表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

「どうして、こうなったのでござろうな」


 答えてくれる者は誰もいない。近くに人はいても何も言わず立っているだけ。独り言を呟いただけでござるな、これでは。気恥しさを誤魔化すように空を見上げれば分厚いねずみ色の雲が視界に映る。


 天気はあいにくの曇り空。時折光る雷が雨の訪れを感じさせているでござるよ。今日の天気は決してお出掛けに適した天気とは言えない。

 それでもここまで多くの民衆が集まってくれた事が嬉しいのか悲しいのか、複雑な気持ち故に言葉にならぬでござるよ。


 ゆっくりと集まってくれた民衆の顔を忘れないように一人一人その目に映していく。どうして皆、そんな辛そうな顔をしているでござる?別れの時は笑顔で送り出すと相場で決まってるでござるよ。

 この堅苦しい空気が皆に別れを強調するのであれば、某!この場で歌う事も辞さないでござる。いい事を思い付いたとばかりに立ち上がろうとしたでござるが、ジャラジャラという鎖の音がするだけで体を動かす事は出来なんだ。なんとも歯痒い。


「タケシ殿⋯」

「どうしたでござるか?」


 コツンコツンと足音がして尖った長い耳が特徴的な男が一人歩み寄ってきたでござる。左胸の位置に薔薇の刻印が刻まれた立派な鎧を身に纏った偉丈夫。男の某から見てもハンサムだと言わざる得ない顔立ちをしてござった。

 美男子から発せられる声もまたバリトンボイスのイケボでござる。しかし、少し声が震えていたのは減点ポイントでござるな。この場面ならそんな悲しそうな声を出さず厳格な声で発するべきでござるよ。


 某の知人である男と視線が合うと何かを耐えるように唇を強く噛み締めていたでござる。視線を動かして見れば左手は血が出るほど強く握られている。一目で業物と分かる美しい剣を持つ右手にも不要なほど力が入っているのが分かったでござるよ。

 その姿を見て申し訳ない気持ちになったでござる。友に辛い役割を押し付けてしまった。


「間もなく刑の執行です」

「了解したでござるよ」


 ───某は今日、処刑されるでござる。


 罪状は王族へと危害。この国の第一王女メリル殿の心と体を傷付けた罪で、斬首の刑に処させる事が決まったでござる。


 この場に集まった民衆は決して某のファンではないでござるよ。某が処刑される瞬間をその目で見る為に集まった観客たち。某の直ぐ近くまで歩み寄ってきた男は某の友であり、刑の執行人であるローウェン殿。

 彼の持つ美しくも鋭い剣で某の首をハネて今日の一大イベントは幕を閉じるでござる。


「何か言い残す事はありますか」

「最後の言葉でござるか⋯何にするか悩むでござるな」


 記憶を遡ればなんとも濃い思い出たち。最後に残す言葉は何が良いでござろう? 世界的に有名な少年漫画のように『某の財宝が欲しいか!探せ!』って煽ってみるのも面白そうでござるが、ここはキチンと空気を読むべきでござるな。


「言い残す言葉はないでござる!良き友たちに恵まれた最高の一生でござった!」


 刑の執行人であるローウェン殿の顔が歪むのが分かったでござる。右手が震えている。彼らしくない姿に言葉をかけようとした時、横からこの場に相応しくない可憐な声が響いた。


「ローウェン、刑の執行を」

「⋯⋯⋯っ!畏まりました」


 ローウェン殿が剣を構えた。どうやらもう時は残されていないようでござるな。


 最後の光景をこの目に収めようと顔を動かす。先程聞こえた可憐な声の持ち主と目が合った。某を見ているようで見ていない⋯、幽鬼のような瞳。やはりそうでござったか。もっと早くに気付いていればこのような事にならなかったでござるな。ローウェン殿と同じく、メリル殿にも辛い役割を押し付けてしまったでござる。


 ───ゲームやアニメのようにラスボスを倒してハーピーエンドとならないのが現実でござった。

 この世界に転生してはや30年。前世の知識を活用してそれなりにこの世界で活躍する事が出来た自負がある。

 その証拠に勇者パーティーの一人というアニメや漫画ならメインキャラに数えられる立ち位置まで確保したでござるよ。女性にもモテモテでござった。最後こそ某の想定と違うでござるが、良き一生でござったよ。


