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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第1章。妖界?
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9。妖力?

 先ほどまであった神棚は全て消え、そこに赤い着物を着た人が立っていた。


 この子が、御霊みたまの加護の持ち主かい? ……こちらに来て」


 声で聞こえてくるというより、頭に声が流れてくるような感覚だ。男性のような声のような低音。そしてどこか温かみがあり、心地が良い。


 頭から上着を被っていて、顔には狐面。人間らしいシルエットだか、素肌がでいるところが全くなく人間なのか? と聞かれるとわからない。腕をすっと出されて、声をかけてきた人の前に来るよう促された。そして、話していても狐面が動くことはない。口の動きで多少は揺れそうだが、全く動かない。




(私のことだよね。前に出たらいいのかな)

「……はい」


 地面に倒れ込んだままの私は、黒狐の手を借りて立ち上がり前に足を進めた。



 狐面の人の前に立つと、その人は私の胸の前に手をかざす。そうすると、金色のふわふわとした光がその人の手の周りから一気に現れる。


(なにこの光……イルミネーションとかそういうのとは違う輝き方!)



 しばらくキラキラとした光の中に包まれた。手を下ろされるとその光は散って消えていった。その光は、あたたかい光だった。それでも眩しい光だ。

 どこか懐かしいような、なんとも言えない気持ちになる光だった。



「500年に一度巡る、御霊みたまの加護の持ち主で間違いない」



「えっ」


 狐面の人は私と目を合わせた状態のまま、暖さんと話を始めた。狐面の奥にあるはずの瞳、というのが正しそうだ。狐面には、目元はくり抜かれていない。なので、狐面の奥にある目と合っているであろうとしか言いようがなかった。

 「ただ、まだ鍵を取り出すには弱すぎる」



「そうですか」



「今ここは妖力が低迷しつつある。 ……弱気を助け力を蓄えよ」



「はい」


「あ、あのう…… そこに、本人の意思は反映はしてもらえないのですか?」

 神様のそ狐面に少し怖さを覚え始めて、目線を外すために後ろを振りむいた。振り向いた先には、暖さんがいる。この部屋に入ってからはじめて暖さんとしっかり目があう。



「恋坡は、人間界に戻りたいのか?」



「それは、当たり前のことでは?」



 そんな当たり前のことを聞かれて、首を傾げるしかない。逆に、急に連れてこられて誰もすぐに首を縦には振らないだろう。そうとう人間界がいやだ、と思う人でなければ。



「なぜ戻りたい? 私が見た君の人間界での様子はあまり良くうつらなかった」



(神様ってのは、全て知ってるってわけね)



 ふうっと大きく深呼吸をひとつついて、暖さんから視線を外した。自分の家族を思い出す。自分には、出来のいい姉がいる。私は、認めてもらえていない。家族の中で、不要な存在だと自覚がある。

 そう考えるとだんだん目元が熱くなり、隠すように下を向いた。それが、きっと私の答えだろう。



「ここでは、君を必要としている。……君にしかできないことだ」


 私には、できるものは何もない。それは、ここの妖界でも人間界でも。それでも長いこと一緒に生活をしてきた、家族にすら認めてもらえていない。そんな私が、この世界でなら必要そんなはずはない。

 熱くなった目元は、次第に視界までも歪めてくる。



「俺が恋坡を必要としている。それでは、ここに居る理由にはならないか?」



 その言葉に思わず顔をあげた。私が、本当に必要?

 誰も私のことなんて、必要じゃないはずなのに。ここのことなんてもっと何も知らない。邪魔な人でしかないはずなのに。



「恋坡さま! 泣かないでください……」


(涙がそんなに出てる? 私、そっか。思っていた以上に、必要とされたかったんだ……)



「一度、ここで生活をしてみるといい。それでもやはり戻りたいとなれば、私を頼りなさい」



「私! ここでやれるだけやってみます。だから、暖さんっ……」

 

(不要になったら、ためらいなく私との縁を切ってください……!)




「不要になる時は来ない。そうやって自分に呪いをかけてどうする。……生霊になりたいのか?」

 暖さんは、私の心の中が見えているの? と思う程鋭い返しだった。



「違います!!」



「人間は面白いな。暖も愛を知るきっかけになりそうだ」



 そう言い残し、時音稲荷ときねいなりの神様は消えた。先ほどまであった神棚が元に戻っている。神様までも、人間は面白いという。そして、少し明るい雰囲気の声が頭の中に流れてきた。これからが楽しみだ、とでも言いたいようなそんな声だった。




(面白いって、妖たちもいうけど。当の本人は面白くないですが。

 それにこんなことで泣いて……恥ずかしい! 穴があったら入りたい気分!)



「恋坡さま、こちらをお使いください!」


 黒狐がハンカチを貸してくれた。



「あ、ありがとうございます」




 暖さんは、私が黒狐からハンカチを受け取り涙を吹き終わるのを待っていた。私は、涙を拭き終わって暖さんの方に顔を上げる。



「……話は、これで終わりだ。律のところに行く。恋坡もついて来い」




(ここにきて、あっちこっちに連れまわされてるんですが。まだどこかへ行くのですか……)


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