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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
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84。華燭のまつり

 私たちは、街を巡り戻ってきた時音稲荷神社の赤い鳥居をくぐり抜ける。時音様はいないが、地面にはいつもの時計の絵が描かれている。大きく描かれているので、この参列者全員が乗ることができそうだ。


 私は、何も考えずその時計の絵の中に足を入れようとした。その私を静止するように、暖さんに肩を抱かれた。優しく包まれるように片腕でぎゅっとされて、私は動きを封じられてしまい瞬きを繰り返した。私の目の前には、真っ黒の暖さんの袴だけになる。



 軽く風が巻き起こり、地面に振動が起こる。皆がその風に乗って行ってしまう。私たちは、皆のことを視線で見送った。抱かれた腕を離されて暖さんは、地面に小さめの時計の絵を描き始める。私は、狐面の小さな穴からその様子を見守った。



「恋坡」



 コーヒーの色が変わりそうなほどミルクを足した甘い声で、名前を呼ばれた。私が顔を上げて面ごしに視線が絡んだ。澄んだ青の光がちらつく。



「暖さん」



 私は、その瞳に吸い込まれるように足を前に出す。暖さんの足元の時計から、ふわりと温かな風が巻き起こる。私はゆっくりと瞳を閉じた。



 再度ぎゅっと抱きしめられて、瞳を開く。そこは、真っ赤に染まった血の桜の木だった。美しくも、生ぬるい風に靡いて桜の花びらが舞う。深紅の血に濡れたような真っ赤な桜の花びらは、自我を持つように私たちの周り踊り舞う。空には、まだ金の輝きを放つ太陽が顔を出している。




 太陽の光は、月光よりも花を透かしていて血の流れのように見えてくる。葉の中をどくどくと流れる血の巡りは、木の中を行ったり来たりして循環をしている。そんなことが、この一枚の葉から感じ取れる。




 暖さんの手のひらがひらりと落ちて、私の狐面を外し自分の面と重ねて地面に置く。袖に手をすぅっと中に滑り込ませて自鳴琴時計じめいきんどけいを取り出した。




 美しい赤の鮮やかな鳥居に小さな狐。私の首から下げていた鍵を取り出して、その自鳴琴時計に差し込む。鍵がぜんまいのようになり、カチチチッと音を立てた。勝手に回って、回り切ったのかぴたりと動きを止める。


 空からはらりと自鳴琴時計のドーム上に、真っ赤な桜の花びらが落ちてきた。風で微かに揺れて、鍵を撫でて一緒に舞い落ちる。鍵の重さがないかのように、花びらと同じ動きでゆらりとダンスを踊っている。地面につきそうになった時、血に染まった桜の花びらに飲み込まれて消えてしまった。




〜♪♪〜




 鍵が消えて、急に暖さんの手の中の自鳴琴時計が音楽を奏で始める。美しい音色と共に、青色の雪のラメがゆっくりと落ちてくる。粘度の高そうなゆったりとした煌めきに、私の目は輝く。




 一曲が終わると私たちの周りに、墨をぶちまけたかのような真っ暗の霧が足元にかかる。目の前が暗黒の霧に飲み込まれて、瞳をぎゅっと閉じた。霧の中は、呼吸もしにくくて息がつまる。


 私は苦しさのあまり、口を開いて呼吸をしようとした。その刹那に瞳を閉じていても感じるほどの、眩い光に包まれた。パッと目を開くと、太陽を背負った狐姿の暖さんが現れた。白い尻尾は、おとぎ話のような九尾になっていた。ふわふわと柔らかなしっぽが揺らめき、太陽の金の粒子が降りかかる様はとても神々しい。




「か、神様だっ…… 暖さん、しっぽが9つになっています!」



 私は、顔に華を咲かせて両手を口の前に持ってくる。踊った心は、弾む声となり暖さんの元に届いた。



「九尾の狐というだけで、稲荷の神様というのは時音様だけだ」



 狐になってしまうと表情の変化が少なくて、今がどんな顔をしているのかわからない。しかし、声が明るくて嬉しそうだ。ふわふわの尻尾を大きく揺らして、暖さんは人型になった。



(待ちに待った九尾姿だったのに、堪能しなくてよかったのかな?)




