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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
82/84

82。真っ白!

私を真っ白な色で覆い隠し、見えるもの全てが白色に見えてくる。そのよそよそしい色に、心がそわそわとしてくる。

 全ての準備も整いお店の外に出ると、そこには正装を身につけた稲荷街の住民たちや天狗まで勢揃いをしていた。


 音もなくただ静かな光景に、薄く開けた唇をギュッと力を入れて閉じた。私の目の前に黒の袴を身につけた暖さんが、手を差し伸べる。


 ゆったりとした動きは相変わらず、優雅で美しい。揺れる服の先までが、上品で私の心までふわりと揺れる。


 暖さんの表情までは、綿帽子で見えない。それでも、その丁寧な仕草一つで暖さんも少し緊張感があるのかと感じた。

 

 ふわりと揺れた心を暖さんの手のひらに手を乗せて、体の中の芯を取り戻した。暖さんの手に導かれるまま、妖が引いてくれる人力車に登る。


 身動きの取りにくい中、暖さんが手伝ってもらいなんとか腰を下ろすことができた。


(あ、あんなに練習をしたのに! ぎこちなくて、恥ずかしすぎる!)


 頬紅の桃色を越すほど、自分の血色によって塗り替えていく。肩幅の広い大きな狐が、こちらに振り向いて軽く会釈をしてから人力車を持ち上げる。


 大きく揺れた人力車が、持ち上がったままぴたりと止まり人力車の前の雅楽隊が、音楽を奏ではじめる。その音楽に合わせて、太陽が登り始めた。


 霞彩かさいに空が染まり、空のグラデーションが音楽の華やかさを引き立てる。グラデーションがどんどんと進み、空がオレンジ色に変化した。

 普段であればゆっくりと色の変化を楽しむはずなのに、一曲が終わらないうちに空はオレンジ色に染まり上がる。ビデオを早送りにして見ているような光景だった。



(なんか、不思議な光景……)


 空の色を楽しむため、綿帽子のことなんて忘れて上を見上げて見惚れていた。ガクンと大きく人力車が動き出して、ようやく我に帰った。


 チラリと見た暖さんは、私のことをじっと見つめていた。私の視線と絡み、末広を握りしめる私の手の上にそっと添えられる。


 その手のぬくもりから、暖さんの優しさが滲んで私の体温と絡んだ。


 不思議な美しい空と温かな温度に包まれ、私はこの "華燭のまつり" の祝福を受ける。



 何度もこんなよく分からない世界に、足を下ろすことの不安がよぎった。それなのに、妖界の妖の温かさによりそんな不安は幾度となく払拭されてきた。


 何よりも、たくさんの妖からこんな自分を必要としてくれる。私ができること、そんなことは限られている。それでもやれることがあるなら、と奮闘して数日ここで生活をしてきた。


 そんな濃厚な数日のことを、人力車の揺れが思い出させる。足から伝わる振動が、私の心を揺すぶってくる。笛の切ない音に乗って、人間界でのことを思い出しかけた。少し俯いて、自分の手の上に置かれた暖さんの手を見つめる。


 ただ、そっと添えられたその手に救われる。悲しい記憶を私は、首を振ってかき消した。


 そうして、時音稲荷神社の鳥居が見えてくる。時音様がその前でひとり立って待っていた。人力車の前の雅楽隊が、左右にそれていく。そして、時音様の目の前には人力車に乗る私と暖さんだけになった。


 この後どうしたらいいかわからない私は、チラリと横目で暖さんの様子を伺う。私の視線を待っていたかのように、目が合うと前を向いた。

 私の手に重ねた暖さんの手を一度離し、人力車の椅子から腰を上げた。



 先に降りて、私に手を差し出す。



"もうここまできたら、後戻りはできないけど…… 本当にいいのか?"


 暖さんの視線は、そう言っているように感じる。少し心配なのか、眉を下げて少し唇に力がこもっている。




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