妹が言ってた。



 テレビや物理の授業で見たことある人もいるかも。


 液体窒素で凍結させたバラが、ちょっとした衝撃で粉々に砕け散るヤツ。



 つまり、






「くらえぇ!!」



 液体窒素は、細胞が破壊されるレベルの凍結が可能ってこと。


 それもものの、1秒2秒。

 ここまでやってしまえば、



「花恭さん!」

「よし!」



 たとえ、元がどれだけブヨブヨでも、柔らかくても、



「期待に応えよう!」



 凍って硬い、しかも非常に脆い塊に変わり果てる。

 そこに、


「たあっ!」



 花恭さんが何度目かの正直、上段から刀を振り下ろす。



 薄暗い照明を反射して、鈍い銀色に光る刀身は

 濁った生っ(ちろ)い肉に食い込んで、


 肉自体か、表面に凍結した霜か

 ジャリッと軽い音を立てる。



 それと同時、


 今度こそぬっぺふほふはグニャリと()()()こともなく、

 真正面から刃を受けて、



 正直妖怪の防御構造とかよく知らない。

 表面だけじゃなくて、内側も同じように脂肪の鎧のはずだと思う。


 でも、術か何かが毒みたいに作用するのかな?


 軽く刀身が

 その肉体に

 確実に切り込むと、



「でぇやああぁぁぁぁ!!」



 細長く伸び切っていたとはいえ、


 花恭さんの一喝と、



「きっ、きっ」



「「斬った〜っ!!」」



 私と花鹿ちゃんの歓声のなか、



 真っ二つに断たれた。



「ふん。どんなもんだい」


 花恭さんは懐紙を取り出して刀身を拭う。

 脂スゴいだろうしね。

 人を斬った刀は、血と脂のケアをしないとすぐダメになるって聞いたことがある。


 ま、今そこはどうでもいい。


 それより、注目のぬっぺふほふは、



「うひゃああああ」



 ピンと伸びて張り巡らされていた姿はもう見る影もない。

 力を失って、溶けるか溶けないか、ダランと垂れていく。


 なんかトルコアイスみたい。

 頭上から迫る()()()()()案件に、花鹿ちゃんが右往左往で逃げている。



 逆に、ぬっぺふほふが広がったフィールドの端にいた花恭さん。

 数歩退がるだけで容易に脅威範囲から脱出する。


 私もならって隣まで行くと、


 彼は笑って親指を立てた。



「小春さん、大手柄!」



 ここは私も


『プロのお褒めにあずかり光栄です。大変恐縮です』


 とか言うより、



「はい!」



 親指立てて応えておこう。


 数秒ニヤニヤ見合っていた私たちだけど、


「ま、ソレはソレとして」


 花恭さんは急に真顔に戻る。


「小春さん、僕らの基準では英雄だけど、人間社会ではなぁ」

「あ、自分らが怪物寄りな自覚はあったんですね」

「黙りおれ」


 彼が後ろを振り返るので、私も釣られて視線を向けると、



 そこには、

 破壊してしまった倉庫の扉。



「さて、妖怪退治も終わったことだし」

「うん、



 さっさとズラかるか」



 コレで逮捕されて終わったら全部台無しだもんね。

 肉? 脂? をタッパーに回収して、素早く階段へ駆け込む。


 背後をチラッと確認すると、

 脂の海で私たちと分断された花鹿ちゃんが



「待ってくださいよぉ〜っ! 薄情者〜っ!」



 光の翼で飛んでくるのが見えた。


 踏みたくないよね、あの脂。











 それから私は、何食わぬ顔で病室に戻った。


 しばらくベッドでゴロゴロしてたけど、特に騒ぎになった様子もない。

 いや、看護師さんが患者には平静を装ってるだけかもしれないけど。


 とにかく、


『コレはどういうこと?』


 とか尋問されることはなかったから、一件落着ね。


 花の一族処理班が『すぐ来る』って言ってたから、間に合ったんでしょう。



 というわけで、今日のお勤めは終了。

 まだ夕方になるまえでお気楽です。


 いや、そもそも骨折で妖怪退治参加してる方がおかしいんだけどさ。

 走ったせいで明らかに痛み悪化してるし。



 でも大丈夫!

 この痛みとも今日でオサラバ!



 何せ、比喩でもなんでもない、正真正銘


 伝説の秘薬を手に入れたんだから!



 あとはソレの到着を待つのみ。


 曲がりなりにも入院中なんで、私は病院を出られない。

 かといって病院のキッチンを借りれるワケもない。


 ってことで、ぬっぺふほふのお肉は花花コンビがお店に持って帰った。


 今回は二人が調理して私に食べさせてくれるっていう、いつもと逆パターンだ。



 男性の手料理食べるって、いつ以来? 初めて?

 当然父親やおじいちゃんはカウントしない。


 ちょっとだけドキドキする。

 大丈夫かな、大味すぎないかな、って不安もあるけど、


 男子が女子に作ってもらうときは、この何倍もドキドキするのかな。


 これってジェンダー問題?


 なんて天井を眺めてたら、ピロンとスマホが鳴った。

 メッセージ、差出人は『花恭さん』。

 トークルームを開くと、


『料理しました』


 とのこと。


 以下、その後のやり取り。






『ありがとうございます』


『なんといっても、生肉はよくありませんから』


『そうですね

 特に妖怪なんて』


『だから料理しました』

『まずは火を通すことにしました』


『なんでさっきから丁寧語なんですか?』


『とりあえずフライパンで焼いてみることにしました』

『料理とか知らないし』


『それでいいと思います

 薬だから味とか求めないし』


『中心は生、なんてことがあってはなりませんから、じっくり火を通すことにしました』

『蓋をして蒸し焼きにて10分』


『あっ』


『できあがったものがこちらです』



(完全に脂が溶けきって、液体の油で満たされたフライパンの写真)



『大失敗しました』


『Oh……』


『……』


『……』



『飲む?』


『保留で』











           そんなうまい話があるものか 完

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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