 ただ一つ未練があるとするならば⋯。


「クロナ殿⋯」


 脳裏に浮かぶ一人の女性の顔。


 ()がもっと早く気付いていればこのような事にはならなかった。彼女の心の叫びに耳を傾けていれば違う未来があったかも知れない。

 全てはタラレバ。俺は選択肢を間違えた。それ故に最愛の女性に業を背負わせる。


 ───愛してる。


 彼女の言葉が脳裏に過ぎった。


 振り下ろされる剣を見て死にたくないと醜く思った。


 生きて彼女を助けたいと心が強く願った。


 ───現実はアニメや漫画のように優しくなくて、ご都合主義も主人公補正も何もない。俺の思いも心の叫びも虚空へ消え、醜い未練を断ち切るように振り下ろされた剣は俺の首を切り落とした。


 不思議と痛みはなかった。首だけとなった俺が宙を舞っている。なんともおかしな光景だ。遠のく意識と、暗くなる視界。死へと近付く間際の視界に映ったモノが、最後の最後に俺の心を奮い立たせた。


 ───それは最愛の彼女の決して見せる事のない醜悪な笑み。


 静かに落ちていく意識の中で、必ず助けると強く心に誓った。

















「やぁ、御機嫌よう」


 パッと視界が明るくなった。どこか見覚えのある白一色の空間。声のした方に視線を向ければそこには知らない人物が立っていた。

 手入れがされているのが分かる艶のある黒い髪、短く切り揃えた髪とシミ一つない綺麗な肌から清潔感が伝わってくる。

 銀縁の眼鏡の奥に見える左右違う色の瞳。赤と青の厨二心を刺激するオッドアイだ。シワひとつないグレーのスーツを着こなした、どこか胡散臭い笑みを浮かべる男。


「君はどうやらここに来るのは初めてではないようだね。他の子と違って驚きがない」

「俺は一度死んでいるから⋯⋯っと!いけないでござるよ!」

「急にどうしたんだい?」

「某とした事がキャラ設定を忘れていたでござる!いやはや!死が迫る瞬間というのはインパクトが強いでござるな!某の大事なアイデンティティすら放り出していたでござるよ!」


 危なかったでござるな。あと少しでキャラの薄い量産型の主人公になるところでござった。神様の手違いで殺されるというテンプレからの異世界転生作品は星の数ほどあるでござるからな。

 有象無象に埋もれない為にも某はキャラ設定を忘れないのでござるよ。何故なら、某は主人公であるが故に!

 

「変わっているね⋯随分と」

「それは褒め言葉でござるかな?」

「ギリギリね」


 それなら良しとするでござる。変人扱いは慣れているでござるから今更言われたところで何も思わぬでござるがな!


「それでここは死後の世界であっているでござるか?」

「その質問がくるという事はやはり君は初めてではない様子だね。なるほど⋯少々失礼をするけど許してくれるかな?」

「何をするつもりでござるか?」


 返答がない。無視でござるか!おーい!


「某の声が聞こえているでござるか?」

「⋯⋯⋯⋯」

「聞こえていないで、ござるか?」

「⋯⋯⋯⋯」

「参ったでござるな。まさかこの展開で無視されるとは思っていなかったでござるよ。主人公に対してなんという扱い!それでは一話限りのポン出しキャラで終わるでござるよ!」

「君はいったい何を言っているんだい」


 ようやく反応したでござるな。呆れたようにため息をついている。顔が良いからそんな姿も画面映えするでござるな。この顔だとポン出しキャラでは終わらない予感がするでござるよ!


「君の心を読んでいると頭が可笑しくなりそうだ」

「なんと!某の心を読んだでござるか!それは立派なセクハラでござるよ!」

「私が神だと分かった上の発言なのだから、君の肝の座り方は賞賛に値するよ」


 パチパチと質の良い手袋をつけた手で拍手をする男。そう!この男は神様でござるよ!某はここに来るのが二度目であるが故に!この男が神である事に瞬時に気付いたでござる。

 捕捉として付け加えるでござるが、この御仁は前回某を異世界へと送った神ではないでござるよ。前の神は黒幕オーラ全開の駄女神さまでござったからなー。


「私の同僚が君に随分と迷惑をかけたようだね」

「某にかけられた迷惑はしれているでござるよ。ただ、某の相棒に行った所業は許せぬでござるがな!」

「君の気持ちは痛いほど分かるよ。私もまさかミラベルがあんな馬鹿な行いをしているとは思わなかった。転生者で遊ぶなんて神失格だよ」


 額に手を当てて深いため息を吐いているところを見ると、某を異世界へと送った駄女神───ミラベル殿とは根本的に違うようでござる。

 彼女も異世界へと送る前はマトモでござったか? いや、初めて会った時から駄女神臭はあったでござるな。某が前回死んだのもミラベル殿が書類にヨダレを垂らした事が原因でござった。


