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脂の範疇超えてそうな気もする

 基本は楕円形なんだけど


 全体的にたるんで、線が波打って、下膨れしている。


 それだけじゃない。

 ズズズ、と動く楕円の影。

 その下辺が少し浮いているのは、


 他ならない2本の足に支えられているから。


「私が見たのと、同じです」


 まるで『バラエティの“今日のゲストは誰でしょうクイズ”』みたいに。

 答え合わせを合図に、曲がり角から姿を現したのは



「ぬっぺふほふだ!」



 昨日とそっくりそのまま、異形の『星のカー◯ィ』!


 目も鼻も耳もない()()()()()()だけど、たるみがちょっと顔っぽい。

 なんとなくこっちを向いている気がする。


 だとすれば。

 私たちは今、数メートルの距離で正面から睨み合っているワケだけど


「ふーん。話聞いてるかぎりだとぬっぺふほふのシルエットだったけど。改めて見て、封とは違う形だな」

「逆に、いうほど形違うんですか?」

「はい。『一宵話』に記された『封』は、


『形は小児の如くにて、肉人ともいふべく』


 もう少し人間寄りであることが伺えます」

「へぇ」

駿府(すんぷ)城に出たソイツは、話の最後に山へ追い返されるんだけどね。

 徳川家公式史書の『御実紀(ごじっき)』にもほぼ同じ話が載ってて、

 そっちでは普通に物乞い、人として書かれてる」


 博識だなぁ。

 常に頭に入ってるのかなぁ。

 それとも今回のことを聞いて


『ぬっぺふほふじゃないだろうか』


 とか思ったら調べまくるのかな。


 ま、それは私には関係ないとして、


「え、じゃあぬっぺと封って全然別ものじゃん。見た目も違うし、廃寺と徳川の城っていうのも条件違いすぎるし」

「そうなりますね」

「でも人がぬっぺふほふを語るときは、大抵封もセットで引用されるよ?

『肉の塊のような怪異』っていう要素が同一性高いからだろうね」


 それは分かるよ?

 私も民俗学者じゃないから、そこをどう捉えるかは好き()きと思うよ?


 でも


「ソレって、


『ザリガニとカニって似てるよね。ハサミとかさ』


 くらいの話でしょ?」

「そうとも言えますね」

「でもザリガニとカニは別モンじゃん」

「ザリガニ釣りは楽しいけど、食べるのはカニの方がいいよね」

「ソレですよ。



 本当に、アレ食べたら肋骨治るんですか?」



 問題はそこなのよ。


「……食べたら分かるよ」

「NO!」


 そんな『死んだってことはダメだったんだね』みたいな!


「この際肋骨は治らなくてもいいです!」

「そもそも『此れを食すれば、多力になり、武勇もすぐるるよし』。

 超人になるだけでケガが治るとは誰も言ってませんからね」

「そこから()()()()なの!? じゃなくて!」


 普段から妖怪食べてる花恭さんは気にならないかもしれないけど。

 ていうか、そうなってる理由が『妖怪食べたから』で。


 封はまだいいよ。

 書物で『仙薬』って伝わってるくらいだもん。

 臨床試験で安全性が担保されてるんでしょうよ。

 違法ステロイドかもしれないけど。


 でもぬっぺふほふがそうじゃなかったら!?


 ワタシ・オブ・ザ・デッドなんだけど!?


「まぁ、だったらまず僕が毒味してあげるよ。そんでメチャメチャパワーアップしたら大丈夫な方だ」

「元がメチャメチャパワーしてるせいであんまり分かりません」


 とりあえず、そんなリスクがあるならもういらない。

 おとなしく自然に肋骨治すよ。

 痛いの我慢する。

 妖怪退治サボれるし。


 いや、今すでにサボれてないじゃん。


 ごちゃごちゃ問答してると、花鹿ちゃんが一歩前へ。

 少し解いた包帯を両手で、西部劇で鞭を左右に引っ張るシーンみたいにしてる。

 アレってなんか意味あるのかな。


「とにかく、食べるにしろ食べないにしろ。アレは退治してしまいましょう。


 ご遺体の脂をすする妖怪。

 そんなモノが霊安室に現れてはならない。

 ご遺族の心に追い討ち、()()()()()です」


「たしかに」


 そうと決まれば話は早い。


「じゃあ()()()()()()仕留めるよ!」


 花恭さんは仕込み刀を抜き放つと、長距離を一気に跳んで


「往生しろ!」



 から竹割りとばかりに、楕円の頂点に振り下ろす。



 見た目どおり遅いのか、そもそも回避する頭があるのかは分からない。


 けど、とにかくぬっぺふほふは棒立ちのままで、


 刃は見事直撃



 したまではよかったけど



「なっ!」

「あぁっ!」

「ウソでしょ!?」


 相手を断つことなく



 グニャリと歪んで受け流される。



「このっ! 脂の塊が高じて、スライムみたいな不定形になったか!」

「ソレもう液体の油の方でしょ!」


 花恭さんがバックステップで戻ってくると、花鹿ちゃんがもう一歩前へ。


「六根清〜浄〜!!」

「なんかまえもこんなことあったね!」

「田がらしですね! だからあのときと同じように縛り上げてやる!」


 言い終わるが早いか、包帯はぬっぺふほふに到達して、


「圧搾法で油を抜いてやるぅ〜……!」



 ボンレスハムみたいにグルグル巻き。

 空中へ持ち上げる。



 でもそれも、



「あっ、このっ!」


 ニュルリと形を変えて、抜け出してしまう。


「また!」

「ウナギのつかみ取りの気分です!」


 花鹿ちゃんが吐き捨てる一方で。


 地面に着地したぬっぺふほふは基本の姿に。

 何事もなかったみたいに、来た道をのっしのっし戻っていく。


「厄介だな」

「『一宵話』もね、最初は捕まえようとしたらしい。

 でもどうしてもうまくいかない。それで結局、山まで追い立てたってことらしい」

「どうして捕まらないのか。具体的な記述がないものですから、超スピードで動く説とかあったんですが。こういうことか」

「よかったね小春さん。封と見た目が違うのは、不定形の気分の問題ってことだ。たぶん仙薬」

「言ってる場合ですか!」


 無駄口のあいだに、ヤツは角を曲がって見えなくなる。


「遅いですけど、逃げてるみたいです。追いましょう!」


 花鹿ちゃんが勢いよく駆けていく。

 私たちも慌ててあとを着いていく。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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