カチカチ山って語感だけだと氷山みたいね
もちろん動きが素早い妖怪じゃない。
角を曲がればすぐに追い付ける。
「とりあえず地上に出したらダメだ。普通にパニックが起きる」
「幸い反撃もしてこない鈍重な妖怪です。追い越してエレベーターと階段を通せんぼしましょう」
あの見た目でエレベーター乗ってるのおもしろすぎるでしょ。
『千と◯尋』かよ。
とか思ってしまうけど
「アイツって、ここに棲み着いてるんですかね?」
「どういうことだい?」
「ソレはないんじゃないですか? 今まで騒ぎになってませんし、基本見つかってないはず」
「いや、だったらさ。普通にコイツが出てきた場合は、やっぱり騒ぎになるってことでしょ?」
「そういう話をしてるんだよ。横失礼!」
言ってる間に私たちはぬっぺふほふの横をすり抜ける。
結構幅も狭かったし、今まで反撃がなかったとはいえドキドキしたけど、
「僕はエレベーターを抑える! ぺこちゃんは階段!」
「あの体格で突っ込んできたら、止めれる自信ないな……」
「包帯で通路の方をキープアウトしたらいい」
第一段階は難なくクリア。
各員配置に着く。
私はなんとなく、両方をスルーして真っ直ぐ進んだ先。
たぶん倉庫が先にある。
「で、なんだい」
ヤツに近い順で花恭さん、花鹿ちゃん、私。
花恭さんは振り返らずに問う。
「いや、だったら、
前回私が見たとき、あのあとアイツはどうやっていなくなったんだろう
って」
「あー」
「たしかに」
花鹿ちゃんがハラハラ包帯を床に下ろしながら言葉を引き継ぐ。
なんか裁縫下手がとにかく糸巻きから出しまくってるみたい。
「アレだけ不定形なワケですし。案外見つからないようどこかに潜伏できるのかもですね」
なんて、今はあまり関係ないかもしれないことに思考を巡らせていた
そのとき
「ん?」
「どうしたんだ、アイツ」
今まで鈍足ながらも、決して歩みは止めなかったぬっぺふほふが
急にピタッと立ち止まる。
それからゆっくりと、体の向きを変えはじめた。
抵抗はしてこないけど、そのぶん逃げを打つ動きは細かいのかな?
と思ったけど、
その動きはUターンじゃなくて左90度。
壁を向いて止まる。
思わず私たちも目でそっちを追い掛けて、
「「「まさか!?」」」
と叫んだと同時。
ヤツはまたグネグネと、細長く体の形を変えて
天井付近に設けられている、通気口へと体を伸ばしていく。
「またっ!? 妖怪連中ダクト好きすぎでしょ!」
「たしかにあそこなら、見つからずに潜伏できるな!」
「外に出ても室外機なんて基本、人目に付かない裏口でしょうし!」
言うや否や、
『逃がしてなるものか』
と花恭さんと花鹿ちゃんが仕掛ける。
かたや、斬撃が効かなかったら今度は突き。
かたや、前回みたいに通気口の封鎖を優先。
だけど、
「ぐっ! ぐぬぬぬぬぬぬ……!」
剣先が直撃した体はぷにっって感じ。
食い込めども突き破らない。
花恭さんはなんとか押し込もうと、その場で足をバタつかせるけど、
すぐ進まなくなってしまう。
ルームランナーみたい。
「なあっ!」
そのままスリングショットみたいに、
反動でポンッと吹っ飛ばされてしまう。
「おのれぇぇ〜!」
私の数歩前までゴロゴロと転がってきた花恭さん。
絵面だけ見たらコミカルだけど、結構マズい?
その一方で、
「わっ!」
「どうした!?」
通風口を塞いでいる花鹿ちゃんから声が。
「突破されたの!?」
「されてません、けど!」
見れば、ぬっぺふほふはガードをこじ開けようとまとわりつく一方で、
体を伸ばして、遠くにある別の通気口も目指している。
「このっ!」
花鹿ちゃんは中間位置に移動して、両方を塞ぎに掛かる。
でもその場から伸ばすんじゃなくて、わざわざ移動したってことは
「ぺこちゃん! エレベーターだ! コイツ、エレベーターの空いてる空間にも入ろうとしてる!」
なんなら、もう一つの通気口より近い方へも進出するぬっぺふほふ。
だけど、
「ムリです! 包帯の長さ足りません!」
「六根清浄だ!」
「今どき無機物に根性論は通じませんよ!」
いや、無機物には有史以来通じたことないから。
でも今だけは
「このままじゃ逃げられてしまう!」
「分かぁってますぅぅ〜〜よぉ〜〜!!」
そんなこと無視してほしいくらい、人間にできることは手いっぱい。
いや、人間っていうなら。
私がいる。
私がまだ手が空いている。
肋骨折れてるとか関係ない!
ここで見てるだけは情けないよ!
何か考えろ!
できることはない!?
「こんのぉ、ブヨブヨしやがって!」
「妙に柔らかくて気持ち悪い!」
もう手が出尽くして、悪態つくしかない二人だけど、
ブヨブヨ
柔らかい
だから刃が通らない
「そっか!」
だったら!
「花恭さん、ちょっと来てください!」
「なんだい!」
「花鹿ちゃん、もうちょっと保たせて!」
「できることないですから早く!」
「こっちです!」
ここで棒立ちをやめてUターン。
廊下の奥へ走る。
その先にあるのは、
「僕に何をさせる気かな?」
「簡単です。
そこのドアをぶち破ってください!」
倉庫。
あぁ、申し訳ない。
病院は盗まれてはいけない危険物も取り扱ってる。
だから鍵が掛かってるだろうし、ぶち破ることになる。
単なる器物損害どころじゃない。
大問題になるんだろうな。
その被害を考えたら、ぬっぺふほふくらい見逃すべきかもしれない。
でも、
「花衣に話して、花形の力で揉み消してもらうか!」
「さすが偉そうなだけあって頼りになる!」
「今のも報告してやろ!」
「許して!」
もうやるしかない。
「せい、やっ!!」
花恭さんのハイキックが炸裂。
ドアはくの字に折れ曲がって吹っ飛ぶ。
「あとは!」
「私がやります!」
すぐに倉庫へ入って、素早く物色を開始する。
時間もないし、下手すれば防犯カメラや非常ベルとかがあるかもだし。
ただ、探すのに時間は掛からないはず。
ナントカって薬品、錠剤やら瓶に入った液体だったら私も見分け付かないけど
「あった!」
この
『CRYO』
と書かれたスプレー缶なら、他と違って明らかに目立つからね!
棚に並んでいるうちの1本を取って、急いできた道を戻る。
「なんだそれ! 虫除けスプレー!?」
花恭さんが並走しながら聞いてくる。
どうやら知らないみたい。
男性だもんね。
私も従姉妹から体験談聞いて、たまたま知ってただけだけど。
「いいえ、違います」
戻ってくると、
「早く早く早く!」
花鹿ちゃんが顔を真っ赤にして、四方八方手足と包帯を伸ばしている。
彼女の方が蜘蛛の巣に掛かった蝶みたいな。
「よく耐えた!」
「なんですかソレ! キュウリ爆弾!?」
「え!? むしろそっち知らない!」
は置いといて。
スプレーの照準を伸びきったぬっぺふほふに合わせる。
「コレは、
皮膚科がイボとかの凍結療法に使う
液体窒素だよ!」
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