「それも含めて謝罪するよ」

「謝罪は不要でござるよ!某は転生者として!主人公として異世界を満喫出来たでござるからな」

「君は本当に変わってるね」

「よく言われるでござるよ!」


 ここら辺含めて全てキャラ設定でござるがな!本当の某を知る者はいないでござるよ!


「いや、うん。よくそんなテンションでいられるね」

「何がで、ござる?」

「君の事は神の権限で見させて貰った訳なんだが、あんな最後を迎えておいて⋯よくそのテンションでいけるね。神である私もびっくりしちゃったよ」

「某の事を見たのなら分かるでござろう!某、ここにくるのは二回目ゆえ、何が無理で何がいけるか分かっているでござるよ」

「そうか、君は自分がしたい事が不可能だと分かっているんだね」


 前回死んだ際にもミラベル殿とやり取りをしたでござるからなー。あの時はコミケ帰りで、戦利品を読むぞーっとワクテカしていたから死んだ事がショックで、生き返らせてくれって頼み込んだでござるよ。残念ながらその頼みは叶わなかったでござるな。

 神の世界のルールとやらで同じ世界に転生する事は出来ないそうでござる。だからこそ、諦めがついたでござる。

 最愛の女性だからこそ助けてあげたいでござるが、某は別の世界に転生する運命。何も出来ない某が憎いでござる。


「その事なんだけど」

「む!」

「私の同僚のせいで君たちには随分と迷惑をかけてしまっている。その償いにはなるんだが、望みを叶える事が出来るかも知れない」

「なんと!」


 ここで重要なのはこの男が信用できるかどうかでござるな。胡散臭い笑みを浮かべていたでござるから、やはり外見と一緒で信用してはいけない可能性も!

 いや!彼は信じていいでござるよ。目敏い某は気付いてしまったでござる。彼の作業スペースと思わしき机の上に、絶世の美少女の人形が置かれている事に!某目は良いでござるから、隠し通すのは無理でござるよ。

 精巧な作りでござるな。人形ではなくフィギュアでござったか!となるのやはりこの御仁は某と同類!


「その扱いはやめてくれないかな?君が思っているものは違うと断言しておくよ」

「またまた、照れなくてもいいでござるよ。某はどんな性癖でも受け止められるから安心するでござるよ!」

「私はノーマルだ!アレは私が愛する彼女が、私のプレゼントにと送ってくれたものだ。勘違いしないで欲しい」


 つまり愛でござるな!


「それでいいよ⋯もう」


 深いため息でござるな。もう少し気を楽にしないと疲れるでござるよ。


「君にだけは言われたくないよ。まぁ、いいか。そういえばまだ名前を名乗っていなかったね」

「そういえばそうでござるな!」

「私の名前はクロノス。前回君を異世界へと送ったミラベルの⋯腐れ縁だよ」

「ふむ!」

「同じ神というのもあるけど、ミラベルとは幼少の頃から付き合いがあってね。だからあのバカがした行いの償いはするから安心して欲しい」


 ミラベル殿に幼なじみがいたとは!まさかまさかの展開でござるな。某としては神にも幼少期があった事がびっくりでござる。ミラベル殿の幼少期⋯つまりロリベル殿の時期があったという事でござるな。


「君は本当に⋯いや、もういいや。次の世界へと送るまでの短い期間だけど、よろしく頼むよクソビッチ・ゲリュート君」

「違うでござる!!!その名前は捨てたでござるよ!」

「いや、でも君の書類にはクソビッチ・ゲリュートと」

「某はその名前は捨てたでござる!某の名前はタケシ!合田(ごうだ)(たけし)でござる!」

「それはもう一つ前の世界の名前じゃないかな?クソビッチ・ゲリュートが正しいと思うよ」

「その名前では主人公を張れないでござるよ!!故にタケシと!『動けるデブ』のタケシと呼んで欲しいでござるよ」

「その異名もどうかと思うのだけど⋯君が満足しているならそれでいいだろう。それではタケシ君、短い期間だけどよろしく頼むよ」



 ───主人公補正があるのなら、正しく今の状況がそうでござろう。もう無理だと諦めてしまっていたでござるが、可能性があるのなら縋り付きたい。

 必ず助けるから待っているでござるよ、クロナ殿!