 そんな私の考えをかき消すように、暖さんにぎゅっと抱きしめられた。中の針金ごと綿帽子を外されて、はらりと落とされる。そっと触れるかどうかの力加減で、髪をなぞった。最後に愛おしそうな表情で、暖さんの瞳と同じ青色のかんざしに触れて指で弾かれた。


 視線がかんざしから私に移り、ついこぼれたというような柔らかい笑みに鼓動が過剰に反応する。



 耳で、自分の心拍の音を感じる。目で、暖さんからの愛情を感じる。柔らかな桜の香りに、心をふわりと飛び上がらせる。




 優しい温かい手が頬を包み、柔らかく弧を描く唇をそっと寄せた。瞳を閉じて、私はそれを受け入れる。柔らかく、温度を馴染ませる軽いキス。


 

 顔が離れていき瞳を開けると、目の前一面真っ赤な桜の色でいっぱいになる。気がつくと、徐々に私の白無垢が赤に染まっていく。薔薇の鮮やかな赤のようで、一瞬この赤の色が血で染まっていることを忘れてしまいそうになる。




「恋坡。自分のやりたいことをやればいい。やらなければいけないなんて、そんな事は存在しない」




 吐息のかかる程の距離で、お腹に貯まる低い声で話された。



「はいっ!」



「それと、そろそろ敬語とさん付けをやめてみようか」



 突然の申し出に、頬を紅潮させて息を吸うときに薄く唇を開く。私は深く息を吸い込み、肩がふわっと上がった。



「ぜ、善処しますっ!」




 もちろんそんな急に変えられる訳もなく、普段通りの言葉遣いで返事をした。いたたまれなく感じて、両手で私は顔を隠した。笑い声が聞こえてきて、私の頭に触れる手は羽を撫でるように優しかった。




(やっぱり私には、敬語を無くすなんて! ハードルが高く無いですか?)




 指の隙間から覗き見た暖さんは、口を開き心から笑っていた。その笑いに、初めて笑顔を見た時のことを思い出した。私は、隠していた両手を下に落とす。





 私は、ゆっくりとこの地で暖さんと歩いていく。そう思うと、頭を巡るより先に言葉が流れ出た。



「暖さん、大好きですっ! こんな私ですが、よろしくお願いします!」


 

「俺も愛している」



 ふわりと撫でる風、優しく包む暖さんの視線、鮮やかな色、全てが私を歓迎してくれている。甘い空間に溶け込んで、私も妖に住むひとりとして生きていく。




約2ヶ月間、本当にありがとうございました!

私ひとりきりでは、正直ここまで書ききれなかったと思います笑

コメント、感想、ブックマーク、いいねで応援をくださり、感謝しきれない想いでいっぱいです!!


暖というキャラを書きたいがために、産まれたお話です笑

え? そこからなの? と聞こえてきそうですが笑

作者は、この人物が頭に浮かんで頭を捻らせ調べまくって…… ようやく書ける段階になりました。

(前作を知っている方からしたら、あれ? おやすみ2日とかしかなくない? ですよね笑

 ーーふふふ笑 書きながらプロット組んでました笑)

 

今先は、次のプロットを全く作ってないので重たい腰を持ち上げなければ……笑

あ! 『宇宙大戦争!』 がまだ連載中ですね!

頑張って夢で生まれた話を書かなくては♪


後書きって、こんなどうでもいいことを書いてもいいのか。

ただの私の雑談欄になっていますね笑



それでは、また別のお話でお会いしましょう♪

本当にここまで、ありがとうございました!


ブックマーク、レビュー等々いつでもお待ちしております♪

作者の意欲に繋がるので、頂けると飛んで喜びます笑


                         白崎 なな

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