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「第九話」落ちこぼれ巫女と約束

 「……」

 「……」


 気まずい。

 非常に気まずい。


 私が彼女を呼び止めてから数分経つが、お互い一向に喋らない。

 フウカは正座のまま変な顔してるし、私は私で昼餉を貪るという逃げに走っている。


(そういえば、こんな風に二人きりで話すの……何年ぶりだっけ?)


『それって実質ほぼ他人では?』という自問自答に知らん顔をしながら、私はちらりと顔色を伺う。


 なんとも言えない、困った様子だ。

 このまま出方を伺っていてもどうにもならない。

 

 ──ここは、勝ちに行くしか無いだろう。


「……ねぇ、フウカ」

「! な、なんでしょう!?」


 カチコチの返事。

 なんだか友達の家に遊びに行った時のお母さん味さえ感じるのは、この子が人を駄目にする魔の包容力を持つからだろうか? 


 調子狂うなぁ、と。

 私は素直にそう思った。


「このお魚すっごく美味しい!」

「そう、ですか。はい、よかったです」


 絶望的に会話が続かねぇ。

 嘘でしょ?

 え? 

 こんなに私達ってお互いに距離あったっけ?


「……ふ、フウカも食べてみる!?」


 なに言ってんだ私。

 人が口つけたもんを喜んで食うわけが──。


「た、食べます! 食べさせてください!」


 いやお前も乗り気なのかよ。

 断れよそこは。

 いや家族だから別にいいけどね?


 ってあれ、ちょっと待って。

 なんだその私に向かって可愛く開けた口は?


(……あー)


 なんとなく察した。

 うん、そういうことなの?


 私はもうワケがわからなくて、ほとんど無心の状態で箸を動かし、魚をつまみ……それを可愛らしい妹の口に突っ込んだ。

 ぷるりとした唇が箸をつまみ、魚を美味しそうに咀嚼した。


「……ホントだ、美味しいです!」

「そ、そう……うん、よかった」


 ニッコニコにご満悦なフウカさんに色々と言いたいこと聞きたいことはあるものの、私はとりあえずそれをぐっと飲み込んだ。

 上手く言えないが、なんとなくこのやり取りを無限に繰り返すことになりそうだから。


「……あの、姉様」

「うん? なぁに?」

「その、私って年の割には体が大きいですし、大人に見間違えられること……あるじゃないですか?」

「そう、だね。うん、性格もお姉さんっぽいし、何なら私もお姉ちゃんみたいだなーって思ってるぐらいだs

「それが嫌なんですっ! 私は!」


 おおっ、びっくりした。

 何だよ急に、危うく魚の骨ごと飲み込むところだったじゃないの。


 フウカはちょっと荒げた自分の声を気にしたのか、しばらく目を泳がせ、肩を落として呟き始めた。


「……私は、ヒナタ姉様の妹なんです。だから、その……」


 もじもじしながらフウカは、目を逸らしたり私を見たりを繰り返し、その果てに小さく言った。


「私だって、甘えたいっていうか……」

「──」


 思わず言葉を失った。

 初めは衝撃、次に目の前の大人びた妹の印象が崩れ去る恐怖に似たなにか、そして最後に私は……今までに感じたことがない感情を抱きつつあった。


「……ふ、ふふ」

「ね、姉様?」

「あっ、あははっ! うふふ駄目だあはひゃひゃっ! お腹痛い! お腹痛いから……うふふあははははっ!」


 駄目だ、おかしすぎる。


 だってそうだろう? 

 今まで大人ぶっていたボイン義妹が、いきなり自分に対して甘えたい? 

 妹として? 


 いやぁそんなの普段との差がありすぎて笑いたくもなってしまう。

 っていうか堪えるほうが毒だ、笑おう。


「なっ、何なんですか姉様!? 私、本気なんですよ!?」

「あー分かる分かる! わかってる、わかってるから……ほら」


 目尻の涙を拭い、顔を真っ赤にしたフウカに笑いかける。


 ぽんぽん、と。

 自分の膝を優しく叩き、手招く。


「おいで、お姉ちゃんが思う存分甘やかしてしんぜよう」

「──っ」


 うわ、なにその顔。

 すんごいぞくぞくするんだけど。


 いつも澄ました顔で私のことを見てたくせに、いきなりそんな初々しい顔するもんなの? 

 子供みたいな単純な理由で、子供っぽく恥ずかしがって……そして、ほら。


「じゃ、じゃあ……遠慮なく」


 ぎゅっ、と。


 初めは引き気味に、しかし一度触れてしまえば一気に抱きついてきて……ふにゃふにゃに体の力を抜いて擦り寄ってきた。


 何だこの生き物、ほんとにあのフウカか? 可愛い、今すぐこいつの頭をわっしゃわしゃに撫でまくってやりたい。


(た、耐えろ私……まだ姉として耐えるんだ……いやしかし……!)

「……姉様」


 邪なことを考えていただけに、私の方がビクゥ! と震える。


「な、なぁに?」

「絶対死なないでくださいね」


 脳裏をよぎり続けていた邪な思いが、日に当たった霧のように晴れていく。


 ぎゅっ、と。

 頭の後ろらへんを抱きしめ、ゆっくりと撫でる。


「頑張ります」


 茶化さず、誤魔化さず。

 私は妹との約束を、生きてこの家に帰ってくるという約束を結んだ。




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