 という事でクロノス殿から話を聞くとするでござるよ。ん?冷静になるのが早い?それでこそが某でござる!


「さて、君はここにくるのは二度目だったね。なら説明は省いても構わないかな?」

「いや、ミラベル殿が本当の事を言っていたか分からない以上、クロノス殿から説明を受けたいでござるよ」

「それもそうだね」


 少し面倒くさそうな顔をしたでござるな。無駄なやり取りを省略したかったのでござろうか?気持ちは分からんでもないが、某も前回受けた説明が正しいか判断出来ない以上、別の神からも説明を受けるべきと思ったでござるよ。


 某は二度目の異世界転生という事になるでござるが、一度目の転生を担当した神は表の顔は転生者の事を気遣う良き神さまに見えたでござるが、裏の顔は転生者を使って遊ぶといういい趣味を持っていたでござるよ。

 初めて会った時はポンコツかなとか、駄女神臭がするなとか、そんな感想が浮かんだでござるが、流石に裏で糸を引く黒幕タイプとは思わなかったでござる。あまりにポンコツすぎた故に!


 生前で何があったか語るのも良しでござるか?そうでござるな。某がどのような異世界生活を送ったか気になる者も多いでござろう。

 ここで回想に入るでござるよ!


「申し訳ないけど、後がつかえているんだ。話を進めても構わないかな?」

「おっと!それは仕方ないでござるな。回想はまた今度でござる」

「気になってはいたんだけど、君は誰に語りかけているのかな? ここには私以外誰もいないよ」

「某は主人公でござるからな。其の物語が気になる方々が沢山いると思うのでござるよ。そこで気の利く某はこうしてモノローグを語っているのでござる」

「ありがとう。君が異常者という事は分かったから、無視して話を進めるね」


 ───酷いでござるな! 声に出して文句も言ったでござるが、宣言通り無視されて淡々と説明が入ったでござる。


「ここは死後の世界。正確には神の職場と表現した方がいいかな? 君たちのような存在を私たちを()()()()と呼んでいてね。最高神さまによって定められた寿命を───運命を持つ者たちという意味だ」

「つまり某たちの運命は予め決められているという事でござるな!」

「大きな流れはそうだね。生まれる時期や死亡時期なんかは予め決められているよ。けど、定命の者が取った行動によって運命は変わるものなのさ。神の力を持ってしても定命の者が持つ『運命を切り開く力』に干渉する事は出来ないんだ」


 クロノス殿が語る大きな流れとは、Aの世界で生まれAの世界で何歳ころに死にBの世界でまた生まれるといった転生の繰り返しの事を指しているようでござるな。其たちが取る行動によって死亡時期なんかは多少前後する事があるらしいでござる。

 神の仕事は亡くなった定命の者の魂を次の世界へと送り届ける事。ここら辺は前回の神、ミラベル殿から聞いた話と同じでござるな。


「知っての通り、亡くなった者は同じ世界に転生することは出来ない。理由は」

「魂の停滞が起こるから、でござるな」

「そうだね。もう一つ神の事情を語るなら、私たち神による魂の抱え込みを防ぐ為だよ」

「どういう事でござる?」

「君の知識を借りるなら『推し』という言葉が近いかな? 私たちの感性は君が思っている以上に定命の者たちに近いんだ。君たちの一生をこうして机の上から眺めていると、この子いいなって気に入った魂も出てくる。そういった魂を他に渡したくないから抱え込もうとする神もいる。それを防ぐ為に必ず別の世界に送られるようになっているんだ。例外がない訳ではないけどね」


 ちょっと話が長かったでござるな。何となく分かったからそれで良いでござる。む!クロノス殿が苦笑いを浮かべている! どうしたでござるか!


