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来るならいつでも来いル◯ン

「いつ入られたの〜!? 戸締りはしてたのに! 他になんか盗まれてない!?」

「落ち着いて! 牛乳泥棒は牛乳以外盗まない!」


 驚天動地、上を下への大騒ぎをしていると、


「なんだい、朝からうるさいなぁ」


 花恭さんがバックヤードから出てきた。


「もうお昼ですよ」

「そんなことはどうでもいいよ。で、なんだい。飲食店のクセにゴキブリ出たのか」

「違います! 泥棒が出たの! 牛乳泥棒!」

「ふーん」


 花恭さんは興味なさそうにカウンターへ座る。

 めっちゃホットサンド見てる。

 あなた用だし食べていいけど、なんか釈然としませんよ私ゃあ。


「いいじゃん別に。いっつもカルーアミルク注文されなくて負債なってたし。


『こういうのがあれば普段居酒屋に来ない女性も集客できるかも?♪』


 とか言ってた小春さんの姿はR1準優勝だったよ」

「なんだと!? そんなこと言うなら朝メシは抜きだぞ!?」

「優勝はできないんですね」

「じゃあ勝手に冷蔵庫漁るけど、恨みはあるまいな」

「コイツ!」


 さっきの会話どおり、寝起きどころか冬眠明けの熊ムーブを宣言する花恭さん。

 そのゆっくりかつ凶悪な足取りを見ながら、花鹿ちゃんがつぶやく。


「ていうか、花恭さんが全部飲んじゃったんじゃないですか?」

「失礼な。僕がそこまでするように思うかい?」

「割と」

「カルーアも減ってたら僕のせいにしてくれてもいいけどな。そんな牛乳ばっかり飲まないぞ」

「なんという説得力」

「花鹿ちゃん騙されないで。カウボーイってカクテルがある」


 とまぁ、非常に疑惑の人物がいるんだけど


「でも今回は花恭さんじゃない」

「前回も次回もない」

「どうしてですか、こは(はた)さん!?」

「ん〜ふふふ〜、ソレはねぇ、西園(さいおん)鹿くん」

「アホくさ」


 額に人差し指を突き立ててると、花恭さんの冷たい言葉も突き刺さる。

 あなたの無実を証明しようとしてるんですよ?

 ふざけてるのは認めるけど。


「その紙パックの商品名のところ」


 パックを受け取った花鹿ちゃんは、すぐに気付いた顔をするけど


「『牧場、朝搾り』」


 空気を読んで()()()()()()顔をする。


「ん〜違う。ソレはぁ句読点じゃない」

「あ! 穴だ! 穴が開いています! 正しくは『牧場朝搾り』!」


 花鹿ちゃんをビシッと指差すと、花恭さんは呆れて目を逸らす。


「こは畑さん、これは!」

「そう。その牛乳はすでに口が開いている。未開封に見せかけるのならともかく、この状態で花恭さんが穴を開けて飲む理由がなぁい。

 何より、所轄の報告にあった犯人の手口と一致してる」


「でも穴開ける必要がないのは犯人も一緒では?」


「……」

「……」


「こは畑北三郎でした」

「茶番終わった?」

「茶番は茶番ですけど」


 一連の寸劇に関してはぐうの音も出ない。

 でも一番の問題は、牛乳を飲まれたことじゃない。


「なんにせよ、ウチには泥棒が入ってこられる穴があったってことです。マズいでしょ」

「牛乳がですか?」

「違うよ」

「借金まみれの店で大方の貴重品も2階と一緒に吹っ飛んでる。盗まれて困るもんないでしょ」

「そーじゃなくてですねぇ!」


 それも気になるし今の暴言は効いたけど!

 私が気にしてるのはそこじゃない!


「不審者が自由に出入りできるってことですよ!?

 そりゃ二人が人間相手にそうそう敵わないってことはないと思いますけど」

「あー」

「心配してくれるんですね」

「そりゃそうでしょ」


 特に花鹿ちゃんは年頃の女の子。

 年上として自宅に預からせてもらってる身としては気にするよ。


 それに、妖怪相手なら平気で暴力振るえる二人も、人相手はどうだか。

 気を遣ってマズいことになったり、逆に殺してしまって問題になっても困る。


 もちろん一般人の私は致命的に危ない。


 はっきりそういう話題を出すのは(はばか)られたから、遠回しに伝えたけど。


「確かにソレはあるかもなぁ」


 ちゃんと汲み取ってくれたみたい。


「でしょ? だからセキュリティの穴を見つけ出して、防犯強化を」



「世の女子たちもさぞかし不安だろうし。

 さっさとそんな不届者は、捕まえてしまわないとなぁ」



「えぇ……」


 ちゃんと汲み取ってないかもしれない。


「ですです。『ミルク求めて侵入してくる』とか、ちょっと変態っぽいですし」


 花鹿ちゃんは時に、花恭さんより真面目かどうか分からなくなる。











 本日の営業も無事終わりまして。

 諸々後片付けなんかも雑に済ませて、深夜3時にならないくらい。


『はる』が店だけでなく、住人の営みもcloseになるころ。



 厨房とバックヤードのあいだにある廊下。

 全室消灯されて真っ暗な闇の中に、私たち3人は潜んでいる。


 なんでこんなことしてるのかというと、


「あの、本当に来るんですか?



 牛乳泥棒」



 ヤツを捕まえるべく待ち伏せしているから。

 普通に警察に通報しようとしたら止められた。

 おかしいでしょ。


「牛乳買い足したし来るでしょ」

「そんなテキトーな」


 ウチが被害に遭ったのは今日が初めて。

 穴場にされてるワケじゃない。


 ていうか普通は、1回盗みに入ったら警戒されてると踏むはず。

 もう来ない可能性の方が高いと思う。


「そもそも買い足したこと知ってたら、ずっと私たちを見張ってたってことじゃないですか。メチャクチャ怖いしメチャクチャ暇なヤツじゃん」

「玄関周りを思いっきり牛乳石鹸で掃除しました。大丈夫です」

「もしかして牛乳石鹸食べられると思ってる?」


 それで大丈夫と言い切る頭は大丈夫じゃない。


「そんなので誘き寄せられたらもう、変態どころの騒ぎじゃないよ」


 別に建設的な指摘じゃない。

 仕事終わったあとにこんなことさせられてる愚痴だ。


 それに対して花恭さんは、


「ま、普通だったらありえないな。


 普通だったら」


 ニヤッと笑う。


 やっぱり。

 そりゃ私だって勘付いてたよ。


 警察に通報もさせず、

 この二人が捕獲に妙にやる気。

 牛乳だけ狙って、パックに穴開けて飲む異常性。


「花恭さん。今回の牛乳泥棒って」

「しっ!」


 だけど決定的な質問は遮られた。

 なぜなら、



「来たよ」



 玄関から、カリカリ小さな音がする。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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