世の中には絶対に言ってはいけない言葉がある
本作品は、しいな ここみ様ご主催の「500文字小説企画」の参加作品です。
「ブサイクだな」
王太子と公爵令嬢の婚約の初顔合わせで、王太子の最初の言葉である。
この婚姻は、公爵令嬢の才能を欲した王家からの強い要望によるものなのに。
当然その場に居た父親である公爵は激怒した。
「どうやら王家は我々に恥をかかせたいようだ」と言って娘と共にその場を去った。
王家は焦った。これ以上ないほどに。
この婚姻は絶対に締結しなければならなかった。
無能な国王の失策によって、王家の評判は地に落ちた。
それを払拭するために有能な王妃によって、息子である王太子と優秀な筆頭公爵家のご令嬢との婚約を結ばせた。
王太子がそのような言葉を口にしたのには理由があった。
『妃になる者に舐められてはいけない。初めに分からせなければ』と側近から忠告されたのだ。
もちろん側近は軽率な発言をするように言ったわけではない。
王太子自身も、「ブサイク」などと言うつもりはなかった。
しかし、初めて見た公爵令嬢は美しかった。
『舐められてはいけない』と思いながらもひと目で惚れてしまった。
そして、つい出た言葉が想いとは正反対。取り返しのつかない事態となってしまった。
当然、婚約は破棄された。
世の中には絶対に言ってはいけない言葉がある。
おわり
お読み頂き、ありがとうございました。