「何でもないよ。」


 今の言い方は何か思う事がある時のもの!残念ながら聞いても答えてくれなかったでござる。


「次の世界へと送る際には君が思い浮かべる能力は基本的に与えないんだ。転生特典なんて君は表現するんだね」

「転生特典なしが基本でござるか?」

「そうだね。君が想像したような能力によって異世界で無双する───悪く表現するなら暴れる者もいるからね。今まで保ってきた世界のバランスが崩れる可能性もある。世界に与える影響が大きいから基本的には能力は与えないんだ」

「そんなに影響があるでござるか?」

「澄んだ水に泥を投げるようなモノだよ。その時の泥の大きさによっては世界が元に戻らないかも知れない。神として許す事は出来ない」


 神が定命の者に対して与えるモノは基本的に才能だと、クロノス殿は語っている。剣の才や武術の才、魔法の才、知識の才、芸術の才...挙げだしたらキリがないので割愛するでござるが、それは人が元々持ち合わせているポテンシャルを目覚めさせているだけ。世界には影響は及ばないと。

 加えて能力を与えるにしても生前に善行を多く積んだ者に限るそうでござる。理由は直ぐに分かったでござるよ。善人は能力を与えても大丈夫だと安心出来るからでござるよ。悪人に与えたら悪用するに決まっているでござるから。


「それでは、ミラベル殿がした行為は規則違反でござるか?」

「いや、違うよ。能力を与えるのは神の自由さ。与える事によって世界の管理が難しくなるけど、そこは神の自己責任。神の判断に委ねられる」

「ミラベル殿は本当は規則違反だから、本当はダメだけどって能力をくれたでござるよ」

「それはミラベルの嘘だね。本当の規則違反は君たちに行った行為なんだ」


 其たちに行った行為? 転生者を使って遊ぶ事でござろうか?


「それもあるけど、一番問題なのは運命を押し付ける事なんだ。神の力と言っても大きな干渉は出来ないけどね」

「某で言うところの『女性の頼みを断れない』が、ソレに当たるでござるか」

「そうだね。あるいは面倒な女性ばかりに好意を寄せられる『女難』であったり、人の事を疑う事が出来なくなる『盲信』だったりをミラベルは与えていたみたいだね。本来歩むべき道がミラベルが与えた運命によって変化する様子が楽しかったようだ」

「いい趣味をしてるでござるね」

「本当だよ。同僚として恥ずかしい限りさ」


 違反をしているのならクロノス殿の力でミラベル殿の行いを止める事は出来ないかと尋ねてみたが、望む回答は返ってこなかったでござるよ。

 (こちら)側の事情だねとだけ教えてくれた。表情からそれ以上喋る気がないのが分かったので、諦めたでござる。


「それじゃあ説明はある程度終わったから話を進めるね。君は今から私が管理する世界へと送られる」

「了解したでござる!」

「そのまま送ってもいいんだけど、君の死因は本来のモノとは大きくかけ離れていてね。原因は言わなくても分かってると思うけどミラベルの仕業なんだ」

「おのれミラベル!!!」

「思ってもない事は言わなくてもいいよ。ノリで言っただけでしょ?」


 流石、神さまでござるな。そんな事も分かるとは!


「君の価値観のせいで私の判断が正しいか分からなくなるよ」

「クロノス殿の判断が合ってるでござるよ!」

「⋯⋯まぁいいや。同僚がやった行いの償いをしたい。君の望みを聞かせてくれるかな?」


 ふむ、某の望みでござるか?次の世界で異世界転生物の主人公のような活躍が出来るようにチート能力を貰うのも良きでござるな。

 

「本心の方が私としては助かるよ」

「む!某は俺TUEEEEがしたいのでござるよ」

「違うね。君の本当の願いは『クロナという女性を助けたい』だろ?」

「それは出来ないでござろう?同じ世界には転生出来ないでござる。クロノス殿がさっき言ったではござらぬか、『私が管理する世界へと送る』と」

「そうだね。けど、前の世界へ行けない訳ではない」

「なんと!」


 一筋の希望が差し込んだように感じ、思わず声が出てしまったでござる。前の世界へと行ける?つまりクロナ殿を、某の最愛の女性を助けにいけると?


