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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
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81。胡蝶蘭!

 私は、トントンっと肩を叩かれて目を覚ました。起きたてで焦点の合わない目を、擦って周りを見渡した。


「おはようございます。恋坡さま、しっかりとお休みになりましたか?」


 にこりと笑う黒狐と、ようやく頭がクリアになり目があう。妖界へやってきてから、毎日のように夢を見ていた。それにもかかわらず、昨日は全く見なかった。夢を見ないというのは、深い眠りだともいうので相当昨日の特訓が身体に負荷を与えたのだろう。


「おはようございます! はい、ありがとうございます! よく寝れました」



 軽く整えてもらってから、和さんのお店へ行く。私の隣でいつも寝ていた暖さんは、今日はいない。布団もないのでここでは寝ていないのだろう。

 下に降りて行っても誰もいなかった。チャポンっと水の音が滴り落ちる音が、台所から聞こえてきた。


 黒狐がさっと動いて、玄関を開けて外の空気が入ってきた。冷えた空気に肌がひりつく。

 普段は、陽が登っていて朝日が窓から差し込んでいる時間に起床をしていた。それが今は、紺青色こんじょういろの空だ。闇夜ではないので、陽が昇る少し前といったところだろう。



 冷んやりとした空気の中、黒狐も私も前を向いて静かに歩いている。日中の明るい妖の声は、今は静かで物寂しい。静かな空間に、ふたりの足音だけが響く。

 静かな空間だからか、そっと足を下ろしても砂利の擦れる音が響いて聞こえる。息も少し潜めて、静かさを守ろうとした。



 紺色の暖簾をくぐり和さんのお店に入った。中には、もうすでに忙しなく動く和さんと花さんがいた。


「恋坡ちゃん! おはよう」


 先ほどまでの薄暗く静かだったのが一変し、温かい行燈の光と柔らかな和さんの声がした。なごみという名だけあり、その場を和ませるそんな声質だ。


「おはようございますっ!」


 花さんは和さんの後ろから、顔をひょこりと出して手をひらひら振った。


 昨日とは違って、ゆっくり丁寧に着付けられていく。だんだんと重みを増していく着物は、緊張と相まって心にずっしりとその重さを感じる。


 美しく生きた華やかな胡蝶蘭を、綺麗にまとめられた髪につけられていく。真っ赤な紅をスゥッと引き、頬は柔らかな桃色の頬紅で飾られていく。

 

 耳元に白い胡蝶蘭から、柔らかなお花の香りがふわりと漂う。もちろんもらった、青の美しいかんざしも髪につけてもらっている。その青色が、周りの白の輝きを放つ胡蝶蘭に囲まれて存在感を放っている。


 花さんに、針金を髪に差し込まれて上から綿帽子を被せられた。きっちりと眉が隠れるほど深く被り、視線を遮られた。

 

 これにも意味があるようで、邪から守ってもらえるのだという。昨日着せてもらったよりもずっしりとした重みを感じて、背筋をぐっと伸ばして気持ちを引き締めた。


 だんだんと緊張で心拍数が、上がっていく。末広を手に握りしめて、自分が美しいと思う姿勢をとった。



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