表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/136

『肉人』とも言われている

 おかしい。

 絶対におかしい。


 だって、



 ブヨブヨの体、



 いや、頭。



 そこから直接生えてる手足。



 シルエットはまるで『星のカー◯ィ』


 っていったらマジさが伝わらないかもしれないけど。


 考えたら分かるはず。

 未就学児が描く絵以外で、


 こんなのがこの世に存在する?


 しかも、絶対ぬいぐるみとかじゃない。



 明らかに私より大きい。



 一周まわって着ぐるみって可能性もあるけど。

 病院にそんなのがあるって考えるよりは、



 花恭さんと同じ世界に、ほぼほぼ肩まで浸かってしまった身だから分かる。


 コレは、



「妖怪だっ!!」



 ソレが何であるかと同じくらい

 いかにヤバい存在であるかも知っている。


「うわああああ!!」


 となれば行動は単純。

 頭で考える必要もなく、本能がそうさせる。



 私は脇目も振らず、来た道を走って逃げた。











「ってことがあったんですよ!」

「ふーん」

「へぇー」


 場所はトンボ返りで病院のカフェ。

 大体真ん中あたりの丸テーブルに3人で座っている。


 残りの二人はもちろん花恭さんと花鹿ちゃん。

 事情を話して、こちらもトンボ返りしてもらった。


 見返りとして、15時のおやつを奢らさせられてるけど。

 しかもクッソ高いパフェ。

 そもそも見返り求めないでよ。


「写真は撮ったの」


 三角形で座って、私の左側の花恭さんは反応が薄い。

 目の前のチョコバナナパフェの方が一大事っぽい。

 生クリーム落ちそうだもんね。


 ま、プロがいちいち驚天動地してても不安だし、いいとしましょう。


「撮りませんよ。心霊写真じゃん」

「言えてるな」


 そもそもそんな余裕ないよ。


 花恭さんもコーンフレークを掘り起こそうとして余裕なくなってる一方、


「でも写真がなくとも、ここまで特徴的な見た目のは特定可能ですね」


 上から順当に食べ進める花鹿ちゃんは涼しい顔。

 ただしそれはそれで、メロンパフェなのに生クリームばっか食べさせられてる。


「そうだね、霊安室みたいなところを()()()()という点からも……危なっ!」


 コーンフレークを発掘したと思ったら、生クリームが一気に崩れる。

 内部で輪切りのバナナが動いて地盤がズレたみたい。

 花恭さんはスプーンでナイスセーブ、いったん落ち着くためにウエハースを取る。


「ソイツは十中八九」


 対して花鹿ちゃんはフリーなスプーン。

 それぞれ人差し指代わりに立てて、



「『(ほう)』」

「『ぬっぺふほふ』」



「いや、意見分かれたじゃん」


 しかも何?

 花鹿ちゃんのは、ホフホフ?

 おでん食べてるの?


 でも、花恭さんたちは『何言ってんだコイツ』って顔を向けてくる。


「同じだよ」

「違ってたとしてもコオロギとバッタくらいです」

「いや、その距離感分かんない」


 たぶん研究者に聞いたら『結構別物』って言われると思う。


「で、なんなんです? そのどっちにしろ日本語の(てい)を成してない謎の存在は」

「『死体の脂をすする』と言われている妖怪だね」

「ガチヤベーヤツじゃないですか」


 名前に対して内容が具体的に凶悪すぎるでしょ。


「大丈夫です。生きている人間が襲われたとは、ついぞ聞いたことがありません」

「『貴金属盗むけど通帳は置いてく』レベルでしかないのよ」


 済んだことであっても、命の危機じゃなかったってことはホッとするけど。


 そんな私の表情を見て、何をどう思ったのか知らないけど、



「なんだったら小春さん、君運がいいよ」



「は?」


 意味が分からないことを言い出す。


 いや、アレかな?


「確かに人喰い妖怪じゃなくてよかったですね。危ないところでした」


 それなら分かる。

 今まさに思ってたところだし。


 だから、それなら分かるのに


「違う違う、



 小春さんが食べるの」



「……あ?」


 コイツいっつもワケ分かんないことしか言わない。


 ワザとか!?

 私の反応見て話す内容変えてないか!?


「いやいやいやいや、誰がって? 冗談雑ですよ、花恭さんじゃあるまいし」


 あえてバカにしてるのを隠さない笑い方をしてやると、


「ソレがねぇ、冗談じゃないんだなぁ」


 向こうも()()()()()()ニヤニヤしている。

 信じさせるつもりなら、せめて表情なんとかして。


「はぁ」

「江戸時代の随筆『一宵話(ひとよばなし)』に曰く」

「もったいぶるなぁ」

「徳川家康の逸話に曰く、さる薬学者曰く、『白沢図(はくたくず)』に曰く」

「曰くありすぎでしょ。過去回想に過去回想ぶち込む面倒な漫画みたいになってるじゃないですか」



「『封の肉は多力を得る仙薬である』と」



「つまり?」



「そんな肋骨、ワンパンで終いさ」



 その言い方は折る側じゃない?











「ところで、今日だったら出てくるんですか? その、のっぺいうどん?」

「ぬっぺふほふ」


 私たちはあのあと、病院の地下1階へと直行


 はしなかった。


 そりゃマジで肋骨が治るなら、1分1秒でも早い方がいい。

 だって痛いもん。


 でも花恭さん曰く、


『さっき見たってことは、今日の巡回は終わったってことだ』


 とかで。


 その日は病室へ戻ることになった。

 ずっと()()()()歩いてても、それはそれで看護師さんに怒られるしね。



 てことで、翌日の13時40分くらい。

 私たちはぬっぺぬほふを見掛けた廊下に来ている。

 相変わらず薄暗い。


「いくら病院っていっても、毎日人が死んでるワケじゃないでしょうし」

「あぁ、それはね」


 花恭さんは堂々、仁王立ちで廊下の先を睨んでいる。

 身を隠す遮蔽物もないんだけどさ。


「封じゃなくてぬっぺふほふの伝承だけどね。『古寺や廃寺によく出る』って話がある」

「ナワバリがあるタイプって?」

「定期的に死体が補充されるところは、そう多くありませんからね」

「言い方」


 とにかく、『死体があるから寄ってくる』ってより、

『死体のありそうなところをグルグルしてる』ってことみたい。


 なんて話をしていると、


 花鹿ちゃんが、ピクッと動く。

 ちょうど名のとおり、野生の草食動物が、わずかな外敵の気配に気付いたような。


 そこに『どうした?』と聞く間もなく

 彼女自身が『しっ』と制する必要もなく


 私たちの視線は曲がり角へ。

 昨日私がその怪物を見た場所。


 そこに、まだ姿はないけど、


 薄暗い照明に照らされて生まれる、



 薄ぼんやりした影が壁に張り付いている。



 そう、アレは、あの独特の形は、

 忘れもしない……

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