「断言は出来ない。あくまでも可能性の話だ」

「それでも構わないでござる!今もクロナ殿は苦しんでいるでござるよ。彼女を助ける事が出来るのなら僅かな可能性であろうと賭けるでござる!」


 某が気付くのが早ければクロナ殿を助ける事が出来た。もっと気を配っておけば彼女に迫っていた魔の手に気付く事が出来た。後悔ばかりでござるよ。


「気付けたとしても難しかったと思うよ。君の大切な女性を襲った敵はミラベルの息がかかっていた」

「なぬ!つまり某が倒した魔王も⋯⋯」

「君と同類という訳だよ」


 某が勇者パーティーの仲間と共に戦った宿敵、魔王もまた転生者でござったか。道理で⋯⋯。


「話が逸れたね。神の規則として君を元の世界へ送る事も、世界を移動する能力を与える事も出来ない」

「それ以外の方法があるでござるか?」

「そうだね。今から君を送る世界には『終焉の魔女』と呼ばれる定命の者がいてね、彼女が『世界を渡る力』を持っているんだ」

「能力でござるか?」

「少し違うね。今から送る世界には魔法と呼ばれる力がある。君もご存知の力だ。終焉の魔女は魔法を極めた末に『時空を操る』魔法を手に入れた。定命の者でありながら、最も神に近い存在⋯⋯神の領域に踏み込んだ者なんだ」


 肩書きが物凄くカッコイイでござるな!某もそんな異名で呼ばれたいでござるよ。『動けるデブ 』の異名には満足しているでござるが!

 肩書きはともかくクロノス殿が言わんとすることは分かったでござるよ!終焉の魔女殿に力を貸してもらい、元の世界へと帰ればいいのでござるな!


「そういう事だよ。彼女の力は本物だ。ただ、気難しい子でね。君が気に入られるかどうか⋯⋯それだけが分からない。だからの可能性の話という訳だよ」

「なるほどでござる!つまり某が終焉の魔女殿を攻略すればいいと!ならば任せるでござるよ!これまで多くの(ゲームの)ヒロインを攻略してきた某なら簡単でござる」

「それならいいんだけど」


 クロナ殿を助ける為に他の女性を口説くというのはあまりに褒められた行為ではない気もするでござるが、他に手段はなさそうでござる。

 普通に頼んでダメだったら⋯⋯、某の魅力で攻略するしかないでござるな。


「⋯⋯まぁ、彼女に会えば分かるか」

「何やら意味深でござるよ」

「会えば嫌でも分かるよ。話を進めるよ。君が送られる世界には君の望みを叶える存在いる、その情報だけではミラベルがした行為の償いにはならないと私は思っている。だから、他に何か欲しいモノはあるかい? 能力や才能⋯出来る限り君の望みに応えよう」


 欲しいモノでござるか。俺TUEEEEが出来る能力があれば楽は出来そうでござるな。アニメや小説の能力を参考に⋯⋯ふと、脳裏に浮かんだのは一本の剣でござった。

 あの剣を手放す事さえなければ某はクロナ殿を救い、あの結末を変えれたのではないかと。某と半生を共に過ごした相棒。


「某の相棒と言える存在───魔剣デュランダル殿を某と一緒の世界に送って頂く事は可能でござるか?」

「似たような剣を創り、渡す事は出来る。けど、前の世界の剣を送る事は私には出来ない。君も知っていると思うがあの剣は君と同じ転生者の魂が宿っている。まだあの魂はあの世界に囚われているんだ」


 やはりダメでござるか。魔剣デュランダル。某の相棒にして、その正体は其と同じ転生者であり初代魔王という設定を詰め込みまくった剣なのでござるよ。

 剣の性能だけでなく、相談相手という意味でも彼女の力を借りたかったのでござるが⋯⋯残念でござる。


「⋯⋯人格を創り魂をリンクさせれば⋯⋯出来なくはない⋯⋯か⋯⋯試してみるか」


 クロノス殿を見るとブツブツと何かを言っているでござる。手を伸ばしたと思うと床が眩い光を放ったでござるよ!




 ──目が!目がァァ!




 そこまで眩しくなかったでござる。拍子抜けしながら光を放つ床を見ていると、地面からニョキニョキと剣が生えてきたでござるよ。その剣を某は見覚えがあった。


「デュランダル殿!!!」

「レプリカデュランダルと言うのが正しいかな。オリジナルを参考に複製したモノだよ。姿形だけでなく君の記憶を参考に人格と能力はオリジナルと同じものを与えてある。ただ、この剣には魂が宿っていない」

「つまり⋯⋯デュランダル殿ではないという事でござるか?」

「今は、ね。後で少し小細工をしてオリジナルの魂とリンクさせるつもりなんだ。君に与えるレプリカデュランダルが受信機の役割を果たして元の世界のデュランダルと対話が出来る筈だ」


 そんな事まで可能とは、神の力というのは凄いでござるな。改めて敵に回した存在の強大さを感じたでござるよ。


 クロノス殿からレプリカデュランダルを受け取る。手に持った感触はデュランダル殿と変わらない。懐かしい感触に声をかけてみたが、反応はなかったでござる。思わずクロノス殿に視線を向けると彼は苦笑いしながら『今は眠っているだけ』と答えてくれた。

 世界に送り出した後に魂をリンクさせれば目覚めるだろうと。なるほど、了解したでござる!


「それじゃあ今から君を私が管理する世界に送り出す訳だが、一つ提案があるんだ」

「む!なんでござるか?」

「君の生前の体を活用するのはどうかと思ってね」

「生前の体でござるか?何故そのような事を」


 ミラベル殿の時のように世界へ送り出すのではダメでござるか? 一般的な異世界物と同じような転生の流れでござったが⋯。


「その場合だと、君はまた赤子から始まる事になる」

「赤子から⋯⋯そういう事でござるか!」

「君は最愛の女性を助けたいのだろう?なら時間を無駄にするべきではない。生前の体を活用して転生⋯⋯君の知識から表現するなら異世界転移という言葉が近いかも知れないね。君の場合は肉体が死んでいるから微妙に違う気もするけど」


 思いっきり処刑されて死んだでござるからなー。肝心の体は全盛期を参考にクロノス殿が創ってくれたでござる。体を先に世界へと送り込み、その後直ぐに某の魂を体に宿す流れになるそうでござるよ。目の前で某の体が創られる光景はなんとも言えない思いでござった。

 こうして改めて見るとフツメンでござるな。ブザイクではないと思うのでござるが⋯⋯イケメンには程遠いでござる。


「時間は無駄にするべきではないでござるな」

 

 クロノス殿の言う通り、クロナ殿の事を考えれば時間を無駄にするべきではござらん。赤子に転生すれば少なくとも自由に動けるまで十数年はかかるでござるよ。その間も彼女が苦しみ続ける⋯⋯、一刻も無駄には出来ぬな。


「さて、肉体は先に送り込んだよ。君の相棒のデュランダルもね」

「お世話になったでござるな」

「いや、これはただの償いさ。君の望みが叶う事を、心の底から願っているよ」


 それじゃあ送るよ、とクロノス殿の掌から淡い光が放たれ、某の体に当たる。その瞬間にパッと視界が白く染まった。宙に放り出されグワングワンと視界が回るような感覚に吐き気を覚えながら、某の意識は遠のいていった。
















「キャーーー!!!」


 意識が覚醒したのは女性の悲鳴が聞こえたから。最後に感じた浮遊感はなく地面に立っているのが感覚で分かる。風が肌を撫でていることから現在地が外であることが分かった。

 血の匂い⋯⋯それに先程の悲鳴。異世界に転移してそうそう、問題発生⋯⋯で、ござるな!!!


 キャラ設定を意識すると共に目を開けば、アニメや漫画でありがちな小さな集落が視界に映る。一つ問題があるとするならば、赤い炎が見えている事でござろうか?目を凝らして見ると剣を持った賊らしき人影が見える。


「いきなり襲撃イベントでござるか」


 こう見えて某は勇者パーティーの一員でござったから、悪事は見過ごせないのでござるよ!

 背中に相棒の魔剣デュランダル(レプリカ)を背負っているのを確認して、賊に襲われている現場へと急行する。


「助けて!」


 女性の悲鳴が某を案内したでござる。


 全盛期の肉体という事もあり、女性に被害が及ぶ前に何とか間に合ったで⋯⋯ござるが。


「へへへ、もう逃げ場はないぞ」

「い、いや、⋯⋯誰か⋯⋯助けて」


 そこに居たのは賊によって追い詰められ、体を震わしながら助けを求めるムキムキマッチョの女性と、枯れ木のような細い腕で刃こぼれの目立つボロ剣を持つヒョロガリの賊。身長はパッと見で女性は190cmありそうなのに対して賊は小柄で150cmあるかないか⋯。

 体を震わして怯えているのはムキムキマッチョ。襲っているのはヒョロガリ。




 ───物語にありがちな悲劇の一幕。



 それは、ヒロイン(候補)が賊に襲われ、その場に駆けつけた主人公(ヒーロー)がピンチを救い、物語の始まりを告げるプロローグのようなもの。


 この状況が物語のプロローグだと言うのならば、目の前に映る光景は───悲劇と呼ぶにはシリアスが足りない。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